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- とくほう・特報
- 2026.06.17
シリーズ介護崩壊 介護サービス継続無理
人口減少地域で人員基準を緩和する改悪案 今こそ処遇改善必要
山梨 南アルプス市の現場から
在宅介護のかなめ・訪問介護事業所がゼロや残り1の自治体が過疎地を中心に2割を超え、「介護崩壊」が進んでいます。政府が2024年に介護保険の訪問介護基本報酬を2~3%引き下げたことが崩壊を加速させました。ところが政府は、報酬引き下げは撤回せず、高齢者人口減少地域の人員配置基準を緩めたり、要介護の人まで保険給付から外し、安上がりな事業に置き換えることで介護サービスを継続させるとしています。その内容を盛った介護保険改悪法案の審議が参院で始まっています。人口減少地域の介護基盤は保たれるのでしょうか。(内藤真己子)

女性利用者を訪問し、薬を貼り替えるホームヘルパーの雨宮さん=4日、山梨県南アルプス市
標高3000メートル級の南アルプスのふもとに果樹園が広がる山梨県南アルプス市(人口約7万人)。平日の正午前、サクランボや桃の畑に囲まれた農道をホームヘルパーの雨宮智子さん(53)が軽自動車で走り抜けます。十数分かけ、95歳の男性が暮らす公営住宅に着きました。男性は新型コロナ肺炎にかかって飲み込む機能が衰え、胃ろうから栄養をとっています。
「おなか張ってませんか?」「大丈夫」。雨宮さんは男性の上体を起こし腹から出た管に注射器で流動食を入れていきます。「胃ろうをするか、死ぬほど悩んだけど妻に勧められてね。おかげで栄養はとれてます。ヘルパーさんはありがたい」。男性はホッとした表情です。妻が施設に入り1人暮らし。子どもは他県におり、1日3回の訪問介護が命をつないでいます。
支援を終えると雨宮さんは再び車を走らせます。約20分。農家で、障害のある70代の女性が待っていました。同居する弟は果樹の集荷場で働き、日中は1人です。女性を車いすに移乗させるとシーツを取り換え、洗濯機を回します。昼食を準備し、食事を介助。シーツを干し、最後にオムツを交換して1時間の支援を終えました。女性は30代まで施設で暮らしていました。「家が一番。ヘルパーさんはみんな良いです」
集落が点在する同市。利用者宅への移動にはヘルパーが運転する自動車で平均15分程度かかります。しかし移動時間に介護報酬は支払われません。ガソリン代が高騰し燃料費は2倍近くかかっています。物価高騰にたいし行政から支援金や臨時交付金が支給されましたが、見合っていません。
雨宮さんは3年前まで、南アルプスの登山口にある標高600~700メートルの芦安地域にも40分近くかけて訪問介護に通っていました。「冬はガードレールのない急坂が凍結し、水道が凍って風呂をわかせない日もありました。それでも待っている人がいたから」。利用者が入院し派遣が中止になって以降、同集落にはサービス提供をしていません。「24年度に訪問介護報酬が引き下げられ経営は苦しい。移動の40分があれば1軒入って報酬が得られる。依頼があってももう行けないと思う」
雨宮さんが勤務するやまなし勤労者福祉会ヘルパーステーションももその(全日本民医連加盟)は、ヘルパー9人(常勤5人、非常勤4人)で50人弱を訪問しています。報酬引き下げの24年度は7%の減収になり、翌25年度はさらに減収が拡大しました。高齢ヘルパーの退職が相次ぎ、欠員を補えなかったからです。「今いる職員で必死になって利用者の生活を守ろうとしていますが、非常に苦しい現状」と所長の河野由紀さんは打ち明けます。
他産業に流れる
「賃金で他産業に勝てる要素がない」。同ヘルパーステーションのほか複合介護サービスを運営する共立介護福祉センターももそのの渡邊健一統括センター長は苦悩を語ります。昨年市内に出店した大手倉庫型店舗は、パートの時給が1570円。やまなし勤労者福祉会の介護福祉士の時給1140円をはるかに上回っていました。「有資格のヘルパーは一人で利用者さんの自宅を訪問する大変な仕事です。大雪でもスコップを担いで訪問するしコロナ感染者には防護具をつけて行きます。公定価格で運営しているのに給与が上げられない」

介護現場の実情を訴える(左から)山田さん、河野さん、渡邊さん=4日、山梨県南アルプス市
「“包んでいた方がまし”と介護職の間でうわさになっているんです」。風呂敷に見立てたパッケージで知られる地元銘菓の製造パートの方が、ヘルパーの時給より高くなっていると語るのは、同法人傘下のヘルパーステーションほほえみ(笛吹市)の山田真希所長です。「24年の報酬引き下げで、賃金が今後上がる展望が見えないと、有資格者が他産業に流れてます。国は介護報酬の臨時改定で1人最大1万9000円の処遇改善と言いますが、全産業平均より月8万円低い水準はそのまま。処遇改善で賃金は上げられても、事業所の経営は改善されるわけではない」と山田さん。
政府は、訪問介護基本報酬引き下げを撤回しません。そのもとで、高齢者人口が減少する市町村を「特定地域」に定め、在宅介護や施設の管理者や専門職、常勤・専従要件、夜勤要件など人員配置基準を緩和しようとしています。介護報酬は月単位の定額制を導入、事業者の選択制にします。
南アルプス市の人口は2010年をピークに減少しています。いまは増加している高齢者人口も、40年以降は減少に転じる予測です。将来的に「特定地域」に規定される可能性があります。人員基準の緩和で事業は継続できるのか?
「過疎地で事業所がなくなっている要因は、報酬引き下げを含め事業経営が困難だから。引き下げはそのままで、人員基準を減らすから事業継続しろと言う国の姿勢には、もう怒りしかありません。事業所がなければ必要なサービスは受けられません。暮らす場所によって受けられるサービスに差が生じることは、全国標準の介護保険制度であってはならない」。渡邊さんは訴えます。「少ない人員で同じ業務をこなすと業務が過酷になり職員はやめてしまう」「方向が真逆だと思います」。河野さんも山田さんも口々に語ります。
定額制はどうか?「確かに収益の目安が立てやすいメリットはあります。一方、報酬が低く設定されれば、利用者さんに必要な援助回数が確保できなくなる」と渡邊さん。
赤字で人数制限
また同法案では、「特定地域居宅サービス等事業」を創設します。民間事業者が撤退し、基準緩和サービスすら提供できない地域で、要介護1~5の認定者に対する在宅サービスを保険給付から外し、市町村が行う「地域支援事業」へ移行させるもの。介護保険の財源を使います。
軽度者の要支援1、2の訪問介護とデイサービスは、すでに保険から外され自治体の「総合事業」に移されました。「ももその」も「ほほえみ」も総合事業を請け負っていますが、保険給付と違って事業費に上限があり、報酬は保険給付より低く設定されています。両事業所とも総合事業は赤字。受け入れ人数を制限せざるを得ません。
「特定地域居宅サービス等事業」には人員基準がありません。山田さんは、「要介護5の人にも無資格者による介護サービスが可能になります。考えられません。介護保険制度が全面的に壊されていく大きな問題があります」と訴えます。

