「きこえない・きこえにくい」選手たちの国際スポーツ大会、第25回夏季デフリンピックが15日から12日間の日程で、約80カ国・地域、3000人を超える選手が集い、東京を中心に始まりました。
大会の開催を、世界の選手の活躍や交流とともに、言語やコミュニケーションの障壁をなくし、共生社会を築くための大きな一歩としていきましょう。
デフリンピックは、きこえないを意味する英語の「デフ」と「オリンピック」を合わせた造語です。その歴史はパラリンピックよりも古く、第1回夏季大会は1924年のフランス・パリにさかのぼります。今回は100周年を記念する節目の大会で、日本での開催は初めてとなります。
■広告代理店使わず
陸上、水泳、テニス、バレーボールなど21競技が実施され、競技のルールはきこえる人のスポーツとほぼ同じです。デフアスリートは耳からの情報が入ってこないため、陸上や水泳では「スタートランプ」でスタートを知らせ、サッカーでは審判が旗を持って、多方面から選手に判定を伝えます。
条件の公平性を期すため、選手は補聴器などを使用できません。選手同士の声によるコミュニケーションが難しいため、団体競技ではアイコンタクトや手話を使って連係します。陸上男子円盤投げ日本記録保持者の湯上剛輝(まさてる)選手のように、一般の世界選手権などに出場した選手も世界から参加します。
今大会は広告代理店を使わず、東京都と大会運営委員会を置く全日本ろうあ連盟が運営の中心を担っています。大会経費130億円は公費のほか、民間企業に協賛を呼びかけるとともに、一般の支援者を募る「デフスポーツ・サポーター制度」をつくるなど独自の工夫・努力を重ねてきました。
デフリンピック運営委員会委員長の久松三二(みつじ)さん(全日本ろうあ連盟事務局長)は本紙のインタビューで「東京五輪・パラリンピックが多くの課題を残しました。私たちはみんなで大会をつくっていかなくてはいけないと考えました」と、「草の根から、仲間と一緒につくるスポーツ大会」を目指していると話しました。その運営のあり方にも注目が集まります。
■手話言語に触れる
大会に欠かせないのは手話です。約100人の国際手話通訳者を含む約240人が支えます。
デフアスリートには、観客からの声援や拍手が届きません。目で見える応援スタイルとして、「サインエール」という視覚に訴える応援の形がつくられています。手話では、両手を上げて顔の横で手首をひらひらさせる動作で「拍手」を表します。今大会ではこれをベースにした応援が考案されるなど、観客が手話言語に触れる機会にもなります。
社会はまだ「きこえる」ことが前提でつくられています。「きこえない・きこえにくい」人の人権が尊重され、「きこえない・きこえにくい人」と「きこえる人」が共に生きる社会のために、この大会が大きな一歩となることを呼びかけます。

