40、漁業・水産業
沿岸漁業の振興で水産物の安定供給と漁村地域の再生をはかります
2024年10月
四方を海に囲まれ、変化に富んだ海岸線をもつ日本は、沿岸・沖合を中心に多様な漁業を発展させ、豊かな魚食文化を育んできました。海洋法条約の下で海に対する沿岸各国の権利が強まるなど大きな変化はありますが、わが国の排他的経済水域(EEZ)は世界6番目の広さがあり、豊かな水産資源に恵まれており、漁業・水産業を地域の基幹的な産業として発展させる条件は十分にあります。
そのなかで沿岸・小規模漁業は、新鮮な魚介類の提供とともに藻場・干潟・砂浜の保全、海洋ごみの撤去、海難・災害救助、都市住民への憩いの場の提供など国民にとってかけがえのない役割を果たしています。
日本共産党は、小規模・沿岸漁業の振興を水産政策の中心に据え、国民への水産物の安定供給と国土や環境を保全する漁業・漁村地域の再生に全力をつくします。
大きな困難に直面する沿岸漁業と漁村
いま、わが国の漁業・漁村は、水産物の輸入増加による魚価安、海洋環境の悪化や海流の変化などが重なり大きな困難に直面しています。漁業生産量はこの20年間で35.5%も低下しました。漁業従事者もこの30年間で6割減少し、65歳以上が4割近くを占め、漁村集落の過疎化や高齢化が広がっています。
「魚がまったく獲れない」「サケが戻ってこなくなった」―――。主要魚種で記録的な不漁が続いていることも深刻です。スルメイカの漁獲量はピーク時の97.1%減、サンマは同92%減、サケは同77.7%減などという危機的事態です。燃油高、資材高なども重なり、沖合を含む中小漁業経営の多くが廃業の危機に直面しています。
一方、国民の水産物消費は減り続けています。勤労者の実質所得の減少や消費税の10%増税はそれに追い打ちをかけました。燃料をはじめあらゆる資材の高騰も、養殖などの漁業・水産関係者に打撃を与えています。
沿岸漁業と漁村に危機を招いた歴代自民党政治
わが国漁業の困難、とりわけ漁業経営体の94%を占める沿岸・小型漁業の経営危機は、歴代自民党政府の経済・水産政策に重大な責任があります。
歴代政府は、海岸の埋め立て、コンクリート化、河川にダムや河口堰をつくるなど大企業優先の開発政策で沿岸の漁場、干潟を大規模に破壊してきました。国内の漁業振興をないがしろにする一方でTPP(環太平洋連携協定)や日欧EPAなどで水産物の輸入自由化を進めています。その結果、食用魚介類の自給率は1963年の113%から2022年の52%へと半減しています。それに拍車をかけているのが、自公政権が2018年に行った戦後漁業法の大改悪でした。
「改正」の柱の第一は、漁業権の優先順位の廃止です。沿岸漁業者や漁協等が優先的に行使してきた養殖・定置漁業の漁業権の原則を廃止し、利益第一の外部企業が自由に参入できる道を大幅に広げました。
第二は、漁業者や漁協が自主的に取り組んできた資源管理や、自治体などによる共同の取り組みを軽視し、政府が上から漁獲可能量(TAC)を設定して現場に押しつけるやり方を広げようとしていることです。漁獲割り当ての配分が大型漁船に優遇され、沿岸の小規模漁業者の配分が著しく不利になりかねません。2018年以来続くクロマグロの漁獲枠配分が大中型まき網漁業などに手厚く、沿岸漁業者には極めて少なかったことは、それを先取り的に示しています。
第三は、沿岸漁業の漁業権の調整などに漁民の参加、意見の反映を保障してきた海区漁業調整委員の公選制を廃止したことです。
いずれも、漁業の「成長産業化」の名のもとに大企業や大型漁船経営の利益を優先し、圧倒的多数を占める沿岸小規模漁業者の権利や利益を踏みにじる内容です。安倍政権(当時)の「企業が最も活躍しやすい国」づくりの一環であり、海や浜を私的企業に差し出すものにほかなりません。
小規模・沿岸・家族漁業を中心に据える水産政策を
世界をみると、水産物の需要が増大し、漁獲競争の激化、開発による漁場の環境悪化などで水産物の需給はひっ迫しています。日本は水産物を輸入に頼るのではなく、国内資源を最大限に生かしながら、水産資源の実態にあった持続可能な漁業を発展させ、国民への水産物の安定供給、自給率の向上をめざすことこそが重要な課題です。
国連はSDGs(持続可能な開発目標)や「家族農業の10年」を発表し、小規模漁業者の生活圏や生存権に配慮した水産政策の実施を求めています。これに伴い国連は2022年を「小規模伝統漁業・養殖年」に設定していましたが、国内では特に取り組みの強化はなされませんでした。
日本共産党は、小規模・沿岸漁業者と沖合漁業者が互いに尊重しあう、持続可能な水産業をめざします。国は沿岸と沖合の漁業調整に責任を持ちます。日本の主権を確保しつつ国際的な資源管理を適切に進めます。資源の減少など沿岸漁業の直面する困難を打開するため、科学的知見や漁業者・関係者の知恵を総結集し、必要な予算や人員を政府の責任で確保して漁業・漁村の再生に総力をあげます。
福島原発事故のアルプス処理水(放射能汚染水)の海洋放出を中止し、被災地の沿岸漁業を再生する
東日本大震災から11年。被災地の漁業・水産業は、漁港、魚市場などのインフラ、漁船などの整備は進みましたが、その後も、各地で台風・津波・豪雨などの災害・施設被害が相次ぎ、サケ・サンマ・スルメイカ等の記録的な不漁、コロナ禍による需要減や観光客の減少、燃油高などが重なり、困難が続いています。水産加工業者も原料の魚が手に入らず操業縮小を余儀なくされ、震災からの復興で借りた資金の返済が重くのしかかっています。被災地の経済の柱である漁業・水産業の復興、漁業者の経営安定が軌道にのるまで支援することは政治の責任です。
原発事故の影響が甚大な福島県の沿岸漁業の回復はとりわけ困難です。そのなかで政府が原発事故のアルプス処理水(放射能汚染水)の海洋放出を強行したことは重大です。被災地の漁業者はもちろん、「全国の漁業者の総意として、絶対反対」という全漁連の決議を踏みにじる暴挙です。常磐沖の漁業の未来を奪うだけでなく日本の漁業・水産業の全体に深刻な打撃を与えずにはおきません。
――放射能汚染水の海洋放出は中止する。各方面から提案されている代替案を含め科学的知見を総動員して処理方法を確立する
――きめ細かい放射能調査、河川・湖沼の除染を国の責任ですすめ、魚介類の安全の保障、漁業再開への条件を整備する
――漁業関係者にたいする東電による休漁の保障、施設の復旧費用の賠償とともに、操船・漁獲・加工技術の維持・継承などへの助成を国の責任ですすめる
――被災地の水産物の販路拡大のため加工・流通業者への支援を強める
――サケ・サンマ・スルメイカ等の資源減少、ホタテ等の貝毒の原因などの科学的調査を進める。そのために自治体等の必要な予算の確保、試験研究機関の体制の充実などに対し政府が財政支援する。瀬戸内海の不漁に関し、低質環境を含む海洋環境の状況を調査し、改善のための手立てをとる。
――地域の条件変化にあった養殖の開発などへの支援を強化し、つくり育てる漁業を推進する
――漁業と水産業を一体にした震災からの復旧を早急にすすめる。グループ補助金の適用期間の延長と要件の見直し、実態にあわせた返済の猶予制度を創設する
不漁、災害、燃油高などに苦しむ漁業経営を支援する
主要魚種の記録的な不漁、台風や津波、火山噴火による漁場の荒廃、燃油や資材価格の高騰が続き、漁業・水産業は深刻な危機に直面しています。困窮する漁業経営を支援することは漁業水産業の存続にとって喫緊の課題です。
――不漁続きで休漁・減船に追い込まれようとしている漁業経営に、資源が回復するか、魚種転換で新たな収入の見通しが立つまでの間、経営・生活が成り立つよう新たな支援制度をつくる
――政府の責任で魚価安定対策を強化し、産地魚価の下支え対策を強める。豊漁や需要減などによる魚価下落を防ぐため漁業団体などが行う調整保管を支援する
――漁業共済・積み立てプラス制度における国負担の拡大による掛け金負担の軽減、要件緩和などで中小漁業者が加入しやすくする
――不漁の長期化で漁業者・水産加工業者が魚種転換や漁獲対象の複数化などを選択する場合、沿岸・沖合の漁業者間の調整を行いながら、必要な設備や施設への投資、原材料の確保、販路拡大への支援を強化する
――魚価安と餌料費等の養殖資材の高騰などで困窮する養殖業者への支援策をとる
――台風・津波などによる甚大な被害など想定外の災害にたいするセーフティネットの仕組みを構築する。
沿岸漁業・漁村の多面的機能発揮の取り組みを支援する
沿岸漁業の果たしている国土や環境をまもる多面的な役割は、地元に多くの漁業者が暮らし、共同で漁場を管理してこそ発揮されるものです。そのためにも漁村経済の振興、生活環境の整備は欠かせません。
――漁業・漁村の環境や国土を保全・維持するために生活インフラを整備する、共同で海業の再生等に取り組む集落を支援する「離島漁業再生支援交付金」を充実し、環境や生態系の維持・回復をはかり、多面的機能を増進させる地域活動への支援制度を強化する
――国の予算の使い方を、漁業者の所得や水産物・加工品の販路の確保、地産地消の推進、産地水産加工の振興などを重視する内容に組み換える
――若い新規漁業就業者に一定の期間、生活費を補てんする国の制度を、補てん期間の延長などの拡充を行い、漁業への若い人の就業と定着をはかる
――河川、湖沼環境を回復し、内水面漁業の振興をはかる
――密漁、違反操業にたいする国による監視体制を強める。プレジャーボートなど遊漁業者による漁獲に対する調整・協力を広げる制度をつくる
新漁業法を見直し、資源管理は地域や魚種におうじた沿岸漁業者等の自主的取り組みを尊重する
大型漁船経営を優遇する新漁業法は、沿岸・小型漁業者の困難を広げるだけでなく水産資源の管理においても否定的な影響が懸念されます。
わが国の漁業は地域や魚種などによって極めて多様です。そうした多種多様な漁業生産を担い、漁場や漁村の環境を守るだけでなく、水産資源の管理においても中心的に担ってきたのは沿岸漁業者やその共同体である漁協などです。
いま起きている水産資源の減少は、海洋環境の変化、国際的な漁獲競争の激化、乱開発など複雑な要因が関わっており、原因はさまざまです。「獲り過ぎ」が原因との指摘もありますが、わが国の沿岸漁業者の多くは、体験を踏まえて漁船規模、漁具規制、禁漁期、操業時間など厳しい規制を決めて自主的な資源管理を行っています。こうした自治体や関係団体、研究者を含めて漁村社会の自治的な管理こそ高く評価すべきです。「獲り過ぎ」という点では、クロマグロやスルメイカなど大中型まき網漁船による乱獲こそ規制すべきです。
――水産資源の管理にあたっては漁業者の参加を保障し、漁業者、漁協などが提供する情報を尊重し、関係者の納得の上で決める
――漁業管理の実施にあたっては、沖合操業の大臣管理漁業はTAC(漁獲可能量)管理とし、多数漁船が多様漁法で多様魚種を漁獲対象とする沿岸操業の知事管理漁業に対しては入口管理(漁船規模、漁具規制、禁漁期、操業時間などの規制)や漁民の自主的な共同管理を基本とし、機械的なTAC管理は導入しない。
――クロマグロなど国際的な管理体制のもとでおこなう漁獲枠の国内配分では、経営体の多い沿岸小規模漁業への優先配分を行い、大量の漁獲と混獲を行う大臣許可漁業にたいしてはビデオ設置など監視機器の設置を義務付け、操業の透明化をはかる
――水産資源調査の精度を高めるとともに、各地で活動している漁業者による資源管理を生かす「浜の活力プラン」を尊重し、小規模漁業および沿岸漁業者の利益、操業・経営を守ることに重点をおく
――定置・養殖の漁業権は漁協・沿岸漁業者に優先的に与えるルールを確立する
――海区漁業調整委員に漁協・漁業者の代表を任命し、水産資源の配分・管理に沿岸漁業者・協同組織の意見を反映させる
漁場をこわす大型開発をやめ、米軍等の爆撃訓練などから漁場と操業の安全を保障する
水産資源は、自然界の野生生物であり、気候、水温、海流、地形、他の動植物と複雑に関連しあっています。海洋生物の多様性を脅かしているのは、人間による自然の大規模な改変です。諫早湾干拓事業、辺野古米軍基地埋め立て、馬毛島基地建設をはじめとする海洋人工構造物の建設、大規模な海底の砂利採取、ダム・堰・河川の護岸による流下土砂量の減少、森林・里山・河川・汽水域の生物多様性の破壊、化学肥料・農薬の多投など海の自然破壊は枚挙にいとまがありません。
国の産業政策や国土開発、農林水産政策などを、海洋や漁場の生物多様性や持続可能性を保全する立場から位置づけなおし、抜本的に見直すべきです。
――沖縄県名護市辺野古崎への米軍新基地の建設、佐賀空港へのオスプレイ配備、西之表市馬毛島への軍事基地建設など漁場を壊す基地建設・運用を中止する
――日米地位協定を改定し、米軍の潜水艦、巡洋艦による海難事故の根絶、米軍の爆撃訓練海域の廃止・縮小をもとめ、米軍の演習などから漁船の操業と地域住民の安全をまもる
――諫早湾への海水導入による干潟・藻場の再生で、荒廃した漁場の改善・保全を農業者とも共同してすすめ、有明海をよみがえらせる
自主的外交でわが国の漁場、漁業資源の保護、操業の安全をはかる
サンマ、サバ、イワシなどの資源減少は、周辺国の公海での漁獲拡大の影響も指摘されています。公海を回遊する水産資源を守り、漁場や操業の安全を守る立場から、水産をめぐる主権の擁護と漁民の権利を守る外交政策が求められます。
――漁業専管水域(EEZ)における外国漁船の規制、日韓・日台・日中などとの漁業協定の締結などを国の責任ですすめ、資源保護と操業の安全をはかる
――関係国との資源管理で積極的な役割をはたし、裏付けをもった交渉で国際的な資源管理を発展させる努力をつよめる
――尖閣列島、竹島、千島列島など領土問題に関連して政府が道理ある主張を行い、漁場の安全を保障し、日本海・大和堆での中国・北朝鮮漁船による違法操業を排除する
――日ロ漁業協定にもとづく漁業は、継続的に安全操業を確保し、漁業者の負担軽減に取り組む
――自由貿易一辺倒でなく各国の主権を尊重した資源管理と漁業の振興を保障する貿易ルールの確立をめざす
――わが国EEZ内で行う商業捕鯨については資源のしっかりした把握のもと、伝統的捕鯨を中心に地域住民の食生活、漁村の地場産業としての支援を強める
――輸入食品への残留農薬物検査の体制強化、海のエコラベル(MSCやMELなど)の普及など持続可能な漁業の推進と安全な水産物供給に取り組む