狂気や殺気、滑稽味や実直さ。心の奥底にうず巻く感情を、目力や表情だけでなく、体中から放つような役者でした。人間を演じるということは非常に難しいが、それが生きがいだったと▼俳優の仲代達矢さんが亡くなりました。黒澤作品をはじめ数々の映画やテレビドラマ、舞台に出演。悪役から善人まで幅広く「どんな悪いやつも人間としてのまっとうさがある。人間はいとおしみ合えるもの」だと信じて▼12歳で終戦を迎え、家は貧しく定時制の高校へ。昼間は小学校の用務員として働き、将来思い描いていた職業は平凡なサラリーマンでした。ところが大学受験に失敗。学歴に関係のない仕事を探したところ、役者の道に▼生きる背骨となったのは、ひもじく、死の恐怖にさらされ続けた戦争の記憶。山の手空襲では、はぐれた少女の手を引き必死に逃げ惑い、気が付けば片腕だけを握っていたという強烈な体験も。「戦争だけは二度とやってはいけない」▼反戦平和の信念は日本共産党や「赤旗」への共感となり、いつも励ましを。「戦争中も弾圧に屈さず、反戦を貫いた人たち。以来、私は共産党のファンです」。党創立100周年に寄せてくれたメッセージには、軍拡にうつつを抜かす与党に立ち向かってほしいとも▼役者は生涯修業だと無名塾を主宰。後進の育成に力を注ぎました。晩年は人に優しい「和顔愛語(わげんあいご)」を戦争と対置し、反戦劇「肝っ玉おっ母と子供たち」が最後の舞台に。人間とは。それを探し求めた92年の生涯でした。
2025年11月13日

