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- 2026.07.14
高市「成長戦略」はバラ色か
関西大学名誉教授(財政学) 鶴田廣巳さん
軍事力強化が主眼の官民投資 失政反省し国民本位に転換を

鶴田廣巳さん
高市早苗首相は「強い経済」の実現に向けて「日本成長戦略」を打ち出し、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)原案に「責任ある積極財政」に基づく「抜本的な転換」を盛り込みました。原案には「財政健全化」の文言も消え、9日にも長期金利が約30年ぶりの高水準となるなど、市場では財政悪化や物価高への懸念から「骨太ショック」との声があがっています。高市首相が総選挙中からバラ色に描く経済政策をどう見るか、財政学者で関西大学名誉教授の鶴田廣巳さんに聞きました。(伊藤紀夫)
―高市首相は、圧倒的に不足している国内投資の促進に向け、官民が連携して「危機管理投資」「成長投資」を促進することで「強い経済」「投資と成長の好循環」を実現できると言います。本当でしょうか。
6月24日の日本成長戦略会議と経済財政諮問会議の合同会議では、想定する官民投資の規模について、2027年度から40年度まで14年間の累計で370兆円超とされました。単年度では平均約26兆円です。
一方、安倍政権(13年)から石破政権(24年)まで12年間の経済対策による財政支出とその事業規模を見ると、それぞれ278兆円、486兆円にのぼります。単年度平均では、それぞれ23兆円、41兆円です。
高市「積極財政」のもとで想定されている投資額と比べ遜色ないどころか、事業規模でははるかに上回り、「国内投資の圧倒的不足」とは到底いえません。
これほど巨額の財政支出を行いながら、「衰退途上国」などと指摘される経済の衰退を招いたのは、自民党政権の経済失政以外の何物でもありません。高市「積極財政」は、そのことに対する反省と検証を欠いた無責任な政策です。
―高市首相は「戦略17分野」で62の「主要な製品・技術等」の官民投資が370兆円を超えることを「大変野心的な内容」と期待感をあおっていますね。
官民投資によって「強い経済」を実現すると宣言されると、国の経済力の低下や円安、物価高、実質賃金の低迷などに直面し閉塞(へいそく)感を強めている国民には、現状の打破と将来への希望をもたらす強いメッセージに聞こえるかもしれません。
しかし、高市首相の言う「日本列島を、強く豊かに」というスローガンは、あくまでも「日本の総合的国力」の強化をめざして「安全保障政策の抜本的強化」「インテリジェンス(情報の収集・分析)機能の強化」を図ることが主眼です。
「積極財政」は軍事力強化のための経済的基盤を強めることに据えられています。国民の暮らしの抜本的改善は視野に入っておらず、せいぜいガソリン価格補助といったばらまき型対策にとどまっています。
しかも、17分野の企画責任者が各省大臣であることから、官民投資の内容は各省庁の企画の寄せ集めで総花的性格が強く、あまりにも多くの分野・項目に投資が分散する結果、細分化、小規模化、非効率化し、成果につながるか疑問です。
実際、安倍政権のもとで進められた官民ファンドはいずれも失敗に終わっています。昨年5月に発表された会計検査院の報告では18法人が運営する23の官民ファンドのうち14ファンドが赤字であり、累積損失が約1900億円、今後さらに3000億円超の損失が予想されます。その教訓はどこまで生かされているのでしょうか。
―経済と財政が危機にある中、官民投資拡大のための財政方針の転換は、国民に累を及ぼすのでは?
政府は、骨太方針原案で「責任ある積極財政」のもと「強い経済」と「財政の持続可能性」を両立させる観点から、国・地方の総債務残高の対GDP比の安定的低下を中核に位置づけています。
プライマリー・バランス(PB=政策的経費を税収でまかなえるかを示す指標)については、これまでの単年度で黒字をめざすのではなく、複数年で管理するとしました。財政健全化の目標をPBから債務残高の対GDP比に切り替え、PBの赤字も容認する方向に転換したわけです。
「日本成長戦略の下での中長期的な経済・財政の姿に関する試算」では、「成長戦略実現ケース(1)」と同ケース(2)、「現状投影ケース」の三つのシナリオを設定し、40年度までの経済財政状況が示されました。
それによると、債務残高対GDP比が27年度以降も低下し続けるのはケース(1)の場合だけで、ケース(2)でも35年度以降には、上昇する結果になっています。「現状投影ケース」では29年度を境に上昇に転じ、27年度の180%台半ばから40年度には200%近くまで上昇する見込みです。
高市氏は、都合よくケース(1)だけを取り上げているのです。
試算では金利については示されていません。「つなぎ国債」で財源を確保するという別枠投資も、試算に織り込まれていません。
そのため、金利上昇や別枠投資のための国債増発などを考慮に入れると、債務残高のGDP比の安定的低下は到底望めなくなるでしょう。高市首相の「積極財政」は財政の持続可能性を著しく危うくする恐れがあり、「責任ある」と言えるものではありません。
―無責任で危険な政策の転換には何が必要ですか。
わが国の経済財政を立て直すには、まず「アベノミクス」(安倍晋三政権の経済政策)の総括と清算を抜きには不可能でしょう。高市首相の「サナエノミクス」は軍事に傾斜したアベノミクスの二番煎じです。
安倍政権の時はデフレ(物価下落)で、財政出動してもインフレ(物価上昇)にならないどころか、2%の物価上昇目標も達成できませんでした。今はインフレですから、財政出動すればインフレを加速しかねず、財政構造の抜本的改革、つまり歳出構造と税制の根本的見直しが必要です。
膨張する軍事予算の削減、社会保障、教育・科学、暮らしとなりわいの予算の拡充とともに、財政規律、財政民主主義を徹底させる改革が求められます。
―骨太方針原案は、全国平均1500円達成の最低賃金目標を「2030年代前半」に後退させました。
健全財政の再生と経済の立て直しは車の両輪です。 その点では、最低賃金の全国一律での大幅引き上げと中小企業に対する経営支援の拡大、実質賃金の大幅な引き上げ、非正規労働の正規化などの促進こそ求められています。
原発政策の根本的見直で再生エネルギーを主軸とした地産地消型の地域経済の活性化、円安是正に向けて日銀の独立性を強める金融政策の正常化も必要です。
米国言いなりの軍拡と大企業優遇の官民投資計画から、国民本位の政策に転換することこそ、経済再生に不可欠だと思います。
つるた・ひろみ 1947年、福岡県生まれ。関西大学名誉教授。日本財政学会顧問。日本租税理論学会理事長を歴任。著書に『グローバル時代の法人課税と金融課税』(租税資料館賞受賞)など。

