ニューヨーク市民は「弱肉強食型資本主義」に明確な拒否の意思を示しました。ゾーラン・マムダニ氏―ウガンダ生まれ、インド系イスラム教徒、民主的社会主義者を公然と名乗る34歳の州議会議員―が、市長選で歴史的勝利を収めました。彼の訴えは生活苦にあえぐ労働者階級の切実な声に根ざしたものでした。
■生活感と階級意識
マムダニ陣営はいまのアメリカを、強者が富を独占し、政治がそれを支える構造だと批判し、家賃の値上げ凍結、無料バス、だれもが利用できる保育、市営スーパーの実現、財源は巨額の利益を得ている富裕層・ビジネス界への課税強化で生み出すという政策パッケージを対置しました。
「政府の仕事は、実際に私たちの生活をよりよくすることだ」を合言葉に、労働者、移民、若者、低所得の家族に“変革の主体として立ち上がろう”というメッセージを送りました。
選挙戦の特徴は何よりも草の根の力でした。9万人のボランティアが参加し200万戸以上の戸別訪問をしたといいます。陣営幹部は“市民自身が政治を担う力となる”を目標に据えたと述べます。マムダニ現象は経済的公正を求める市民の怒りが再び政治を動かす力となった象徴です。
トランプ政権の分断政治も争点となりました。マムダニ陣営は「恐怖と憎悪」ではなく、「連帯と希望」で街を再生すると呼びかけました。マムダニ氏自身が、差別と排除に反対する「多様性の象徴」として、自らの出自を包み隠さず語ってきました。
何より、ガザの惨状を「ジェノサイド(集団殺害)」と呼び、“(イスラム組織)ハマスの代弁者”などと攻撃されながらも、即時停戦、パレスチナ人民との連帯を訴え続けた点は注目に値します。討論会でも大争点の一つとなりましたが、他候補と比べ国際的な正義と公正な秩序を求める同氏の姿勢は鮮明でした。
■分断を乗り越えて
トランプ大統領は彼を「狂った共産主義者」とののしり、補助金を削ると脅しています。しかし、この攻撃はかえって反発を招きました。米メディアでは、マムダニ氏への支持は、政治的分断をあおるのではなく、生活実感に根ざした階級的訴えによって広がったとの指摘が出ています。
この勝利は、民主党にとっても大きな意味を持ちそうです。予備選で敗北し、無所属で出馬したクオモ前知事らに代表される党内主流派に代わり、マムダニ氏やサンダース上院議員に象徴される民主的社会主義の潮流が、党の将来に大きな影響を及ぼす段階に入ったことを予感させます。欧州でも、極右の台頭と激しくたたかいながら、反緊縮や反軍拡、反排外を掲げる左派勢力が再び支持を得ています。ニューヨーク市の経験はその米国版とも言えます。
マムダニ市政の前途は容易ではありません。金融資本、不動産業界、保守派メディアが包囲網を築くことは必至です。しかし、同氏の背後には、政治に参加し、生活を変えようとする新しい市民の力が生まれています。分断と格差を乗り越える草の根からの取り組みが注目されます。

