2025年参議院選挙各分野政策
79、ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチの根絶に向けて
2025年6月
特定の民族・国籍・人種など、個人の意思で変更できない属性を持つ集団への差別や敵意、憎悪を煽る示威行動=ヘイトスピーチが、2000年以降顕在化し、特に在日コリアン、朝鮮半島出身者への民族差別と排外主義のデモ・街頭宣伝が、在日コリアンタウンである大阪・鶴橋や東京・新大久保、川崎・桜本、その他の繁華街などで行われ、最近では埼玉・川口市などに居住するクルド人への根拠のない非難・悪質なデマが激しくなっています。その醜悪な罵詈雑言は、当事者と周辺住民を不安と恐怖に陥れ、社会的にも大きな衝撃を与えました。
こうした言葉の暴力は、「ヘイトクライム」(人種的憎悪にもとづく犯罪)そのものであり、人権を著しく侵害するものです。憲法が保障する「集会・結社の自由」や「表現の自由」とも相いれません。
政府の外国人排斥の姿勢がヘイトスピーチの温床に
重大なことは、外国人を差別したり排斥したりしようとする姿勢が、ヘイト差別の温床になっていることです。特に2000年の石原都知事の「三国人」発言、2006年の第1次安倍政権発足以降、政治家や公人による排外主義の言動が臆面もなく噴き出し、そうした傾向は今に続いています。
昨今は、選挙という場を使ったヘイト、議会でのヘイトなど卑劣さを極めており、けっして許されることではありません。
法務省は2019年、「選挙運動」と称して差別街宣をすることに「適切に対応する」よう求める通知を全国に出しました。「選挙も差別の免罪符にはならない」と説明しています。
物価高騰や悪政への不満をそらすために、保守政治家たちが外国人を標的にするなどは絶対に許すことはできません。
在留外国人や特定の民族集団を敵視する排外主義を許さず、ヘイトスピーチ根絶のために、市民と政治家が連帯して立ち上がり、排外主義を押し返すことが今ほど求められている時はありません。
2016年「ヘイトスピーチ解消法」
2016年5月、「ヘイトスピーチ解消法」が制定されました。これは、京都朝鮮学校をはじめとする当事者の切実な訴え、裁判闘争と勝訴、ヘイトスピーチに対抗するカウンターの運動が社会を動かした結果です。
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」は、ヘイトスピーチの禁止規定がないこと、「本邦外出身者」「適法に居住する」規定が適用対象を限定的にするなどいくつもの課題を残しましたが、ヘイトスピーチ対策の立法事実を示し、ヘイトスピーチの定義、解釈指針を提示し、国にたいし、「必要な助言その他の措置を講ずる義務」を、地方公共団体にたいしては、「当該地域の実情に応じた施策を講ずるよう努める」ことを明記するなど、重要な意義を持つ立法でした。
横浜地裁川崎支部は、「ヘイトスピーチ解消法」成立直後の2016年6月2日に、川崎市桜本でのヘイトスピーチデモを禁止する仮処分決定を出しました。この根拠となったのが「解消法」であり、そのヘイトスピーチの定義でした。同じ年の12月には、大阪市鶴橋でもヘイトスピーチデモ禁止の仮処分決定が出されています。「解消法」を活用したこの決定は画期的なものでした。
法律の制定以降、外国籍の人々の排斥を街頭で叫ぶヘイトスピーチデモは減少傾向にあります(警察庁によると、「右派系市民グループによるデモ」は2012年約120件が2018年約30件、2020年約10件、2021年約20件、2023年約10件)。
当事者の運動、各地でヘイトスピーチとたたかうカウンターのねばり強い取組、それを後押しした世論により、ヘイトスピーチが許されない恥ずべき行為だという認識が広がりました。
なお、2016年の法案国会審議の際、日本共産党国会議員団は以下の修正を要求しました。
①法案の名称を「ヘイトスピーチ根絶に向けた取組の推進に関する法律」とする。
②何人もヘイトスピーチを行ってはならない旨の規定を設ける。
③ヘイトスピーチの定義を、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に換えて、「人種若しくは民族に係る特定の属性を有する個人又は集団(民族等)に対する、この社会からの排除、権利、自由の制限、民族等への憎悪又は差別の意識若しくは暴力の扇動を目的として、不特定多数の者がそれを知り得る状態に置くような場所又は方法で行われる言動であって、その対応が民族等を著しく侮辱、誹謗中傷し、脅威を感じさせるもの」との規定を置く。
④「適法に居住する」との要件は削除する。
⑤地方公共団体の責務は、「努めるものとする」に換えて、国と同様、「責務を有する」ものとする。
自治体での条例制定と運動の広がり
大阪市では、2016年1月制定の「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」において、第三者機関による審査を経て、ヘイトスピーチに該当すると認定した表現活動を行った者の氏名・名称等を公表することでヘイトスピーチの抑止を図る仕組みを導入しました。これまでに、インターネットへのヘイトスピーチデモの動画投稿や、インターネットまとめサイトに記事を作成・掲載し、コメント欄を設けて不特定多数のコメントとともに閲覧させた行為等がヘイトスピーチとされ、動画投稿サイトへの削除要請と行為を行った者のネット上のハンドルネーム、実名が公表されています。
2020年10月には、駐大阪大韓民国総領事館前での2016年7月17日の街宣活動がヘイトスピーチに認定されています。
川崎市では2019年12月、全国で初めて刑事罰を伴うヘイトスピーチ禁止規定をもつ、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」を制定しました。この条例では、「人種、国籍、民族、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、出身、障害その他の事由を理由とする不当な差別的取扱い」を禁じる規定を置いています。
川崎市では、条例制定に向けた幅広い市民の運動とともに、現場での抗議、座り込みで未然防止、中止させる運動など、大きな実績を積み重ねています。
深刻な被害を受けた当事者が立ち上がり、関係者の尽力、世論の後押しで、裁判でのたたかいが積み重ねられ、いくつもの勝訴判決を勝ち取っていることは大きな成果です。
一方、ヘイトスピーチの標的とされた当事者が被害回復のため司法に訴えることには常に大きな負担を伴うものであり、対策が必要です。
実態調査と差別解消に向けた計画策定を
2016年の「解消法」施行降、政府は実態調査を行っていません。
埼玉県川口市・蕨市周辺では、30年以上も市民生活を送ってきたクルド人が、極右勢力に突然標的とされ激しいヘイトとデマ攻撃にさらされる重大な被害が起きています。手法を変えたヘイト街宣も続いています。今日増加しているインターネット上のヘイトスピーチも、かならずしも人種的憎悪にもとづかないものであっても、その現状把握と分析の上に、対策を講ずべき状況が生まれています。
――ヘイトスピーチがどのような状況にあるのか、現状把握し、差別解消に向けた計画策定を行うべきです。
ヘイトスピーチ根絶へ政府の姿勢を根本から変える
ヘイトスピーチはその根絶に向けて、政府が責任を持って取り組むべき問題です。
しかし、これまでの自公政権の立場は、積極的に取り組んでいるとは到底いえないものでした。ヘイトスピーチは、侵略戦争や植民地支配などかつての日本の行動を美化・肯定する歴史修正主義と一体のものです。
数々のヘイトスピーチ事件を引き起こした在特会は、2006年の第1次安倍政権発足と前後して設立され、安倍晋三氏や高市早苗・政調会長など安倍氏周辺に連なる自民党極右政治家たちとの強い結びつきが幾度となく取りざたされてきました。
そもそも1995年に、「植民地支配と侵略」について謝罪した「村山談話」が発表された時、日本の多くの人々はこれを受け止めていました。そこに反発を強め、植民地支配と侵略戦争を否定し、政治問題化させたのは安倍氏ら自民党極右勢力です。
各種選挙に日本第一党などが立候補し、選挙活動として排外主義を繰り返すことなども許されません。ヘイトスピーチを生むこうした政治的土壌を根本から変えるためにも、自民党と極右の政治からの変革が求められています。
2010年からの「高校無償化」制度開始に際し、民主党政権が「拉致問題」などを理由に朝鮮学校への適用を凍結。さらに2012年政権復帰した第2次安倍政権は、朝鮮学校を除外する省令改定まで行って排除し続けています。これらは、差別や排外主義に政府自らがお墨付きを与える行為であり、ぜったいに許されません。1日も早く無償化を実施すべきです。
――ヘイトスピーチ根絶に向け、人種、民族的属性、外国人であることを理由にした差別的取扱いを禁止する立法を検討すべきです。