2025年参議院選挙各分野政策
21、保育
公的責任でどの子も安心できる保育制度・保育環境を ~規制緩和からの転換を~
2025年6月
現在、約270万人以上の子どもたちが保育施設等を利用し、多くの時間をその施設で過ごしています。共働きは年々増え続け、保育所等の利用率も大きく伸びています。就学前の子どもの利用率は54.1%になり、1、2歳児の保育利用率は59.3%です。この10年でみても全体で18.2ポイント増え、0~2歳児に限れば24.2ポイントと大きく増えています。多くの子が利用する保育施設は、子どもたちの成長と発達を保障できる安心安全な環境が何より求められています。
しかし、「子ども・子育て支援新制度」がはじまって以降、保育施設等で重篤な事故が増え続けています。こども園、幼稚園、保育園などでの重篤な事故件数は、政府が公表しているもので2015年の627件から2023年の2,772件と4.4倍です。命を落とした子どももおり、「子どもたちの命や安全を守るためにも、発達を保障するためにも、保育士の配置基準の改善は緊急の課題だ」との声が強く上がってきました。またコロナ禍で保育園の役割が大きく示されるとともに、ゆとりある保育の重要性が実感を持って明らかになりました。
こうした中、2024年度、保育士の配置基準の改善が実現しました。保育士1人が担当する4、5歳児の基準が76年ぶりに30人から25人に、また3歳児は20人から15人となりました。2025年度は1歳児が6人に一人から5人に一人への改善が実現しました。これらは長年の保育運動と、近年の「子どもたちにもう1人保育士を」という大きな声が、「この配置基準では子どもの命と安全を守れない」という実態を可視化し、長年動かなかった壁を動かしたのです。同時に、世界水準でみるとまだまだ低すぎる配置基準であり、さらなる改善が必要です。1歳児については、要件を設けた加算方式にとどまったことは重大です。
自民党政権は、長年「基準緩和」と「詰め込み」で、公的責任を投げ捨て民間・企業頼みの安上がりな保育を推進してきました。2015年からは「子ども・子育て支援新制度」を導入し、市町村の保育の公的責任を後退させ、規制緩和と企業参入を拡大してきました。ビルの一室、園庭・ホールのない保育園が増え、保育施設内での子どもの死亡事故は繰り返し起き、重大事故は増加しています。保育士の働き方も厳しさを増し、人手不足が深刻で余裕がなく、忙しさからいつ事故が起きてもおかしくないと日々緊張が張り詰めるなか保育を担っています。
政府は、保育の公的責任を投げ捨てるやり方を拡大してきました。待機児童対策も認可保育所の増設をその柱に据えず、認可保育所と基準の異なる小規模保育や認可外の企業主導型保育を推進し、保育格差が広がり、保育の質が大きく問われています。認可保育所が足りない地域でも、地域の保育や子育て支援の要となる公立保育所の統廃合・民間委託が進められ、園の大規模化や遠方への送迎などが大きな問題になっています。
6か月~2歳を対象とする「こども誰でも通園制度」が、26年度から実施されます。現場からは、子どもの安全が保障されるよう保育体制の確保も含め、懸念や課題が挙げられています。現場の声をよく聴き、なにより、子どもの命と安全が守られる体制がはかられるよう制度のあり方を見直すことが必要です。
児童福祉法24条1項は「市町村の保育実施責任」と保育の公的責任をうたっています。子どもたちの成長・発達の面からも、保育士が安心して保育ができるゆとりある保育基準と保育士の待遇改善がどうしても必要です。それは国と自治体の責任です。
保育予算を大幅に増やすことが求められます。その財源は、大企業・富裕層が応分に税金を負担し、大軍拡を中止すれば、十分確保できます。日本共産党は、これまでの自民党政治が進めてきた規制緩和中心の安上がり保育から、公的保育の拡充路線への転換を進めます。
1、配置基準を抜本的に改善し、すべての園で保育士を増やします
実現した配置基準引き上げの完全実施 1歳児の加算条件は撤廃を
4、5歳の配置基準が76年ぶりに改善されたことは前進ですが、「当面の間は従前の基準で運営することも妨げない」と、期間の定めのない経過措置となっており、すべての施設がその対象となっていないなど不十分な点を残しています。
政府はその理由に保育士不足をあげていますが、配置基準の引き上げは、深刻な保育士不足の解決を抜きにはすすまないのは当然です。問題は、その保育士の確保を、現場の保育園や市町村任せにしていることです。結果、仕事内容と見合わない低い賃金ということもあり、自力で保育士確保ができず、保育士確保のための有料職業紹介会社を利用し多額の手数料を負担したり、「スキマバイト」に頼らざるを得ない実態さえあります。すべての保育園で配置基準の引き上げが完全実施できるよう、国は責任をもって保育士確保とそのための処遇改善に取り組むべきです。
また、1歳児の基準改善は加算措置となりました。その加算も(1)処遇改善等加算の取得率、(2)ICT(情報通信技術)の活用率、(3)職員の平均経験年数10年以上―の3要件を実施している施設・事業所を対象にしており、全てを満たすのは4割以下と言われています。これでは配置基準の改善はふさわしく進みません。
――配置基準の改善を、保育士の処遇改善と保育士の大幅確保とセットで、国と自治体が責任を持ってとりくむようにします。保育士確保のために、園が財政的負担を追わないよう、自治体が責任を持って進めます。
――1歳児の改善加算の要件を取りやすい形に見直し、すみやかに配置基準の引き上げをおこないます。
賃上げ・処遇改善、保育士確保を 国の責任で
保育士給与の引き上げは必須です。保育士の賃金は、全産業平均と比べて10万円低いことが指摘されてきました。大きな世論と運動により、2013年から累次の処遇改善策が行われ、保育士の賃金の全産業平均との差は、一旦、約6万円となりましたが、他の職種の賃金が引きあがってきたこととの関係で、約8万円へと差が再び広がっていることは重大です。
累次の処遇改善策の中身にも問題があります。2022年からの「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業」では、「月9,000円の賃上げ」と自民公明政権は言いましたが、現場の保育士からは「9,000円も上がっている実感はない」との声が上がっています。それもそのはずです。そもそも多くの園が、すでに国基準では子どもの成長・発達を保障できる体制がないと、園や自治体の努力で、1.5倍~2倍近くと国基準以上に職員の配置を行ってきたのに、「臨時特例事業」は独自で加配している保育士は対象外だからです。
他の処遇改善策も、「質の強化」だとしてキャリアアップ研修の受講などが条件となっています。しかし現場はギリギリの人数で運営しており、「研修に参加したいが代わりの確保が困難」「申請実務が大変」という声が多くあります。
もともと保育士の低賃金は、ジェンダー差別が加わり、国の基準が低すぎることによってもたされてきました。認可保育所の運営費、いわゆる「公定価格」を算出する際の人件費が低すぎることが最大の原因であり、さらに、保育士の配置基準が実情に見合わないために、現場では一人当たり賃金を国の基準より下げて保育士やパートを配置しているために、いっそうの低賃金を作り出してきました。放置してきた国の責任は重大です。
国立病院機構の院内保育所は運営が委託され、3年や5年で契約更新があり、委託業者の変更で継続して働く保育士が新規採用扱いとなり、賃金が下がるなど問題が生じています。また、院内保育所は認可外となり、累次の保育士処遇改善策の対象外で賃金が上がらず保育士確保も苦労があり、安定した保育の継続が脅かされており改善が必要です。
仕事内容と見合わない低い賃金ということもあり、現場の人手不足は深刻で、保育士資格をもつ人のうち4割弱しか働いていない状況です。
従来、保育所は最低基準を満たすに必要な保育士は全員常勤としてきましたが、それを緩和し短時間勤務保育士を導入するなど、正規から非正規への置き換えが進められてきました。公立保育所では56%を非正規が占めます。低い処遇で正規の保育士と同等の仕事をしている状況も少なくありません。また、非正規保育士が増えることで少ない正規保育士に負担が集中しているため、それを敬遠してあえて非正規保育を希望する保育士もいます。保育士は専門職です。保育士がやりがいを持ち、働き続けたいと思える保育制度への転換で大幅な保育士確保を進めます。「公定価格」は国が決めるのですから、国が本気になれば、保育士の賃金は一気に引き上げることはできます。政治の責任で実現しましょう
非正規保育士の正規化を推進します
――非正規保育士の正規化を進めながら、正規と非正規の均等待遇をはかります。
――正規の保育士を基本に運営ができるよう、現場の実態に即した公定価格への見直しを進めます。
大幅賃上げへ、公的価格を引き上げます
――どのような形態・運営の園であっても、国の処遇改善加算が確実に保育士の賃金引き上げにつながるようにします。
――これまでの処遇加算に加え、ただちに人件費部分で公的価格を5万円引き上げます。その後1年ごとに1万円ずつ引き上げ、5年以内に全産業平均並みにします。
――賃金の上昇が11年で頭打ちの国基準を見直し、経験年数に応じ賃金が上昇し、長く働き続けられるように改善します。
――院内保育所の保育士の賃金を引き上げ、安定した雇用を守ります。
余暇の確保、子育てや介護と両立できる保育職場にします
――保育士を増やし、労働時間の短縮を図り、余暇でリフレッシュしたり、子育てや介護をしながら働き続けられる労働環境を整備します。8時間労働、週休2日を実現し、さらに7時間労働を目指します。
――「産休等代替職員設置費補助」をつくり、産休・病休等の代替職員の雇用経費を保障します。
まだ低すぎる配置基準 さらなる引き上げを
この間、長年の運動で保育士の配置基準の引き上げが行われましたが、他の主要国と比べても未だ低すぎます。さらなる引き上げを進めます。
2、子どもたちが安心して過ごせる保育環境を整備します
日本の保育所の面積基準は、戦後直後に制定されてからほとんど改善がなく、欧米諸国に比べて極めて遅れたものです。保育園での子どもの死亡事故は毎年繰り返し発生しており、死亡に至らない骨折などの重大事故も急増しています。早急に解決が求められています。
園外活動の安全対策も重要です。園庭があるところもないところも、園外へのお散歩や遊びは子ども達の日常の活動で、子どもの成長・発達のうえでも欠かすことができません。昨今の異常気象で夏場は外遊びが難しく、子どもたちが園内でも十分に体を動かし遊べる環境も不可欠です。
保育士の配置がきちんと守られているか、園内で虐待など子どもの人権侵害が起きていないか、保育施設に対する行政の指導監督・監査は重要な役割があります。書面監査での代行を可能としたことを、年1回の実施義務へ戻し、子どもの安全を守るうえで行政による指導監督機能が十分果たされることが必要です。
安全な保育環境をつくります
――園庭やホールの確保に、自治体や園が積極的に取り組めるようにします。
――自治体が実態把握、指導・監査を適正に行うための体制を強めます。
定員が割れても運営ができるようにし、ゆとりある保育環境をつくります
――地域によっては子どもの数が減り統廃合が進められる園や、定員が埋まらず運営が厳しくなっている園もあります。定員が割れたからといって安易に統廃合するのでなく、面積基準を引き上げ、一つの園の子どもの数を減らしながらゆとりある保育環境をつくる方向に転換します。定員が割れても運営に支障がでないよう財政支援を強めます。
――小規模保育などの基準を認可保育所と同等に引き上げます。
――無認可保育所にたいして施設整備の負担軽減、保育士確保や資格取得などの支援をし、認可化を進められるようにします。
3、高すぎる保育料負担を軽減し、誰もが安心して保育を受けられるようにします
2019年から始まった無償化は、対象が3~5歳と、住民税非課税世帯の0~2歳児に限られています。未就学の兄か姉がいる0~2歳の第2子はおおむね半額となりますが、第1子が小学校に入ると半額措置はありません。給食費は実費徴収になり、自治体や保育施設の事務負担となっています。幼保無償と言いますが、0~2歳の保育料、給食費の負担の重さが子育て世帯の負担となっています。
幼児教育・保育の無償化を進めます
――所得制限なく、幼児教育・保育の無償化を進めます。
――ゼロ歳児~就学前のすべての子どもの給食費の無償化を進めます。
保育を必要とするすべての子どもの保育の保障を目指します
親が働いている・いないにかかわらず、子どもたちの保育環境、社会的支援の整備は必要です。しかし本格実施まで1年をきった「こども誰でも通園制度」は、子どもの安心・安全が軽視され、預かる保育所の負担が大きいと懸念の声が大きくあります。市町村の関与は限定的で、親がスマホアプリで直接契約することも可能な仕組みです。直接会っての事前面談も必須ではなく、普段の生活を知らない子どもをいきなり保育することになります。
トラブルがあっても園と当事者の直接契約のため公的責任を負わないものであり、さまざまな問題が生じることから抜本的に見直しが必要です。
――現在ある一時保育を拡充し、必要とする子が、手厚い保育を受けられるようにします
――こども誰でも通園制度は、少なくとも事前面談をおこない、専用室に専用の保育士を配置するなど、試行的事業で取り組んできた自治体・園の教訓をいかして子どもの安全・安心を確保できる制度に見直します
4、保育をもうけの道具にさせず、安心・安全の保育所を増やします
自民党政治が推進してきた保育の「規制緩和」「詰め込み」「企業参入」促進をやめ、公的保育の責任を果たします
出生者数が大きく減った影響もあり、待機児童数は減少傾向です。しかし、国が定義する待機児童数は2,567人(2024年4月時点)おり、隠れ待機児童数は約8万人とも推計されます。待機児童が多い都市部でも、人口減少地域でも公立保育園の廃止・民営化が進んでいます。認可保育園の60%を占めていた公立保育所は、30%にまで減少しています。
公立保育所は、災害時や、感染拡大で休園になった園の子どもたちを近隣の公立保育所が受け入れ、保育士の派遣が要請されれば、公立保育所の保育士が応援に入るなど、地域の保育を守る役割を担っています。
人口減少地域では保育所運営が困難になり、統廃合が進む事態があります。身近な保育園がなくなり、遠方まで通わなければいけない状況は親にとっても子どもにとっても負担です。
公的保育を守ります
――待機児童問題を解決するために、民間任せでなく自治体が公立保育所建設を進められるよう国が責任を果たします。
――公立保育所に対する新たな財政支援制度を創設し、保育所の建設や分園の配置・改修への補助、運営費の国庫負担分の復活などを行います。
――民間の認可保育所の建設等に対しても、助成の拡大、利子補給などの支援措置を行います。0~2歳児が入所できる受け入れ先を自治体の責任で確保します。
――小規模保育等を卒所した後の、新たな転園先の保育所を自治体の責任で確保します
――公立保育所が地域の保育水準を引き上げるなど積極的な役割を果たせるよう、制度の充実を図ります。
人口減少地域でも自治体が責任をもって保育を保障します
――過疎地の保育を担っている公立園への補助を復活させます。
――民間の保育所も、小規模でも安定した保育を維持できるように財政支援を強め、どの地域でも必要な保育を保障します。