2010年11月29日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

適正な公契約に

安値競争で質低下・労働条件悪化


 経済危機のもとで、まかり通る地方自治体事業の手抜き工事や、官製ワーキングプアづくりをやめさせようという、公契約条例・法の制定を含め、公契約の適正化を求める運動が注目されています。まもなく制定という国分寺市のとりくみと、全国的状況のリポートです。


陳情採択8年 条例実現へ

東京・国分寺

地図

 国分寺市での公契約条例は、「公共調達条例案」として12月議会に上程される見込みです。可決されれば来年4月に施行されます。

 市への要請行動を繰り返し、資料や情報を提供してきたことで、行政側との信頼関係を築き、条例の検討につながりました。さまざまな団体、個人が立場の違いを超えて協同して運動をすすめてきました。

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 国分寺市での公契約運動は、東京土建が「公契約条例制定に向けての陳情」を2002年4月に提出したことに始まります。

 公契約条例の検討を求め、同年12月の陳情採択をテコに運動をすすめました。最初は、国や都、近隣の自治体の動向をふまえて検討したいという回答でしたが、条例を迫りました。

 そんな時、06年1月末にゴミ収集の委託事業で混乱が起こりました。ゴミの運搬収集業者が、突然委託を辞退したのです。ダンピング受注が原因で、賃金の未払いを招いたのです。ゴミ処理でも市民からの苦情が相次ぎました。

 条例の検討が明らかになったことで、地域を巻き込んだ運動が必要となり、05年に国分寺地区労に参加する労働組合を中心に、団体・個人に参加を呼び掛け、公契約条例推進連絡会準備会を立ち上げ、翌年には正式に結成しました。

 06年5月、国分寺市入札・契約制度検討委員会が設置され、検討が始まりました。検討委員会に参加する国分寺市職労との懇談、建設業協会との懇談をすすめ、連絡会、建設業協会、管工事組合の共催で、シンポジウムを開催、成功させました。

 ゴミ運搬業者の問題や埼玉県ふじみ野市のプール事故が、ダンピング受注により、無理なコスト削減、それによる品質低下、公共業務の低下、あげくは安全や命まで脅かすことになるなどを明らかにし、どんどん安くなる国分寺市のプール委託費を問題にしました。

 自治労と自治労連がナショナルセンターの違いを超えて、条例制定という一点で協力してくれました。

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 こういうなかで07年7月18日に「国分寺市の調達に関する基本指針」が、08年10月には推進計画が策定されました。基本指針に基づく検討が大詰めを迎えるなか、昨年11月、2回目のシンポジウムを開催しました。

 国分寺市が後援し、市側も積極的な発言をし、条例制定に影響を与える取り組みとなりました。今年4月、条例素案が発表され、8月には市による説明会が開催されました。

 説明会後、パブリックコメントが実施され、団体、個人が要望、意見を寄せました。連絡会では、素案に基づく学習討論会(7月)を開催しました。

 陳情が採択されてから8年、やっと条例が実現されそうです。

 まだまだ、公契約はわかりにくいという人がいますが、条例制定が目的ではありません。条例によって市の業務が住民にとってよいものにならなければなりません。公契約運動への理解を広げ、適正な労働条件と賃金確保をめざしたいと思います。

(永井浩・国分寺公契約条例推進連絡会事務局長)

地域の運動広げ国政でも

 「公務・公共サービスは、安ければ安いほどいい」とする流れが強まるなかで、そこに働く労働者の賃金や労働条件が破壊されています。

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 公共工事では、何層もの下請けが放置され、現場で働いている労働者の賃金は、下請けに行くほど低くなり、予定価格の積算基準である「公共工事設計労務単価」を大きく下回っています。その結果、公共施設の質が下がり、コンクリート片の崩落や、地震で天井が落ちてくるなど、住民の安心・安全が損なわれる事態が生まれています。

 民間委託や指定管理の職場では、一般競争入札で負けたために業者が代わることで解雇されたり、運動で雇用が引き継がれても労働条件が著しく引き下げられ、仕事をあきらめるケースが多発しています。さらに、人件費を低く抑えるために、正規から臨時・非正規への置き換えがすすみ、公共サービスの質の確保が難しくなっています。

 埼玉県ふじみ野市で起きた、子どもが吸水口に吸い込まれて死亡したプール事故(2006年7月)は、そうした「安上がり行政」の延長線上で起きた惨劇です。人件費が競争入札の安値競争に巻き込まれ、賃金の引き下げを競い合う状況になっています。

 小泉構造改革の「小さな政府」と「規制緩和」の強行で、公務・公共サービスとそこで働く労働者の賃金・労働条件は破壊されました。

 民主党政権は、「地域主権改革」の名でその流れを加速させ、破壊をさらに広げようとしています。

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 公契約適正化の運動は、構造改革の動きをやめさせ、公務・公共サービスで働く労働者に、社会的に相当な労働条件を確保することで、住民から喜ばれる働きがいと人間らしいくらしを確立し、税金の無駄遣いをなくしながら、住民への公的サービスの質を保障して、住民の安心・安全を広げる大運動です。

 労働組合や市民団体、住民が参加する公契約の適正化をめざす地域懇談会が、全国各地で活動をはじめています。公契約で起きている問題を交流し、行政に改善を要求し、地域の合意を広げる運動をすすめています。こうした運動は、保育園や給食調理の民営化反対の運動などと結びつきながら、「公共サービスのあるべき姿」を地域が考え実現する役割を果たしています。

 公共工事を柱として、入札や契約の在り方への提案活動もすすんでいます。地域の業界団体に働きかけて、入札の総合評価方式に労働者保護や地域要件の基準を盛り込ませることなども広がっています。

 2009年7月1日に施行された「公共サービス基本法」の11条では「公共サービスの実施に従事する者の適正な労働条件の確保その他の労働環境の整備に関し必要な施策を講ずるよう努めるものとする」と発注者の責任を明記しています。

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 東京都新宿区では、同法に基づいて要綱を定め、落札業者に「労働環境チェックシート」を提出させて、現場労働者の賃金や労働条件を把握する動きも始まっています。

 神奈川県川崎市と東京都国分寺市では、12月議会に公契約条例と同様の条例案が提案される見込みとなっています。また、神奈川県相模原市や兵庫県宝塚市でも条例の具体的な検討に入っています。

 いま、公契約条例とそれを適正に施行させる住民運動のある地域づくりが求められています。そうした地域の運動を広げていけば、国政で「公契約法」の制定を具体的日程に上げることができるようになるでしょう。

(斎藤寛生・全労連組織局長)





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