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- とくほう・特報
- 2026.10.23
推進ありきのデジタル教育
子どもの心身守れ
授業中にユーチューブ 自宅持ち帰りゲーム 生成AIで宿題

家でタブレットを使う子ども
ICT(情報通信技術)を活用した教育が本格化し、スマートフォンなどでAI(人工知能)を使う子どもたちの低年齢化も進んでいます。正式なデジタル教科書が2030年から小中高校で順次導入され、紙の教科書と併用される見込みです。政府は「ICTをとにかく使え」と推進一辺倒ですが、子どもの発達や健康に悪影響が心配されます。学校の現場はどうなっているのか、問題を探りました。(伊藤紀夫)
全国に先駆けてタブレット授業を推進してきたさいたま市。小学4年生の算数で平行四辺形の面積の求め方について考える研究授業のとき、タブレットを日頃から使いこなしているある子が「こんなのググれば簡単じゃん」と言いながら、タブレットに公式である「底辺×高さ」と書いて提示しました。
検索すれば答えはすぐ分かるという子どもにどう対応したらいいか、先生も困ってしまったと言います。

金井裕子さん
これは全日本教職員組合の金井裕子書記長がこの学校の教師だったときに遭遇した授業のひとコマです。
「子どもたちは、平行四辺形の面積を求めようという課題に対して、形を変え、すでに求めることができる長方形の形にしたいと考えます。図に補助線を入れ移動させたり、統合させたりします。実際に紙を切ったり貼ったりして、子どもたちは五感を使い、話し合いながら、結果的に公式にたどり着いていきます。もちろんタブレットのよい面もあります。しかし、今の教育現場は、ICTありきで、これが万能であるかのような流れになっており、とても危惧しています」
こう語る金井さんは、続けます。「子どもたちは、登校すると、自分のタブレットに体や心の状態、朝ご飯を食べたかなど、自分に合った項目を選んで先生に送信します。これで子どもたちの心や体の状態を把握できると思ったら大間違いです。市教委の斡旋(あっせん)でリクルート社のスタディサプリが導入されたことがありました。当時、講師が一方的に話す動画を見ながら、『やだ~、塾みたい』と子どもたちは辟易(へきえき)していました。私たちは、目の前にいる子どもたちの願いや思いに寄り添ってやりとりする授業を追求しています。子どもたちも、そんな授業を望んでいるのです」
■思考力が低下

吉田雅人さん
「さいたま市の学校と教育を考える市民の会」事務局長の吉田雅人さん(76)によると、同市のある小学校で今年、許可なく撮った友達の写真を共有し広げていたことなどが分かり、この学年のタブレット使用が3週間停止されました。
同会は、これはどの学校で起きてもおかしくないと考え、子どもたちのタブレット利用の実態調査を行いました。調査結果(回答数124件)によると、タブレットをほぼ毎日持ち帰る子どもは小4~6年生で42%、中学生で50%、教師の管理なしに休み時間に利用している子どもは小中全体で8割近くにのぼります。
学習塾を開いている吉田さんは言います。「小学校ではタブレットが遊びの道具になっています。授業中にユーチューブを見たり、ゲームで遊んだり、写真を撮ったりする子もいる。自宅に持ち帰って長時間ゲームをやる子もいて、母親が注意すると反抗するので、困っている。宿題も生成AIを利用して提出する子もいる。端末の長時間利用、依存度の高まりは深刻です。書いた文字が乱れていて判読できないなど、読み書き能力の低下、思考力の低下も、とても心配です」

デジタル教科書を正式に認める改定学校教育法について審議した6月9日の参院文教科学委員会で、日本共産党の吉良よし子議員は小学生の保護者らの声をとりあげました。
「タブレット教材のひらがなの練習で、小さな『や』とかを書くときに、4等分した小さな枠の中に確実に入るように書かないと、何度書いてもバツになる」「それを繰り返す中で子どもが勉強嫌いになった」
吉良さんは「紙や鉛筆での読み書きをする時間が減少することによって、読解力や思考力が低下する」という専門家の声も紹介。その一方、視覚障害、発達障害などを持つ子どもたちが文字の拡大、色やフォントの変更を使用することなど、子どもが有用なデジタル機能を活用できるようにすることを求めました。
こうした教育現場の心配をよそに、高市早苗政権はAIも活用したデジタル教育に前のめりです。中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の教育課程部会が5日に了承した学習指導要領改定に向けた「審議まとめ」では、小学校からAIを学ぶなど情報技術教育を拡大する方針です。
■欧米では規制
一方、デジタル教育を推進してきた北欧諸国では、その弊害が報告され、紙の教科書を復活させる動きが広がっています。フィンランドでは25年8月から小中学校でのスマホ使用を法律で制限しました。韓国では25年の法改正でAIデジタル教科書を「教育資料」に格下げしました。米国では、16州が1人1台端末を制限する法案を提出し、法律が成立した州もあります。
スマホやSNS、AI、オンラインゲームの子どもの利用を規制する動きが、オーストラリアや欧州、米国で広がっています。
米国では8月、「フェイスブックやインスタグラムが子どもたちを意図的に依存させ、精神的健康に害を与えた」とIT大企業のメタが訴えられた訴訟で、48州・特別区と3地域に計180億ドル(約2兆8700億円)を支払うことで和解合意。利用時間の上限を1日合計2時間、夜間や授業時間中の通知オフなどの機能が導入されました。ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長は9月、市内公立小中学校の生徒を対象に生成AIの使用を原則禁止すると発表しました。
■相談や治療を
国立病院機構久里浜医療センターのネット使用・ゲーム行動に関する全国調査(25年に実施、26年に報告書)によると、病的使用の疑いはインターネットが6・2%、SNSが1・7%。ゲーム行動症の疑いが3・8%でした。若年層(10~29歳)では、ネットが14・5%、SNSが5・8%、ゲームが10・3%で、高い割合になっています。

樋口進さん
同センター名誉院長の樋口進さんは「ネット関連のいろいろな依存のなかで、疾病として世界的に認められているのはゲーム依存だけです。だから、今回の調査ではネットやSNSは『病的使用』にしています。ゲーム依存が一番研究されていますが、動画依存やネットのポルノサイト依存なども薬物やアルコールの依存と同じような行動パターンを示しています。SNS依存も研究が盛んなので、今後、依存症と認められる可能性は大いにありえると思います」と語ります。
樋口さんは、SNS依存を引き起こす要因として、依存を誘導している企業戦略を指摘します。たとえば、「いいね」とか「ハート」などの数が多いほど、報酬処理に関連する脳の領域に強い影響を与えています。「人に認められたい、自分の人気を上げたいなどの欲求が現実社会で満たされない中で、SNSでそれをエスカレートさせることはよくある」と言います。
樋口さんは依存性を高める要因として、次の点も指摘します。▽ユーザーの好み
を記憶して興味あるコンテンツを「無限スクロール」で現れるようにするアルゴリズム(作業手順)▽仲間外れにされる不安から投稿を気にかけ、スマホから離れられなくなる社会的プレッシャー―などです。
樋口さんは「これだけ子どもがネットやゲーム、SNSを過剰に使っているときに、父母が相談できるところは非常に限られ、治療の施設は増えてはいるものの、患者さんたちの数には到底追いつかない状況です。やはり、政府が音頭をとって、相談や治療、教育の人材育成も含めて拡充し、問題を起こしている業界をしっかり指導していくべきです」と話しています。

