2010年11月8日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

鳥獣被害に立ち向かう

警備隊・ジビエ あの手この手

和歌山県日高川町


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 野生動物が農作物、森林を荒らす被害が深刻になっています。被害は47都道府県に広がり、農作物被害は年間約200億円にものぼります。中山間地の自治体、住民は防獣柵の設置などに必死です。国に抜本的対策を求める切実な声があがっています。自治体のなかには、捕獲したイノシシ、シカなどを地域資源として有効利用をすすめるところもあります。和歌山県日高川(ひだかがわ)町を訪ねました。 (小高平男)



 紀伊山地の中央部に位置する和歌山県日高川町。有吉佐和子の小説「日高川」の舞台にもなり、清流をもとめ、多くの観光客やアユ釣り人も訪れます。

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(写真)鳥獣被害対策にとりくむ(前列右から)玉置町長と原、山本の両党町議ら=10月22日、日高川町

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(写真)シカ、イノシシなどの鳥獣を防ぐ青いネット=和歌山県日高川町

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(写真)イノシシに根を荒らされ、シカに枝葉と実を食べられ、サルにも葉を食われたハッサクの木=日高川町

 この小さな町(人口、約1万1000人)の鳥獣被害は、水稲、ミカン、ハッサク、ウメなど町の主要作物におよんでいます。

 日高川沿いの田んぼや果樹園には防獣ネットや電気柵が延々と張りめぐらされています。ハッサク園では、根元をイノシシが掘り返し、地面は穴だらけ。地中のミミズ、コガネムシの幼虫をねらい、根を横にのばすかんきつ類にとって大打撃です。

 原孝文さん(54)は水稲・果樹農家、日本共産党の町議です。原さんの自宅のある集落は、家屋の周辺をイノシシやシカが走り回って、農作物を荒らしていましたが、いまでは住民全員の協力で集落を電気柵で取り囲んでいます。しかし、奥山からくる鳥獣の被害はあとを絶ちません。原さんは果樹を指していいます。

 「このハッサクは根をイノシシに、枝葉と実をシカに食われてしまった。サルはシカの行動を見て実だけでなく葉も食い荒らすようになった。三重攻撃です」

 食害はシイタケ、スギ、ヒノキなど林産物にもおよんでいます。サルはシイタケが出たところからつみとり、全滅させます。住民は栽培をやめてしまいました。もう一人の党町議、山本喜平さん(55)=農業=も、このような住民の相談や対策にとりくんでいます。

 日高川町では、年間約2000万円の対策費を予算化しています。シカ、イノシシを減らす必要があると昨年から狩猟者の協力を得て環境警備隊のとりくみもはじめました。緊急雇用対策事業として警備隊員を雇い、鳥獣の追い払いと捕獲、不法投棄の監視をしています。都会からUターンした関史尚さん(37)も、昨年警備隊に参加。「サルは季節ごとに移動ルートを変え、食べ物を探している。放置果実や耕作放棄地は、えさ場になりやすい」と話します。

 町では捕獲した獣肉を活用しようと、今年5月に有害鳥獣食肉処理加工施設「ジビエ工房紀州」を町内に2カ所開設。ジビエはフランス語で狩猟により食材として捕獲された野生の鳥獣です。警備隊や野生動物の加工施設を自治体が設置するのは、全国的に珍しく、各地の自治体などから20を超す視察団が訪れています。

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 農水省は、8月に鳥獣被害対策で各地のとりくみを交流する会を開き、日高川町長の玉置俊久さん(60)も招かれて出席しました。

 「防獣ネット、山林と田畑の境界には緩衝帯の設置など、あらゆることをやってきた」という玉置町長。

 「いま基幹産業が危機的な状態で、町民の生活を守るためにも鳥獣被害に前向きに立ち向かうときです。なんとか軌道に乗せたい。若い人も地元で安心して生活できる町づくりをめざします」

 ジビエ事業は、学校給食への活用(食育)や和歌山市内のホテルとの提携も視野に入れています。

 和歌山県内の鳥獣被害は、県中央地域から海側に広がり、生産高が全国1位のミカン、ハッサク、ウメなどにおよんでいます。

 日本共産党県議団も、県に対し、早くから被害の実態調査と、県議会で対策予算の増額や広域的な対応などを求めてきました。


「事業仕分け」 対策費削る

 2010年度の鳥獣被害対策予算は、22億7800万円と前年度より5億2200万円、18・7%も減額となりました。これにより多くの自治体で、鳥獣被害対策の実施が困難となり、苦境に追い込まれました。

 この事態を招いたのが民主党政権の行政刷新会議の「事業仕分け」でした。鳥獣被害対策について、「国は、県をまたがる動物の移動等に関する情報管理に特化すべきだ」「事業の実施について自治体の判断に任せるべきだ」と、国の責任を後退させる方向を打ち出したのです。

 この結果、これまでの補助事業としての鳥獣被害防止総合対策事業は、「地方の自主性・裁量性を高めるため、都道府県への『交付金』とする見直し」がおこなわれ、鳥獣被害防止総合対策交付金に変えられ、金額も大幅削減されました。

 鳥獣被害は年々深刻さを増し、各都道府県の鳥獣被害対策予算要望額は、2010年で総額で46億9357万円と2010年度予算額の2倍以上となっていました。

 民主党政権も事態の深刻さを無視できず、2011年度農林水産省概算要求で、鳥獣被害緊急対策事業100億100万円を計上しました。

 この緊急対策事業は、交付金でなく、補助事業で地域協議会に直接補助されるものです。予算規模も本年度の5倍近いものです。しかし、仮に予算が成立したとしても、地域協議会に支給されるのは来年の4月以降です。本来であれば、2010年度補正予算で措置すべきものといえるでしょう。(小倉正行・党国会議員団事務局)


動物と人間の棲み分けが必要

 シカ、イノシシ、サル、クマなどが人里に、どうして出てくるようになったのか。野生動物保護管理事務所の羽澄俊裕代表に聞きました。

野生動物保護管理事務所代表 羽澄俊裕さんに聞く

 みなさんの地域に若い人がいなくなり、農業、林業を元気に取り組む人が少ない。犬を連れた猟師がいなくなった。つまり、野生動物と人間の棲(す)み分けができなくなったことがあります。

 この境界線(里山)がなくなったことにより、野生動物が奥山から人里に出てくるようになりました。さらに、暖冬化でシカなどの生息環境がよくなったことも影響しています。

 シカ、イノシシは増えすぎ、個体数の調整が必要な段階です。サルやクマはちゃんとした棲み分けをすれば、被害を防ぐことができます。

 鳥獣被害を防ぐことは、農業、林業の振興に不可欠です。国や自治体は真剣に鳥獣被害対策にとりくむときです。それぞれの地域にあった防護対策が必要です。地域によっては資源を有効に活(い)かす、ジビエ事業なども必要と思います。





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