「台湾有事は存立危機事態になりうる」。高市早苗首相の答弁(7日、衆院予算委員会)をめぐり、日中関係が極度に悪化しています。高市氏の発言は、日本が攻撃を受けていなくても米軍の戦争に参戦できる安保法制=戦争法の危険をまざまざと示しました。
戦後の歴代政権は、日本が武力行使できるのは「我(わ)が国に対する急迫不正の侵害」の場合に限られ、海外で他国の戦争に参戦する集団的自衛権の行使は違憲だとしてきました。
解釈を変更
ところが、第2次安倍政権が2014年7月の閣議決定で、「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合=いわゆる「存立危機事態」で武力行使が可能だと憲法解釈を変更。15年に強行した安保法制で、存立危機事態における武力行使(集団的自衛権の行使)を可能としました。
これまでの政府答弁では、中国による台湾の武力統一=いわゆる「台湾有事」が存立危機事態に該当するかどうかについて、可能性は認めてきたものの、明言はしてきませんでした。
ところが、高市氏は「(中国による台湾近海での)海上封鎖を解くために米軍が来援する、それを防ぐために何らかの武力行使が行われるといった事態も想定される」と答弁。「台湾を中国・北京政府の支配下に置くために…戦艦を使って、武力行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうる」と明言したのです。自衛隊が米軍とともに軍事介入し、日本が中国に対する参戦国になる可能性を認めた重大答弁です。
これは仮定の話ではありません。米軍は台湾情勢をめぐって軍事介入を繰り返しており、1950年代には核攻撃まで計画していました。95~96年に、中国は初の台湾総統選を妨害するため、台湾近海にミサイルを発射。これに対し、米軍は空母や爆撃機を台湾海峡に急派し、中国を威圧しました。(第3次台湾海峡危機)
米国は54年から台湾と軍事同盟を結び、79年に中国と国交を正常化して同盟を破棄した後も、国内法である「台湾関係法」に基づき関与を継続しています。
第3次台湾海峡危機を受け、日本政府内では、日米安保条約に基づく共同作戦の検討に入るべきだとの意見(96年3月15日、梶山静六官房長官)も出されましたが、海上自衛隊元幹部は、当時は法的にも能力面でも限界があり、「同僚はみんな黙っていた。話題にすることを避けていた」と証言します。
廃止は急務
しかし、今は違います。法的な口実となる安保法制が存在し、能力面でも、中国艦船や中国本土まで攻撃可能な長射程ミサイルの配備が進められています。日本を守るどころか、緊張激化をもたらしている安保法制廃止、大軍拡ストップは、いよいよ急務になっています。
高市首相“台湾有事参戦”発言の愚
「互いに脅威にならない」はずだが
日中の原則逸脱
(写真)衆院予算委員会で答弁する高市早苗首相=7日、国会内
「台湾有事」を巡る高市早苗首相の国会答弁は、日中両国が積み上げてきた平和友好の諸原則を逸脱し、ふみにじるものです。
日中国交正常化に伴う1972年の「日中共同声明」は、日中が「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力または武力による威嚇に訴えない」と確認。「両国のいずれも、アジア・太平洋地域において覇権を求めるべきではなく、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国あるいは国の集団による試みにも反対する」と宣言しています。
これと同様の文言は78年の「日中平和友好条約」、98年の「日中共同宣言」にも明記されています。
また、これら三つの文書は、いずれも「主権および領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等および互恵並びに平和共存の諸原則」の上に平和友好関係があることを確認しています。
こうしたことをふまえ、2008年に当時の福田康夫首相と中国の胡錦濤(こ・きんとう)主席が交わした「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」は、「三つの文書の諸原則を引き続き遵守(じゅんしゅ)すること」を確認。「双方は、互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならないことを確認した」と明記しました。
台湾問題について、日中間でどのような確認がなされたのでしょうか。
1972年の「日中共同声明」では、中国は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する」とし、日本は、この中国の立場を「十分理解し、尊重する」と明記。その後の各文書でも、この見解が引きつがれています。
「十分理解し、尊重する」とした文言をめぐっては、さまざまな解釈が存在します。一方、中国は明確に「台湾は中国の一部」であるとの立場を示しており、中国から見れば、台湾は「内政問題」となります。
だからといって、中国の台湾に対する武力行使や武力による威嚇は許されません。日本共産党は、台湾海峡の平和と安定は、地域と世界の平和と安定にかかわる重要問題であり、平和的解決を強く求めています。台湾問題の解決のためには、台湾住民の自由に表明された民意を尊重すべきであり、中国の台湾に対する武力行使や武力の威嚇に反対します。同時に、日本や米国の武力介入にも反対します。「危機」をあおり、緊張を激化させ、大軍拡の口実にすることは許されません。
“安全保障の基本逸脱”と元外交官
外交失態明らか
歴代政府は、台湾有事と「存立危機事態」の関係について「個別具体的な状況に即して総合的に判断する」(24年2月2日の参院本会議、当時の岸田文雄首相)などと特定の地域を明らかにするのを避けるのが従来方針でした。高市首相の「台湾有事は存立危機事態」発言は、政府方針からも逸脱しています。
安倍晋三氏は首相辞任後に「台湾有事は日本有事」と発言しましたが、首相としては歴代政権同様、踏み込んだ発言を避けていました。中国が台湾を「核心的利益」と位置づけており、そうした発言をすれば、日中関係が悪化すると分かっていたからでした。米国でさえ「台湾有事」で軍事介入するかどうかについて外交上は「あいまい」路線を維持しています。今回の高市首相の発言は明らかな外交的失態です。
18日には、外務省の金井正彰アジア大洋州局長が日中局長協議で、日本側の立場を説明。しかし、高市答弁の撤回を求める中国側と、答弁は撤回しないという前提に立つ日本側との協議は平行線に終わりました。
いまは言葉による応酬や、中国による経済的な圧力強化の段階ですが、このまま長期化すれば事態はエスカレートし、危険な段階に入ることは明らかです。答弁撤回以外に道はありません。
事態の収束を図るために元外交官からも発言の撤回を求める声があがっています。元外務審議官の田中均氏は18日のユーチューブ配信で、「地理的概念を入れないのは安全保障の基本だ。どこが対象になると、敵をつくるような愚かなことをやってはならない」と批判。「高市首相は国会の場で先般の発言を撤回すべきだ。『政府の方針は総合的な判断をすることで、地名を挙げたのは不用意だった。謝罪して撤回します』と言えば、日本が立場を変えたことにならない」と強調しました。
■日中関係に関する4文書(日付は署名・発表日)
1972年9月29日 日中共同声明
78年8月12日 日中平和友好条約
98年11月26日 平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言
2008年5月7日 「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明

