3、年金
"物価高騰下での年金削減"の異常をただします――年金削減を中止し、高齢者も現役世代も"頼れる年金"に
2022年6月
物価高騰にもかかわらず、岸田政権は、6月支給分から年金支給額を0.4%削減しました。自公政権が「100年安心」の名で、年金の支給水準を減らし続ける仕組みを導入したことが異常事態を招きました。
安倍・菅・岸田政権の10年間で、年金は物価上昇分を差し引いた実質で6.7%も減らされています。年金削減は、消費を冷やし地域経済にも深刻な打撃となります。自公政権は「現役世代のために」と言って年金削減を行っていますが、現役世代の最大の不安は、どんどん年金が減っていく現行制度への不信です。高齢者にも現役世代にも"頼れる年金"への改革が急務です。
―――物価高騰下での年金削減を中止します。
―――自公政権が導入してきた年金削減の仕組みを廃止して、物価に応じて増える年金にします。
―――信頼できる年金制度のために、(1)高額所得者優遇の保険料の見直し、(2)巨額の年金積立金の計画的活用、(3)賃上げと正社員化で保険料収入と加入者を増やす――という三つの改革に取り組みます。
―――"頼れる年金"への改革として、基礎年金満額の国庫負担分にあたる月3.3万円をすべての年金受給者に支給し、低年金の底上げを行います。さらに、全額国庫負担の最低保障年金の導入をめざします。
「マクロ経済スライド」を廃止し、「減らない年金」にするために、3つの改革をすすめます
自公政権が導入してきた年金削減の仕組みの中心は、「マクロ経済スライド」です。
「マクロ経済スライド」は、「年金財政の収支を均衡させる」という名目のもと、毎年度の年金の改定率を、物価や賃金の伸び率よりも低く抑えることで、年金を目減りさせていく仕組みです。
この「スライド」を今後20年続けることにより、2040年時点で本来なら25兆円となるはずの基礎年金の給付額を7兆円削減し、18兆円に抑えこむというのが政府の計画です。
年金を数十年かけて徐々に減らしていく「マクロ経済スライド」では、若い世代ほど年金の削減幅は大きくなります。
こんな仕組みは廃止し、「減らない年金」にすることが、安心できる年金への第一歩です。そのために三つの改革を進めます。
高額所得者優遇の保険料を見直し、1兆円規模で年金財政の収入を増やします
いまの年金は、年収1000万円(月収62万円+賞与)が上限で、それ以上の年収があっても保険料は増えません。年収2000万円の人も、年収1億円の人も、保険料は年額95万5000円です。収入に対する保険料負担率は、年収1000万円で9.15%(本人負担分)ですが、年収1億円だと0.95%になってしまいます。
こうした保険料の低すぎる上限額によって、事実上の"徴収免除"となっている保険料額は2兆円を超えます。ここにメスを入れることが必要です。現在、年収1000万円程度となっている上限額を、健康保険と同じ、年収約2000万円(月収139万円+賞与)まで引き上げれば1.6兆円の保険料収入が増えます。その場合、保険料の負担増によって高額所得者の年金給付も増え、支出も増加することになりますが、アメリカの公的年金で行われているような、高額所得者の年金給付の伸びを抑制する仕組み(ベンド・ポイント)を導入すれば、給付増分を0.6兆円程度に抑え、差し引きで1兆円規模の財源を確保できます。
―――年金保険料の高額所得者優遇の"頭打ち"を見直し、1兆円規模で年金財政の収入を増やします。
巨額の年金積立金を年金給付に活用します
年金積立金は、厚生年金、国民年金、共済年金をあわせて200兆円にのぼり、給付費の4年分にあたります。ヨーロッパ諸国の年金積立金は、ドイツが給付費の1.6カ月分、イギリスが給付費の2カ月分、フランスが給付費の1カ月分未満などで、日本の"ためこみ"は異常です。ところが、自公政権は、2050年代まで積立金を増やし続け、2100年まで温存することを計画しています。
しかも、安倍元首相が、ダボス会議やロンドンの金融街で「年金資金の改革」を約束しながら外国人投資家に"日本株買い"を呼びかけるなど、自公政権は年金積立金を"株価吊り上げ"の道具に使うことを露骨に表明し、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の運用の基本となる「資産構成(ポートフォリオ)」の国内株式の比率を大幅に引き上げてきました。その結果、年金資金の株式市場への投入枠は一気に20兆円分も拡大し、GPIFと日銀が株価を買い支えるという異常事態が続いています。
国民の財産である年金資金を、「アベノミクスの成果」を演出するために利用し、リスクにさらしてきたのです。こうした異常な運用のやり方をあらためます。
―――巨額の積立金を計画的に取り崩し、高齢化のピークとされる2050年代をめどに計画的に活用していきます。
賃上げと正社員化を進めて、保険料収入と加入者を増やします
年金の支え手である現役労働者の賃上げと、非正規雇用の正社員化で、保険料収入と加入者を増やし、年金財政を安定化させることこそ、もっとも根本的な対策です。
―――最低賃金の引き上げ、全国一律の最低賃金制度の創設、中小企業の賃上げ支援予算の大幅増額、長時間労働の是正、労働者派遣法の抜本改正など、「8時間働けばふつうに暮らせる社会」にするための改革を進めます。
「減らない年金」は実現できる――年金制度と政治のゆがみをただしてこそ
政府は、マクロ経済スライドの廃止には「7兆円の財源が必要」といいますが、それは、今後20年間かけて準備するべき額であり、今すぐ7兆円が必要なわけではありません。
高額所得者の保険料を2兆円も免除し、200兆円の積立金を温存して金融界や大企業の儲けのために流用する一方、国民の年金を7兆円も削る、「支え手が減って年金財政が大変だ」と宣伝しながら、若い世代の低賃金や非正規雇用をいっそう加速する――こうした政治のゆがみをただせば、「減らない年金」を実現していくことは可能です。
「マクロ経済スライド」以外の、年金削減の仕組みも廃止します。
今年度の年金が0.4%のマイナス改定となったのは、自公政権が2016年の「年金カット法」で導入した、「賃金マイナススライド」が適用されたからです。
年金改定に際し、物価の指標と賃金の指標を"丈比べ"して"低い方にあわせる"仕組みは2004年改定以来、導入がされていましたが、当初の仕組みでは、賃金指標がマイナスとなった場合は、年金はゼロ改定するルールとなっていました。それが、「年金カット法」により、賃金指標がマイナスの場合は、年金もそれに合わせてマイナス改定にするよう"強化"されました。現役世代の賃金が減っているときに年金も下げるのでは、家計は二重苦に直面し、地域経済も打撃を受けるばかりです。
―――「賃金マイナススライド」を速やかに撤廃します。
他の先進国では、物価や賃金の上昇に応じて、年金の支給水準を引き上げるスライド制が徹底されています。物価・賃金が下がった局面では、安易に年金を下げないことをルールとしている国もあります。物価高騰の下でも年金が下がる、日本の仕組みは欠陥制度です。
―――物価・賃金指標にもとづくスライド制について、年金の引き下げにつながる仕組みを全面的に見直し、「物価に応じて増える年金」にしていきます。
自民党政権が1990年代以来、繰り返してきた、年金の支給開始年齢を遅らせる「改革」が、現役世代の年金制度不信を広げる大きな要因となってきました。
―――自公政権が導入を検討している、年金の支給開始年齢の「67歳」「68歳」「70歳以上」などへの先送りをやめさせます。
低年金の底上げ、最低保障年金制度の導入で、頼れる年金にしていきます
日本の年金制度の大きな問題は、膨大な低年金・無年金者がいることです。
低年金の底上げを行います。現行の基礎年金の受給額の2分の1を税金で負担する仕組みをあらため、全員に定額(基礎年金満額の2分の1である3.3万円)を国庫負担で支給します。たとえば、現在月4万円の基礎年金額の場合は、国庫負担額が2分の1である2万円から3.3万円に引き上がるので、年金額は月額5.3万円となります。これは最低保障年金制度に向けた第一歩にもなります。
さらに、頼れる年金へと抜本的な改革を進めます。
日本の年金制度には、どんな人にも最低限の年金額を保障するという仕組みがありません。そのため、現在、政府の推計でも26万人の無年金者がおり、若い世代の雇用と賃金が壊されるなかで、将来さらに多くの無年金者が生まれかねないことが問題となっています。
公的年金制度のなかに、最低保障の仕組みがないのは、先進国では日本だけです。国連の社会権規約委員会からも、「最低年金を公的年金制度に導入すること」がたびたび勧告されています。
全額国庫負担ですべての高齢者に月5万円を保障し、その上に、払った保険料に応じた額を上乗せする年金制度に抜本的に改革します。これにより、国民年金の満額は、現在の月6.5万円から8.3万円に引き上がります。厚生年金の受給者も、月9万円、月10万円などの給付が低い人から、平均程度の人まで底上げをしていきます。
最低保障年金の導入に足を踏みだせば、低年金・無年金の増大、年金制度の「空洞化」、サラリーマン世帯の専業主婦の「第3号被保険者問題」など、今日の年金制度が抱えるさまざまな矛盾を抜本的に解決する道が開けます。
これを実現するのに必要な財源は5~6兆円規模となり、大企業・富裕層の優遇税制をただすだけでは確保できません。賃上げを実現しながら、所得税の累進強化など、消費税に頼らない税制改革によって確保します。
「消えた年金・消された年金」問題を、一人たりとも被害者を残さないよう、一日も早く、国の責任で解決し、年金行政の在り方を転換します
2007年に初めて発覚し、いまだに解明できない記録が数多く残っている「消えた年金」問題は、被害者には何の責任もない、国が引き起こした問題です。日本共産党は"被害者を一人も残さない""一日も早く"という立場で、国が解決に責任を果たすことを求めます。
―――年金記録が消えたり、消されたりしていないか、一人一人の受給者・加入者にわかるよう、国が管理・保有している情報を提供するとともに、相談・問い合わせ、記録の照会・訂正、未払い分の支払いの迅速化などに対応できるよう、体制の抜本的強化を図ります。
―――この問題に対する国の責任放棄や"幕引き"を許さず、「分限免職」した職員の再雇用をはじめ、問題解決の体制をとり、解決に責任を持つことを求めます。
「消えた年金」の発覚を契機に、記録の不備や行政側のミスで、年金が支払われていなかったケースが、本人や遺族の申立により次々と発覚しています。2017年9月には、情報システムの不備や事務処理のミスにより、1991年以後、元公務員の妻など約10万人に、総額598億円の「振替加算」が未払いだった事実も明らかとなりました。
「消えた年金・消された年金」「年金の未払い・不払い」の大本には、国民の年金受給権を守ることには無関心で、保険料徴収と納入率アップのみを至上命令にするという年金行政のゆがみがあります。
―――年金・社会保障は国民の権利であり、行政は国民の権利を守るため仕事をするという基本原則を、行政機関の上から下まで徹底します。その立場でも、年金行政の点検と改革を進めます。
パート、派遣、契約社員など非正規雇用で働く人たちの厚生年金加入の権利を保障します
厚生年金など社会保険に加入することは、本来、非正規雇用も含めた労働者の権利です。法人又は従業員数が常時5人以上の事業所は、正社員の4分の3以上の時間を働く労働者をすべて厚生年金に加入させる義務を負っています。ところが、この義務を果たしていない事業所が少なくありません。派遣社員も、派遣元企業に社会保険加入の義務が課されていますが、責任逃れや違法行為が蔓延しています。
2012年の法改定で、①従業員数501人以上の企業、②週の所定労働時間20時間以上、③月額賃金8.8万円以上、④雇用期間1年以上という要件を満たす人は、厚生年金の対象とされました。さらに、2016年の法改定で、従業員数500人以下の事業所も、労使合意によって、上記②③④の要件を満たす人の、厚生年金加入が可能とされました。こうした改善措置を実効あるものとするためにも、低賃金や重い保険料負担の解決、低すぎる給付の引き上げなどが必要です。
―――経営が苦しい中小零細企業の社会保険料の事業主負担分の減免など、中小企業への抜本的な支援強化を行いながら、違法・脱法行為をなくし、非正規雇用で働く人たちの社会保険加入・厚生年金加入の権利を守る施策を推進します。
公的年金等控除改悪など"高齢者増税"を阻止し、「天引き」をやめさせる
自公政権は、公的年金等控除のさらなる縮小など、"新たな高齢者増税"の検討を続けています。
2000年代に自公政権が強行した「高齢者増税」――公的年金等控除の縮小や老年者控除の廃止は、低所得の高齢者に増税を強いるとともに、国保料(税)・介護保険料など他制度の保険料や自己負担に波及して、"雪だるま式"の大負担増を引き起こしました。
「下流老人」「老後破産」などの言葉が話題となったことにしめされるように、高齢者の貧困は重大な社会問題です。それは、コロナ危機のなかでいっそう深刻化しています。
高齢者には増税・負担増の追い打ちでなく、負担軽減こそ必要です。
―――65歳以上の公的年金等控除の最低保障額を2005年の「高齢者増税」以前の水準に戻すとともに、所得500万円以下の高齢者について老年者控除を復活します。
―――介護保険料や住民税の年金「天引き」の強制をやめさせ、各人の希望で、普通徴収などに変更できるようにします。
「積立金方式」を看板にした制度改悪に反対します
財界の一部や日本維新の会などから、年金財政の「積立方式への移行」が叫ばれています。その中身は、公的年金を、民間保険会社の年金保険と基本的に同じ仕組みにするというものです。
そうなれば、国民が受け取る年金は、「自分で積み立てた金額+運用益」にとどめられ、老後の生活資金は「自己責任」で確保することが求められます。年金の保障に対する国の責任、事業主の保険料負担の責任が後退する一方、今でも貧しい年金給付はいっそう貧しくなっていきます。また、若い世代は、自分の老後の積立をしながら、現在の高齢者も支えるという「二重の負担」を強いられます。高齢者にとっても、現役世代にとっても、いいことは何もありません。
―――「積立方式化」の名で年金支給を削減し、公的年金への国の責任を後退させる制度改悪に反対します。
社会保障の給付削減をねらい、国民のプライバシーを危機におとしいれる共通番号(マイナンバー)の中止を求めます
各分野の政策「55、デジタル化問題、個人情報保護、マイナンバー」参照