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薪ストーブ排煙 トラブル続出
健康被害考慮し規制検討を

「毎年、冬が近づくと憂鬱(ゆううつ)になり、夜もうなされる」。そう話すのは千葉県船橋市に住むAさん。隣接のB社事務所からの薪(まき)ストーブ排煙に3年間苦しんできました。会社と交渉しても「裁判で」と言われ、市や県は法令上の「権限がない」と規制しません。こうしたトラブルは各地であり、広報で近隣住民への配慮を求める自治体が増えています。(ジャーナリスト・松宮敏樹)

 Aさんが苦しんでいるのは、薪ストーブ燃焼により発生する、黒煙と異臭です。

薪ストーブ(撮影・片桐資喜)

 「朝、強い臭いが漂い、見ると煙突から黒煙が上がっている。臭いが付くので洗濯物、布団等の外干しもできない。窓も開けられない。異臭で気持ちが悪くなり、ストレス症状がひどくなる」と言います。

煙と異臭に悩んで

北風が吹くと排煙は南隣のAさん宅を直撃します。日常生活への影響ばかりか、健康上の被害も。Aさんはストレスによる胃炎やノイローゼにもなり、一昨年にはAさんの夫がそれまでは検査で指摘されなかった心臓疾患で手術を受けました。排煙との因果関係は不明ですが、排煙が心肺機能や気管支などに悪影響を及ぼすことは医学的にも確認されています。

「第一種中高層住居専用地で、周辺環境もよかったのに―。私たちは薪ストーブ禁止ではなく、住居密集地での使用を制限してと言ってるんです」とAさん。条例制定などを求めて市長や市議会に要望書、陳情書を提出しました。

市議会への陳情は委員会で日本共産党以外の議員の反対で不採択に。それでも共産党議員の求めで市が動き、市職員立ち会いのもとで会社との話し合いが実現しました。

しかし、結局は会社が「もう話し合いはしない。あとは裁判で」と通告してきました。Aさんは他の選択として千葉県公害審査会に調停を申請しましたが、これも会社が調停自体に応じないために打ち切りに。今はさまざまな対応を検討しながらも「このままではいつ精神的、肉体的に破綻するか分からない」という不安な状態です。

全国で社会問題に

Aさんのような事例は、全国の自治体でも問題になっています。

大きな字で「トラブル多発中」と警告し、「薪ストーブを適切に使用していますか?」と問いかけるのは北海道苫小牧市の広報紙です。「薪ストーブ由来の煙やにおいについて、市へ寄せられる相談件数も増えています」と近隣への配慮を求めています。

東京都清瀬市は広報で、薪ストーブ設置を検討している人にたいし、(1)設置場所を専門家と慎重に検討し、季節の風向で排煙が隣家の窓に向かう場所はさける(2)煙突を可能な限りまっすぐ高くする(3)事前に近所に説明し理解を得る工夫をする、近所からの苦情で使用できなくなる場合もある―と指摘しています。

すでに設置している場合は、(1)点火時に煙や煤(すす)が発生しやすいので近所の生活時間を考慮して、夜のみ使用などの工夫をする(2)薪を慎重に選定し、しっかり乾燥させ、雨にぬれない場所で保管する、建築廃材やごみなどの焼却は都条例違反―などと警告しています。

このほか、煙突や機器の定期的清掃や燃料効率の高い機種の選定―などを求める自治体広報も多数あります。

 

化学物質問題市民研究会代表

  藤原寿和(としかず)さん

薪ストーブは、木が大気中のCO2を吸収していることから「環境にやさしい」暖房機器と宣伝され、使う人が増えています。地球環境にとって森林は重要ですが、木を燃焼させた時にはCO2以外にさまざまな有害物質が発生することを認識すべきです。

とくに点火時は不完全燃焼が避けがたく、一酸化炭素、揮発性有機化合物(VOC)、多環芳香族炭化水素(PAH)、粒子状物質(PM)などが発生します。木に付着する物質によっては硫黄酸化物、ダイオキシンなども含まれます。欧州や米国では健康被害を考慮して機器や排煙などの規制基準を定めてきました。さらに近年では都市部での使用禁止など法的規制を強めています。

しかし、日本では薪ストーブに対する防火対策の基準はあっても環境面での規制がない。大気汚染防止法でも対象外です。日本でも自治体にこれだけ苦情が寄せられる状況なので、行政が実態を調査し、住宅密集地などでの規制を検討する時期だと思います。