2011年7月5日(火)「しんぶん赤旗」
オスプレイ沖縄配備計画
危険さらに
米政府は、沖縄の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)に現行のCH46ヘリコプターに代え、垂直離着陸機MV22オスプレイを2012年秋から配備すると、このほど正式発表しました。日本政府も配備を認める姿勢です。同機の配備は、「世界一危険」な普天間基地に一層の事故の危険、騒音の拡大を招き、海兵隊の“居座り”につながる重大問題です。(榎本好孝)
米の基準すら無視
オスプレイは、米軍も準拠してきた米連邦航空局(FAA)の安全基準を満たしていない―。オスプレイの開発に長年携わってきた航空専門家のアーサー・リボロ氏(退役空軍パイロット)の証言です。(09年6月23日、米下院監視・政府改革委員会公聴会)
同氏が根拠にしたのは、オスプレイが「オートローテーション」(自動回転)を安全に行う能力がないことです。オートローテーションとは、ヘリコプターがエンジン停止などの緊急事態に際し、回転翼を風の力で回して揚力をつくり、緩やかに着陸する方法です。ヘリにはすべてその能力が備わっています。
04年8月、普天間基地のCH53ヘリが沖縄国際大学に墜落した事故でも、コントロールを失ったヘリは当初、オートローテーションでサッカー場に着陸しようとしました。しかし、子どもたちが競技中だったために断念し、大学の建物に激突しました。(米海兵隊の事故報告書から)
ヘリモードのオスプレイは、オートローテーションで着陸する選択肢がなく、惨事に直結する危険をかかえています。
安全性の問題ではこのほか、オスプレイがヘリモードの際、高温の排出ガスが真下の地面に噴射され、野火を起こす事故が報告されています。
オスプレイは、ヘリモードでの吹き降ろしが非常に強いという指摘もあります。10年5月、ニューヨークでデモ飛行を行っていたオスプレイが着陸時に激しい風を起こし、折れた木の枝が観衆に飛び散り、1歳児を含め10人が負傷する事故も起こっています。
騒音 地下鉄並み
騒音はどうか。
オスプレイを米西海岸の海兵隊基地に配備するため、米海軍省が実施した環境影響評価の最終報告書(09年10月)によると、同機の着陸時の最大騒音値は83デシベルでCH46の79デシベルを上回っています。(真横に約150メートル離れた位置で計測。80デシベルは地下鉄車内の騒音に匹敵)
離着陸が繰り返される基地周辺で住民への騒音被害が増大することになります。
同報告書によると、オスプレイが時速約400キロ、CH46が約200キロで飛行した場合、いずれの高度でもCH46の騒音の方が大きくなっています。(例えば高度約300メートルでオスプレイは81デシベル、CH46は86デシベル)
これは、オスプレイが固定翼モードのためとみられますが、固定翼モードでは小回りがきかず、環境基準を上回る騒音エリアは逆にヘリよりも拡大することになりかねません。
世界への侵攻強化
オスプレイはCH46ヘリに比べ、行動半径が約4倍超に拡大。航続距離は1回の空中給油で約3900キロに達します。ヘリのように、敵地への侵攻に強襲揚陸艦を使う必要がなく、米国防総省は「世界のどんな場所にも迅速に自己展開できる」と宣伝しています。
オスプレイの沖縄配備の狙いは、海兵隊の“殴り込み”能力の強化にあり、地域の軍事緊張を高めるとともに、基地の固定化につながります。
一方、普天間基地に配備されているCH46がオスプレイよりましだとも決して言えません。安全面でも、CH46は製造から40年以上たつ機体があるなど老朽化がひどく、事故の危険性は極めて高くなっています。
問題の根本的な解決は、沖縄県民の総意となっている普天間基地の早期閉鎖・返還の実現にこそあります。
住民への影響 調査なし!?
米政府は、米国内のオスプレイ配備にあたり環境影響評価(アセス)を実施してきました。沖縄よりも2年遅れの14年に配備計画のあるハワイでもすでに行われています。しかし、米国外の普天間基地で実施の予定はありません。
日本政府も「普天間(基地)において機種が変更された場合に環境影響評価を行うという(ことが)日本の制度になっているとは承知していない」(松本剛明外相)と、実施を拒否しています。
前出の米西海岸へのオスプレイ配備に関する環境アセスで、CH46との騒音比較は、「野生生物」への影響の項に掲載されています。米西海岸にある基地は極めて広大で、騒音エリア(65デシベル以上)が基地の中にすべて収まってしまうため、基地の外の住民に対する騒音の具体的影響は調査されなかったためです。
沖縄の普天間基地は市街地のど真ん中にあり、住民は耐えがたい騒音、事故の危険に絶えずさらされています。それにもかかわらず、環境アセスを実施しないというのはあまりにも異常です。オスプレイが住民生活にどういう影響を及ぼすのか、環境アセスを実施すべきです。
MV22オスプレイ 両翼にある回転翼の向きを変えることで、ヘリコプターのような垂直離着陸や、固定翼のプロペラ機のような飛行ができる米軍の輸送機。現在までに5件の墜落事故を起こしています。