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「スパイ防止法」と戦争準備 弁護士 中谷雄二さん
公安警察の市民監視に拍車 治安維持法の再来許さない

写真 中谷雄二弁護士

なかたに・ゆうじ 1955年京都府生まれ。弁護士。秘密保護法対策弁護団共同代表、「秘密法と共謀罪に反対する愛知の会」共同代表。自由法曹団常任幹事。著書に『大垣警察市民監視事件 「もの言う」自由を手放さないために』(共著)『リコール署名不正と表現の自由 民主主義社会の危機を問う』(共著)など。

自民党と日本維新の会の連立政権合意には「スパイ防止関連法制」について「25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」と明記しています。同法の危険性について、大垣警察市民監視違憲訴訟の原告代理人を務めた中谷雄二弁護士に聞きました。(伊藤紀夫)

―高市早苗首相は、臨時国会で同法制定を求める国民民主党の玉木雄一郎代表の代表質問に対し、政権合意に基づき早急に検討を進めると答弁しました。どう見ますか。
「スパイ防止法」は「戦争する国づくり」の一環です。高市首相は所信表明演説で「中国、北朝鮮、ロシアの軍事的動向等が深刻な懸念になっている」と名指し、米国の要求に従って軍事費のGDP比2%を今年度中に前倒しし、来年度中に「安保3文書」の改定を目指すと述べました。今進めている長射程ミサイルや弾薬庫の配備、米国との共同演習などは、敵視する国への挑発行為と言えます。
これと「スパイ防止法」は裏表の関係にあります。戦前、治安維持法、軍機保護法、国防保安法など戦時弾圧法が、国民の目、耳、口をふさぎ、侵略戦争に動員したのと同じ構図です。
高市首相は「『スパイ防止法』は、外国政府勢力によるスパイ活動を規定し、監視し、必要があれば逮捕する事ができる法律です」とXで発信しています。具体的な犯罪行為を処罰するのではなく、スパイを定義して見つけ出し処罰する法律ということです。
近代刑法の大原則は、誰がやったかという人の属性ではなく、犯罪行為に対して刑罰を科すというものです。「スパイ防止法」は、この原則に反する重大な問題があります。
参政党の神谷宗幣代表は「共産主義者がはびこらないように治安維持法をつくった」と正当化し、公務員について「極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」と言っています。
このように、スパイと見なされる人間は政権にとって都合の悪い人間、政府や企業活動に反対する人たちが対象になると思います。高市首相の発言

―大垣警察署の公安警察が市民を監視した事件で、名古屋高裁は昨年9月、警察の市民運動への情報収集活動を違法として収集した個人情報の抹消を命じる判決を下し、警察が上告を断念し確定しました。公安警察と「スパイ防止法」の関係をどう見ますか。
大垣警察事件で監視対象にされたのは普通の市民です。大垣市の山の尾根に16機もの風力発電機を設置する計画に対し、環境への悪影響を心配した予定地付近の住民が学習会を計画したことが発端です。これがなぜ、市民の日常生活を監視し、だれと会っているか、どういう人間関係か、何の病気でどこに通院しているのか、学歴はどうか、などを調べあげなければならないのか。公安警察は監視し、聞き込みし、尾行して、個人のプライバシーを侵害する情報を違法に収集したのです。
判決は「(原告らの活動は)極めて正当な行為で」「非難されるべきものではなく、むしろ推奨されるべきものも含まれている」と述べ、憲法が保障する個人の権利や自由に干渉する権限の乱用として警察の情報収集活動を断罪しました。
この裁判で戦後の公安警察と戦前の特高警察の捜査方法の教科書を調べると、驚くべきことに全項目で同じことが分かり、証拠として提出しました。特高警察の手法が現在の公安警察に引き継がれているのです。
連立政権合意は、内閣情報調査室を格上げした「国家情報局」や米国のCIA(中央情報局)にならった「対外情報庁」の創設を明記しました。自民も維新も「諸外国と同水準のスパイ防止法」を掲げ、死刑など重罰化を求めています。

行動の写真

「スパイ防止法」や大軍拡に横断幕やプラカードを掲げて反対のアピールをする総がかり行動参加者=10月19日、衆院第2議員会館前

警備局外事情報部長を務めた公安警察あがりの北村滋元国家安全保障局長は、戦争に負けて日本から奪われた外事警察の本来の役割であるスパイ対策機構を取り戻すという発想から「防諜(ぼうちょう)法規が未(いま)だ整備されない」と嘆き、内閣情報調査室の「局」への格上げも主張しています。
何がスパイかも分からないまま死刑を科す法律ができれば、法的根拠なしに違法な監視、尾行、情報収集をしている公安警察に強大な権限を与え、プライバシー侵害が当たり前の恐ろしい社会になると思います。

―5月に成立した「能動的サイバー防御法」では、警察官職務執行法が改定され、「サイバー執行官」を警察庁長官が指名し、長官や警察本部長が指揮する規定を盛り込みました。この権限拡大をどう見ますか。
この法律は、国家がネット上の全情報を機械的に奪い取ってサイバー攻撃の危険を察知したら、他国のサーバーに侵入して先制攻撃するという憲法違反の問題とともに、戦後の警察機構を変える問題があります。
警察庁長官は行政の指示はするが、捜査の指揮権限は持たないのが、これまでの仕組みでした。これは戦後、1945年10月に特高警察を廃止し、中央集権的な国家警察を公安委員会と自治体警察中心の制度に変えたからです。
それが今回の法律で警察庁長官が指名し指揮する構造に変えられました。これは、45年12月に特高警察に「代わるべき組織」として公安警察を設置したことに加え、国家警察が名実ともに復活する危険性を示すものと言えます。
「スパイ防止法」で「国家情報局」や「対外情報庁」ができれば、「能動的サイバー防御法」でつくられた入り口からさらに進んで、警察庁長官が直轄し公安警察が中心に座る組織に変わっていくと思います。
名古屋高裁が昨年8月、警察にDNAデータの抹消を命ずる判決を言い渡した事件で1月、警察庁と交渉しました。その際、警察庁のデータベースは指紋、顔写真、DNA型がばらばらに管理されているので、統一化する作業をしていることが分かりました。監視機構を監督・指揮する中央直轄システムをつくろうとする危険な動きです。

―公安警察のやりたい放題を許してはなりませんね。反対の声を広げるうえで今、何が大切でしょうか。
排外主義をあおり悪法を推進する悪い雰囲気がつくられる今、事実を知らせ、説得していく活動を広げる以外ありません。
10月13日に名古屋市で学習会を開いたら、参加者が120人を超え、会場いっぱいになりました。その後、三重県の鈴鹿市、愛知県の瀬戸市、岡崎市から学習会の依頼が来て、運動が広がりだしています。
治安維持法、特高警察の再来とも言える悪法の危険性を知らせ、熱を込めて一緒に運動しようと呼びかけていこうと思っています。

「スパイ防止法」に関する自民・維新の連立政権合意
▽スパイ防止関連法制 25年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる
▽「国家情報局」「国家情報局長」を創設 26年通常国会で内閣情報調査室、内閣情報官を格上げ
▽「独立した対外情報庁」を創設 米国のCIAにならった機関 27年度末までに
▽情報要員育成機関を創設 27年度末までに
▽「国家情報会議」設置法を制定 内閣情報会議を発展的に解消 26年通常国会で