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介護保険法改悪の本質は
岐阜県下呂市社保協会長 日下部雅喜さん
人口減を口実 全国で給付抑制 事業継続へ公費で処遇改善を

人口減少・中山間地などの介護保険サービスの人員配置基準を緩和したり、保険給付を外して自治体事業に移行させる介護保険法改悪案が18日にも参院厚生労働委員会で可決されようとしています。審議で明らかになった法案の問題点について、人口が減少する中山間地である岐阜県下呂市の下呂市社会保障推進協議会会長(大阪社保協介護保険対策委員長)を務める日下部雅喜さんに聞きました。(内藤真己子)

 

日下部雅喜さん(武田祐一撮影)

―国会審議を通じて、人員基準を緩和する「特定地域サービス」が全国に広がりかねない危険が明らかになりました。

政府は、中山間・人口減少地域について、介護サービスの人員配置基準を緩和する「特定地域サービス」を創設するといいます。高齢者人口の減少やサービス需要の減少を挙げていますが、一番の理由は「生産年齢人口の減少」です。

15歳から65歳までの生産年齢人口はここ30年、全国的に減少しています。介護職員は今年度25万人も不足しています。背景に、介護職員の賃金が全産業平均と比べ、月8・2万円も低いことがあります。賃金格差を公費で是正する抜本対策が必要です。ところが政府は対策を怠り、「人手がますます足りなくなるから人員基準を緩める」と言っているにすぎません。きわめて安易な発想です。

「特定地域」の基準は審議会で検討すると答弁していますが、同地域がどんどん拡大していく可能性があります。政府の規制改革会議は、「特定地域」の範囲を「過度に限定しない」よう求めていました。このことを日本共産党の辰巳孝太郎衆院議員が質問すると、厚労省は、人口が減少していない市町村でも、その一部を特定地域に指定することがあり得ると答弁しました。県庁所在地など地方都市の一部区域にも広がる可能性があります。

―人員配置基準の緩和の具体的要件は、審議会で検討するとしています。

管理者や専門職の常勤、専従要件、夜勤要件を緩和します。サービスの質は担保するなどと答弁していますが、人員配置基準を切り下げたら業務が過重になります。賃金が低い上、負担が重くなれば、参入してくる人はおらず、離職者が増え事業継続できません。

そもそも、消滅したり「残り1」の自治体が2割を超えている訪問介護は人員基準が緩いのです。ホームヘルパーが常勤換算で2・5人以上、訪問介護計画を作るサービス提供責任者が利用者40人に1人と定めているだけです。常勤者2人と非常勤1人の3人で開業できます。これ以上緩和すれば安定的にサービスを提供できません。

―「特定地域サービス」に月単位の定額報酬を導入することで、中山間地の訪問介護の移動経費に対応するとしていますね。

確かに移動経費への対応は必要ですが方策が間違っています。下呂市は面積約851平方キロメートルに約2・8万人が暮らし、六つの訪問介護事業所がカバーしています。利用者宅へ赴くのに片道20分~30分かかるのも珍しくありません。他方で東京都区部は下呂市より小さい約628平方キロメートルで人口は999万人。訪問介護事業所は約3300カ所です。人口密度が違うので、同じ訪問介護でも移動距離・時間に大きな差があります。

中山間地の訪問介護は、移動に介護報酬が算定されないうえ、1日に対応できる件数が少ないため収益があがりません。ところが訪問に使う自動車の維持費やガソリン代など、都会より経費がかかります。また介護報酬単価は、家賃や給与水準を反映するため、中山間地は都市部より低く設定されています。訪問介護の1単位の単価は下呂市10円、東京都区部は11・40円で14%増しです。中山間地の事業所は収入が少ないのに経費がかかる構造です。

そのもと移動経費に独自支援をしている自治体があります。下呂市でも今年度から1回の訪問ごとに距離に応じ250円~1500円を補助しています。同市は補助制度の説明資料で、地域性による「移動コストの増大」とともに、国が2024年度に訪問介護基本報酬を引き下げたことが「追い打ちとなり、中山間地域におけるサービス維持が極めて困難な状況にある」と指摘しています。国はただちに報酬削減を元に戻すべきです。

また共産党の白川容子参院議員は法案審議で、中山間地域の報酬単価を東京並みに引き上げることや、移動時間を考慮した報酬上の仕組みを求めていました。中山間地の事業所支援は、こうした方向で対応するべきです。

定額制で報酬単価が低く設定されれば、利用者にとって利用回数の制限につながりかねません。このことは、この法案に対する衆議院厚生労働委員会の付帯決議でも指摘されています。要支援1・2の訪問介護と通所介護を自治体の事業に移した「総合事業」も定額制ですが、事実上、回数が決められ利用制限になっています。

―人員配置基準を緩和しても民間事業者が事業継続できない場合、在宅サービスを保険給付から外して自治体の事業(特定地域居宅サービス等事業)にするとしていますね。

この事業の対象は要介護認定で要介護1~5と認定された人で中・重度者を含みます。ところが専門職など人員配置の規定はありません。これまで要介護認定者に無資格者が在宅サービスを提供することはできませんでした。中山間・人口減少地域では、要介護でも有資格者による在宅サービスが受けられないというとんでもない事態です。規制緩和どころか規制外しです。

保険給付は人員配置や単価など決まった基準があるので、利用人数が増えれば連動して給付は増えます。ところが事業は予算に上限があります。総合事業は75歳以上の高齢者人口の伸びの枠内に事業費を抑えるとされました。そのもとで要支援1、2の人のサービスは質・量ともに抑制されています。たとえば大阪市では、要支援の人の訪問介護は、単価が25%も低い「緩和型サービス」が増えています。「特定地域居宅サービス等事業」にも上限が定められることになっています。事業費を上げられないため、安上がりなサービスに誘導されます。

今回の改悪は「人口減少」を口実に全国規模で、(1)人員配置基準の緩和による保険給付の縮小、(2)自治体事業による保険給付外し―を、なし崩し的に拡大する歴史的な大改悪です。最後まで改悪を許さない声を国会に届けていきましょう。

中山間地で介護分野は雇用を創出しています。実際、下呂市でも雇用が増えているのは医療福祉分野です。他産業以上の賃金で都市部より高い労働条件が保障されれば、自然豊かな環境の地域で、高齢者介護や障害者福祉の仕事に従事する若者は潜在的に存在します。公費で全産業平均との格差を埋める施策が急務です。政府は法案は撤回し、事業継続へ真の人材確保策をすすめるべきです。

くさかべ・まさき 1956年岐阜県生まれ。日本福祉大学卒業後、堺市役所勤務。定年退職後、ケアマネジャーや佛教大学社会福祉学部非常勤講師(福祉行財政論等)を歴任。共著に『ケアという地平―介護と社会保障法・労働法』『「自立支援介護」を問い直す』など。