(写真)富裕税導入のための「富裕・連帯税に関する国連ハンドブック」の表紙
20カ国(G20)リオデジャネイロ宣言や「国連枠組み条約」採択の動きは、公正な税制の実現のための国際協力、とりわけ富裕層課税を世界の表舞台のテーマに一気に押し上げました。
資本へ直接課税
富裕税に関する議論の高まりにはフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の功績があります。ピケティ氏は世界的ベストセラーとなった『21世紀の資本』で、資本主義においてますます高まる不平等を抑えるためには、資本に直接課税する累進資本税が必要だと主張しました。ピケティ氏はフランスのパリ経済学校設立の中心人物です。G20の要請にこたえて富裕税の「青写真」を提出したガブリエル・ズックマン氏はその教え子の一人です。
パリ経済学校に置かれ、ズックマン氏が率いる「欧州税務観察機関」が2023年に公表した「グローバル脱税報告2024」はズックマン氏の富裕税の「青写真」のもとになった報告書です。
「欧州税務観察機関」は欧州委員会が21年に設立した機関で、欧州連合(EU)から資金提供を受けていますが、独立した研究機関です。税務に関する最新の研究を行い、EUの税制戦略を支える役割を果たしています。
国際社会の課題
「グローバル脱税報告2024」は、個人や企業の国際的な課税回避・脱税に対するこれまでの国際社会の取り組みの成果とその到達点を分析し、今後必要となる課題を提案しています。
まず個人の税逃れについては、銀行口座などの情報を国際的に交換し合う「金融情報の自動交換制度」の実現によって、対策が大きく前進したことを評価しています。10年ほど前には世界の国内総生産(GDP)の約10%に相当する金融資産がタックスヘイブン(租税回避地)に隠されており、そのほとんどは課税を逃れていましたが、対策によって金融資産の税逃れは3分の1に減っています。しかし金融資産から海外の不動産にシフトするなどによって課税を避ける事例が増えており、抜け穴を防ぐ課題が残されています。
他方、多国籍企業の脱税・税逃れについては、「税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト」など対策が進められたものの、利益移転による税逃れは減っていません。多国籍企業が自国以外で上げた利益の35%(約1兆ドル=約150兆円)はタックスヘイブンに移転されており、それによってグローバルな法人税収の10%が失われています。
その分析結果をふまえ、報告書は▽超富裕者(ビリオネア)に対してグローバルな最低税率を設定すること▽国際的な法人税の最低税率を、15%(21年の国際合意)ではなく25%として、税率引き下げ競争を抑制すること―などを提案しています。
他方、国連の国際租税協力専門家委員会(以下、国連租税委員会と略称)でも富裕税のプランの作成が進められてきました。国連租税委員会は国連の経済社会理事会の下に設置されている組織で、国連事務総長に任命された25人の租税の専門家で構成される委員会です。
国連租税委員会は、21年から4年間の討議を経て、富裕税のプランを審議し、今年、「富裕・連帯税に関する国連ハンドブック」として公表しました。ハンドブックは富裕税導入のための案内書となっており、導入の理由、その類型、実務的なガイダンス(手引き)などを詳細に解説しています。富裕税の法案化のためのひな型も示しています。
(つづく)

