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2025年11月19日

富裕税を考える(1)

ビリオネア課税の青写真
政治経済研究所主任研究員 合田寛さん

 多国籍企業の利益を優先する新自由主義的グローバル化が世界中に貧困と格差を広げる中、グローバルな連帯で富裕税を導入しようという機運が高まりつつあります。歴史的転換の動きとその背景について、『富裕税入門』(共著)を執筆した合田寛・政治経済研究所主任研究員に寄稿してもらいました。(6回連載です)


写真

 世界で富裕層課税の動きが高まっています。きっかけは2023年、20カ国(G20)サミットの議長国となったブラジルのルラ大統領が、(1)飢餓・貧困・格差との闘い(2)気候変動との闘い(3)グローバル・ガバナンスの変革―の3本柱をサミットが取り組むべき課題として掲げたことにあります。

 これを受け24年、同国のアダジ財務相が富裕税を提唱。カリフォルニア大学バークレー校教授である経済学者ガブリエル・ズックマン氏にそのプランの提出を求めました。

低い税負担率

 ズックマン氏がG20の要請にこたえて提出した富裕税の「青写真」の内容は、10億ドル(約1500億円)超の資産を持つ超富裕層(ビリオネア)を対象にして、その保有資産に最低税率として年2%の税を課すというもの。対象者は世界で約3000人、想定される税収は1900億~2400億ドル(28・5兆~36兆円)と見込まれています。

 ズックマン氏は超富裕層に対して富裕税を課す理由として、所得に対する超富裕層の税負担率が勤労者よりも低い事実を挙げています。日本では所得の上位層で税負担が下がる「1億円の壁」が問題となっていますが、他の多くの国でも同様の現象がみられるということです。富裕層の税負担を所有する富に対する比率でみるとさらに低く、1%にも満たない超低税率となっています。

 ズックマン氏の富裕層課税の提案は、最富裕層に対象を絞ったビリオネア課税だけではありません。ビリオネアの富に対する2%の税率は逆進性を是正するための最小限の課税であり、課税対象者の拡大や、より高い税率を適用する選択肢も提案されています。たとえば課税対象資産の下限値を1億ドル(約150億円)とすると課税対象となる富裕者は6万5000人となり、これらの富裕者の資産に3%の税率を課すと、総額で5500億~6900億ドル(82・5兆~103・5兆円)の税収が得られるという試算も示しています。

 ビリオネアに対する富裕税の提案に対して、G20の中でも新興国だけでなく、フランスなど先進国も賛成し、国際通貨基金(IMF)などの国際機関も支持の姿勢を示すなど、導入の機運が高まりました。これらの動きを受け、24年7月にブラジルのリオデジャネイロで開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議において、ズックマン氏の「青写真」を取り入れた「リオデジャネイロ宣言」が採択され、11月のG20首脳会合でも確認されました。

不平等減らす

 「宣言」は▽累進課税が国内の不平等を減らし、財政政策の持続性を高める中心的な手段であること▽国際的な税の協力が、累進的な税制を効果的に実施する各国の努力を強めること―を強調しています。

 「宣言」は個人に対する富裕税だけでなく、多国籍企業に対する効果的な課税の進展にも期待しています。これまでG20と経済協力開発機構(OECD)が取り組んできた「税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクト」、およびその後、約140カ国が参加して取り組まれた「二つの柱の改革」(多国籍企業からの税収の再配分と法人税の最低税率の設定)の成果を評価するとともに、その上に立って富裕層課税を導入することを展望しています。

 さらに「宣言」は、国連で取り組まれている租税協力に関する「国連枠組み条約」の議論の進展にも期待しています。

 (つづく)