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日本共産党

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赤旗

食料自給率の向上を国政の柱に据え、農政の基本方向の転換を――国の農政見直しにあたっての申し入れ

2023年8月 日本共産党国会議員団

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 昨年来の世界的な食料危機は、食料の6割以上を外国に依存するわが国の危うさを浮き彫りにした。異常気象による生産の不安定化、新興国の食料需要の激増、穀物の燃料向け需要の増大、経済力の相対的な低下による買い負けなど、食料は都合よくいつでも輸入できる状況ではなくなっている。一方、国内の農業と農村に目を向けると、基幹的農業従事者がわずか10年で3割も減少し、東京都を超える面積の農地が失われるなど、崩壊の危機に広がっている。

 このままでは国民の命の源である食料の安定供給が根底から脅かされるのは必至である。この流れを根本から転換し、農業と農村を再生し、食料自給率を向上させることは国民の生存基盤、社会の持続に関わるまったなしの課題である。

 岸田政権は昨年来、食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の見直し作業に乗り出し、5月に農水省の検証部会が「中間とりまとめ」を、6月に政府が「食料・農業・農村政策の新たな展開方向(以下「展開方向」)」を公表した。

 しかしその内容は、こうした差し迫る危機への緊迫感が微塵も示されていない。危機を招いた政策の根本的な検証もない。検証部会で出された現場からの切実な願いも、既存の枠組みの範囲内に収まるよう骨抜きにされた。そのうえ、国内生産力増大・食料自給率向上の旗すら降ろしてしまったことは重大である。

 以下、「中間とりまとめ」「展開方向」の問題点を指摘しつつ、わが国のあるべき農政の基本方向について申し入れる。

1 食料自給率向上の目標を投げ捨てるのではなく、国政の中心課題に据える

 食料供給の不安定化を見据えて、食料自給率の向上・回復を国政の柱に据え、農政の最大の目標に掲げて取り組む。基本法には、そのための実効ある計画策定、達成度の検証、検証結果の国会への報告、政策の見直しを法的義務として政府に課すことなどを盛り込む。

 現行基本法は、食料の安定供給は「国内生産の増大」を基本にし、「基本計画」で自給率向上の目標を定めるとしてきた。2000年以降、政府はその目標を5年ごとに定めてきたが、一度として達成されることはなかった。

 「中間とりまとめ」は、その理由を説明するどころか、自給率向上の目標を「国内生産と望ましい消費の姿に関する目標の一つ」に格下げしている。そのうえ「展開方向」からは「食料自給率」の言葉すら消し去った。

 そもそも自公政権は、食料自給率の向上にまともに取り組む姿勢はなかった。政府の本音は、財政制度審議会が今年度の政府予算編成にあたって、「食料安全保障の議論が、・・自給率の向上や、備蓄強化に主眼が置かれることには疑問」とし、「国際分業・国際貿易のメリットや経済合理性を無視してまで国内生産を増大する必要があるのか」などと無責任にも建議したことに表れている。

 さらに、野村哲郎農水相自身が国会で「米国、カナダ、豪州からの輸入に日本の自給率を合わせると8割になる」などと答弁している(衆議院農水委3月8日)のも重大である。不安定化する世界の食料情勢に対する認識も、自給率向上に真剣に取り組む姿勢も、まったく欠如していると言わざるをえない。こんな姿勢では、日本で「国民が飢える」事態が現実のものになりかねない。

 「展開方向」は、「平時からの国民一人一人の食料の安全保障の確立」を新たな課題にあげているものの、民間の取り組みへの支援にとどまっている。すべての国民に安全で栄養ある食料を享受する権利を保障するとともに、不安定化する外国からの輸入に依存する政策を改め、国内生産の増大、自給率の向上に本格的に取り組むべきである。

2 際限ない輸入自由化路線を転換し、食料主権を回復する

 WTO農業協定や二国間EPA(経済連携協定)、多国間のTPP(環太平洋連携協定)などの輸入自由化路線を見直し、食料主権を回復する。そのための国際世論喚起の先頭に立つ。輸入依存が定着している加工、流通、消費を含めた食料システム全体を国内産優先に転換する。

 食料自給率向上のために何が必要か。その第一は、輸入自由化路線との決別である。今日の食や農の危機は、食料は安い外国から輸入すればいいと農産物輸入を際限なく拡大し、農業を切り捨ててきた歴代政府に最大の責任がある。

 過去半世紀、日本は米国の余剰農産物のはけ口とされ、輸入自由化を迫られ続けてきた。1960年代には国内で生産を維持していた麦、大豆が壊滅的打撃を受け、80年代には「選択的拡大」品目であった牛肉・かんきつの自由化が押し付けられた。90年代にはWTO(世界貿易機関)農業協定を受け入れ、米国から主食の米まで市場開放を迫られ、年間77万㌧ものミニマムアクセス米が農家に重くのしかかっている。飼料高騰により酪農経営の離農・廃業が激増しても、政府は乳製品のカレントアクセス輸入を義務でもないのに続けている。米国や財界の言いなりのまま輸入拡大・依存政策を続けていては、国内生産を守れず、国民の食料確保を危うくする。

 「検証部会」では、委員から「輸入の増加が国内農業生産を弱体化させている」との指摘があったにもかかわらず、「中間とりまとめ」「展開方向」にはこの点への反省はおろか、言及すらなかった。意識的に無視していると言わざるをえない。「輸入依存度の高い品目の国産への切り替え」を課題にあげているが、外国産の輸入を野放しにしたままでは、本格的な増産は困難である。

 新自由主義的な貿易自由化は、各国の農村の疲弊、食料危機をもたらし、気候危機を深刻化させてきた。その反省からいま、自由化一辺倒の見直しを求める国際世論が広がっている。国連食糧の権利特別報告者が2020年、WTO農業協定を段階的に廃止し、新しい食料協定の締結交渉を求める報告書を提出したのは、その表れである。

 WTO農業協定や二国間EPA(経済連携協定)、多国間のTPP(環太平洋連携協定)などの輸入自由化路線を見直し、食料主権を回復することが不可欠である。輸入依存が定着している加工、流通、消費を含めた食料システム全体を国内産優先に転換することも必要である。

3 価格保障・所得補償など、営農を続け、農村で暮らせる土台の整備を政府の責務に

 大多数の農業者が営農を続け、農村で暮らせる土台を整えることが、政府の責任であることを明確にする。価格保障や所得補償を抜本的に充実する。農村で生活できる環境整備を政府の責務として基本法上に明記する。

 「若い人がなぜ定着しないかといえば、(農業で)食えないからだ」――検証部会での農業現場の委員から出た発言である。この事態の抜本的な改善なくして農業と農村の再生はありえない。

 現行基本法の下、政府は輸入自由化をすすめる一方で、農産物の価格政策を放棄し、農家の販売収入が生産コストを大幅に下回る事態の常態化を招いた。農家には、外国産に対抗できる競争力の強化を迫り、終わりない規模拡大・コストカットを強いてきた。

 経営支援政策も極めて貧弱で、大多数の農家経営を成り立たなくしてきた。農業経営の安定は自己責任とされ、農村社会の維持も地方の"努力"に委ねられた。農村の多くの若者が農業に就かず、農業者が激減し、多くの農地が失われた。

 検証部会では「再生産可能な適正価格の実現」が議論の焦点となったが、「中間とりまとめ」は、なぜ「農業で食えない」のかの根本問題を掘り下げることはなく、価格を維持する政策の放棄という従来路線から一歩も踏み出していない。

 「中間とりまとめ」「展開方向」の提案は、要するに「協議会の設置」と「関係者の理解醸成」によって価格転嫁をお願いするものでしかなく、政府の財政支出による農家への「適正価格」の保障は視野にない。実効ある価格転嫁の仕組みの検討は必要だが、長期にわたって賃金が上がらず、国民所得が低下している現実をそのままにして「適正価格」の実現性は乏しい。

 他産業とくらべ小規模経営が大半を占め、厳しい自然や環境の制約を受ける農業生産は、市場まかせでは成り立たない。農業大国である欧米諸国では、農産物の価格保障や手厚い所得補償で農業経営を支え、農村や環境を維持し、食料自給率を向上させている。農業所得に占める政府補助金の割合がスイス92.5%、ドイツ77%、フランス64%にたいし、日本が30.2%にすぎない。わが国が政府による農業保護がいかに貧弱か明白である。

 大多数の農業者が営農を続け、農村で暮らせる土台を整えるのは国の責任である。欧米では当たり前の価格保障や所得補償を抜本的に充実し、農村の生活できる環境整備なども政府の責務として基本法上も明記すべきである。

4 農業の担い手政策の目標を多様な担い手を多数維持することに置く

 経営規模や専業・兼業の別、家族・法人などの経営形態にかかわらず、農業に関わる多様な人々をすべて担い手として位置づけ、数多く確保、維持することに最大の目標を置く。

 基本法は「効率的かつ安定的経営体が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立する」とうたい、政府は大規模化・法人化を一貫して推進し、各種補助金も大規模経営に集中してきた。このもとで、一定数の大規模経営が生まれたが、他方で多数の中小経営が離農に追い込まれ、残った大規模経営も、後継者不在の中で営農を断念した例も少なくない。営農環境の整備やコミュニティを担う人が極端に少なくなり、集落崩壊の危機も広がっている。

 検証部会では、少数の大規模経営だけでは限界であり、多様な担い手の確保に力を入れるべきという意見が多く出された。にもかかわらず、「中間とりまとめ」は、農業者の激減を前提としたまま離農者の農地の受け皿として大規模経営・法人経営への支援をいっそう重視するとしている。これでは、大規模経営が点として残ったとしても集落や地域の衰退は加速するばかりである。「中間とりまとめ」が他方で課題にあげている農業の環境負荷の軽減、農村の振興、文化の継承など多面的機能の発揮も絵に描いた餅である。

 高齢農業者のリタイアが激増する一方、都会の若者が農村に移住し、さまざまな形で農業にかかわる「田園回帰」の動きも社会の底流で広がっている。農業生産も、専業的な農業者だけでなく半農半X、定年帰農、体験農業、NPO法人など多様な人びとで担われるようになっている。こうした新たな動きに注目し、対象を絞り込むのでなく、経営規模の大小や専業・兼業の別、家族・法人などの経営形態を問わず、農業に関わる多様な人々をすべて大事な担い手として位置づけ、数多く確保、維持することに最大の目標を置くべきである。

5 環境や生態系と調和した持続可能な農業を農政の土台に据える

 環境や生物多様性の保全をあらゆる農業政策の前提・土台に据え、法の目的に明記する。この目的に資する存在として、中小家族農業の役割を明確にし、政府の特別の支援を行う。

 地球環境は間もなく後戻りできなくなるほど悪化し、人類社会の存続すら脅かす事態に至っている。世界の複数地域で過去最大の干ばつが今後常態化すると予想され、他方で豪雨水害による耕地の破壊が頻発するなど、気候変動によって世界人口を養うに足る食料生産ができなくなる危険性が高まっている。

 わが国においても高度成長以来、目先の「効率」「安さ」を優先して食料や資材の海外依存・長距離輸送によるCO2排出増が進み、国内農業では大規模な機械化・施設化の推進、化学肥料・農薬の過度の散布、輸入飼料への依存など、環境や生物多様性を棄損してきた。

 「中間とりまとめ」は、「環境負荷低減を行う農業を主流化する」「環境と調和のとれた食料システムの確立」などを掲げ、化学肥料の削減、有機農業の拡大など持続可能な農業について言及している。

 しかし、環境負荷低減のコストについて「消費者の理解醸成」を強調するだけで、EU諸国のような政府による財政支援は言及されていない。有機農家の最も強い要望である有機農産物の学校給食への採用もことさらに無視されている。農業の環境負荷低減の担い手としての小規模家族農業の大きな役割についても、触れられなかった。

 農薬や化学肥料、大規模施設などに依存する工業的農業が、地域の環境と農業生産を棄損してきたことが明らかとなり、農業の営みを生態系の物質循環の中に位置づけ、生物多様性と地域コミュニティを重視するアグロエコロジーを推進する動きが世界的に広がっている。国連・FAOにおいても環境や生態系にやさしい小規模家族農業の役割が特別に重視され、地産地消など地域循環型の食料システムが強調されている。

 環境や生物多様性の保全は農政のあれこれの柱の一つではない。あらゆる農業政策の前提・土台とし、法の目的に明記する必要がある。そしてそれを可能にする中小家族農業の役割、政府の特別の支援、役割などを明確にすべきである。

6 食と農の危機打開のために農林水産予算を思い切って増額する

 農林水産業や農山漁村の果たしている国民的役割が発揮されるよう、国政全体の経済・財政政策の転換と結びつけ、農林水産関係予算を思い切って増額する。

 農業と農村の歴史的衰退の流れを逆転させ、食料自給率の向上に本格的に転ずるためには、農林水産関係予算の大幅な増額が不可欠である。さらに農林水産行政だけでなく、環境、国土、教育、厚生労働を含めた政府や自治体の総力を挙げた取り組みが必要である。

 わが国の農林水産予算は一貫して減少してきた。国の一般歳出予算に占める農林水産予算の割合は、1980年には11.7%、2000年には7.1%であったものが2023年には3.1%に縮小している。歴代自民党政権が農業や食料をいかに軽んじてきたかは明白である。国民一人当たりの農業予算を諸外国との比較でみても、日本はアメリカ・フランスの半分、韓国の3分の1に過ぎない。

 「中間とりまとめ」「展開方向」は、この状態を全く問題視できていない。それどころか、思い切った予算措置が必要となる政策を一貫して避けている。例えば、離農の直接の契機となってきた災害対策でも、「防災減災」は唱えるが、肝心の被害額の補償については全く触れていない。

 岸田政権は23年度の農林水産予算を削減する一方、米国の要求に従って防衛予算を5年間で倍増、農林水産予算の約3倍にするとしている。しかし、国民の命を守るというなら、命の源である食料を生産・供給する農林水産業の振興にこそ必要な予算を思い切って増額すべきである。

7 食料有事立法は許さない

 有事に農家に対し作付け強制や増産命令などを行う「食料有事立法」の検討は、ただちに中止する。

 有事の際に「花農家に芋を作るよう命令」したり、「価格統制や配給制」を行う食料有事法制の検討は、岸田政権の戦時体制づくりの一環にほかならず、許すことはできない。平時から農産物の大量輸入を許しながら、農家の苦境を放置し、離農と耕作放棄地の増大を座して眺めていたにもかかわらず、このような検討を進めるなど本末転倒に過ぎる。

 そもそも、土、肥料、資機材、営農技術と、全てが異なる他の作目の農家に、芋や米を強制的に作らせるなど、不可能である。

 種子や肥料・資材を考慮すると10%程しかない自給率の国の食料安全保障は、何としても平和を守ること、そして全力で自給率を高めること以外にない。

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