2010年4月29日(木)「しんぶん赤旗」

シリーズ 日本の宝 町工場守れ

長野 セイコーエプソン下請け切り

「違法だ」労組立つ


 北アルプス連峰の眺望と田園風景で知られる長野県安曇野(あづみの)市。のどかなこの町で、情報関連・精密機器の大手メーカー、セイコーエプソン(本社・長野県諏訪市)の下請け3工場が閉鎖に追い込まれる深刻な事態が起きています。労働組合が「町工場を守れ」と立ち上がりました。(竹田捷英)


地図

 15日、セイコーエプソンの関係者が宮沢宗弘安曇野市長を訪ね、市内の時計部品製造下請けの2社、安曇精工(望月皎社長)、南安精工(小林知之社長)への発注停止計画を説明しました。

 「景気後退の影響を受け、腕時計の販売低迷が続きそうなので、取引を継続できない」というのがセイコーエプソンの理由です。

 安曇精工も南安精工も、セイコーエプソンの下請けを長く続けてきました。売り上げの大部分を同社からの仕事が占めるため、閉鎖が心配されています。

 地元紙が16日付で2社への発注停止と、すでに別のもう1社が発注停止による工場閉鎖に追い込まれていたと報じました。3社合わせて最大200人の解雇者が出る可能性を報じ、衝撃が広がりました。

 市民や労働者からは、「下請けを、いとも簡単に切り捨てるとは何という冷たい企業だ」「エプソンは従業員と家族を路頭に迷わせるのか」と怒りの声があがりました。

 安曇精工(従業員47人)にセイコーエプソンが発注停止を正式に通知してきたのは2月3日。35年にわたって下請けを続け、セイコー腕時計のムーブメント(時計の中心部)の組み立てという心臓部をつくる仕事をしてきました。そんな企業への仕打ちでした。

 この危機に声をあげたのが、職場にあるJMIU(全日本金属情報機器労働組合)安曇精工支部(大垣智光委員長)です。

 職場での討議を重ね、3月8日には支部の臨時大会を開き、たたかいの方針を確立。「あきらめるな! みんなの力を結集しよう」「セイコーエプソンによる安曇精工つぶしを許すな!」とうたいました。

 安曇精工支部は、JMIU長野地方本部(斉京信一委員長)の支援も受けて会社との団体交渉を重ね、発注継続をエプソンに働きかけるよう経営者を激励するとともに、支部自らエプソンと交渉しています。

 下請中小企業振興法は「振興基準」を設け、親企業が取引停止をする場合は「下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮」すると規定しています。

 このため安曇精工支部は、「エプソンの発注停止はこの項に違反する」と指摘しています。

 安曇精工支部は22日、JMIU中央本部(生熊茂実委員長)や同長野地本の代表とともに長谷川榮一中小企業庁長官に会い、「振興基準」にもとづくエプソンへの指導・助言を申し入れました。

内部留保使い経営を守れ

 長野県安曇野市は稲作と麦、野菜畑、わさび田などの田園風景が広がる一方で、県内一を記録する製造業出荷というもう一つの顔をもっています。

 「『こんな自然豊かな町で』と驚かれる方も多いです」。市商工労政課の担当者は語ります。

 市内には、工業・産業団地が七つ。団地以外にも大手工場や下請けの工場もあります。諏訪、松本地域などの電気機械関連産業集積地域に近いという立地条件のよさから、さまざまな製造業が集積しています。製造出荷額は年間8114億円(2008年工業統計調査)にのぼります。

 セイコーエプソンは、安曇野市内の工場にムーブメント組み立てラインを貸して、下請け工場としました。その一つが、安曇精工です。セイコーエプソンは、発注停止の通知とともに組み立てラインを引き揚げる、と言っています。

 セイコーエプソンは資本金532億円、連結売上高1兆1224億円、グループ会社106社を擁する大企業です。内部留保額は3242億円(09年3月期決算)です。

 安曇精工の年間売り上げは34億円。セイコーエプソンの内部留保の1%程度です。「下請けを切らないと経営に影響がでるという話ではないと思います」と安曇精工支部の大垣委員長は強調します。

 JMIUは今回の発注停止の通告が、下請中小企業振興法の「振興基準」に違反するとして、引き続き経済産業相の指導・助言を求めて運動を強めていくことにしています。

冷酷な思想だ

 JMIU長野地本の井上今朝雄副委員長の話 「セイコーエプソンは自社の利益だけを確保するために下請けを切ろうとしています。下請けがどうなろうと知ったことではない、という冷酷な経営思想ではありませんか。これでは地域経済も深刻な影響を受けます。セイコーエプソンは下請け切りをやめて、地域経済を守る社会的責任を果たすべきです」


安曇野市

 05年10月、明科町、豊科町、穂高町、三郷村、堀金村の3町2村が合併してできました。人口9万9千人(4月1日現在)。


 取引停止と取引大幅減についての「振興基準」 下請中小企業振興法第3条にもとづく基準。「親事業者は、下請事業者に対する発注量を大幅に変動させないよう配慮する」「特に、発注量を親事業者の生産量の変動の程度以上に変動させないよう努める」と規定しています。

 また、親事業者は継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し、または大幅に取引を減少しようとする場合には、「下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間をもって予告するものとする」としています。





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