2008年10月28日(火)「しんぶん赤旗」

経済時評

米国発の金融危機(4)

金融再生と「日本の経験」


 終わりの見えない金融危機のもとで、「日本の金融機関の損失額が少ないのは、政府が公的資金を投入して銀行を復活させたからだ」という“日本の経験”が流布しています。

 麻生首相は、金融危機への対応を議論する国際会議では、「日本の公的資金投入の経験を堂々と主張する」などと繰り返しています。

 しかし、日本の金融機関の損失額が相対的に少ないのは、九〇年代の金融危機のために、欧米にくらべて米国型「金融モデル」(別項)の採用が遅れたことによるものです。いわば周回遅れの走者だったのに、前を行く走者のトラブルで先頭に立ったようなものです。

 いま「日本の経験」について世界に発信するとすれば、「破たんした米国型『金融モデル』の反省に立って、金融にたいする規制を強化し、世界の金融秩序を再生させよう」と、“堂々と主張する”ことでしょう。

日本の大銀行は、どうして「復活」したか

 「公的資金の投入で銀行が復活した」という“経験”も、必ずしも正確ではありません。

 日本では、九〇年代後半から総額四十六・六兆円(うち資本注入は十二・四兆円)の公的資金が投入されました(注1)。

 公的資金の投入と引き換えに、銀行には徹底的な「経営健全化」が強制され、九〇年に十二行あった都市銀行は、今日までに、三菱UFJ、みずほ、三井住友の三大メガ・バンク体制に、ほぼ統合・再編されました。

 この統合の過程で、徹底したリストラ・人減らしが強行されました。九〇年に十五万二千二百三十七人だった都市銀行の労働者は、〇六年までに八万五千五百三十一人へ、実に七万人近くが減らされています。その手法は、大銀行が自ら派遣会社を設立し、正規社員を派遣社員に切り替えるやり方でした。こうした銀行「合理化」の強行こそ、その後、派遣労働が製造業にどっと広がる突破口になったのです。

 一方、国民にたいしては、銀行の利益を増やすため、異常な低金利政策が長期間継続されました。日銀の試算では、低金利による家計収入へのマイナスの影響は、九一年から〇五年までの累計で三百三十一兆円に達します(注2)。

 手数料の負担も増えました。いま十万円(未満)の普通預金で、土曜日の早朝にATMを一回利用すると手数料が二百十円、一年分の利子(二百円)が吹っ飛んでしまいます。

 税金も大幅に減免されました。たとえば、みずほ銀行の場合、〇三年度―〇七年度の五年累計で一兆八百七十億円の純利益を計上しています。実効税率を40%とすれば四千億円以上の税額になりますが、毎年わずかに五億円(五年で二十五億円)しか納めていません(注3)。「繰越欠損」という仕組みのため、過去の赤字が繰り越されて課税されないからです。

 このように大銀行が「復活」した最大の要因は、「公的資金の投入」による一時的な資本増強というより、猛烈な人減らし「合理化」、低金利政策による法外な収益、税金の減免という異常な資本蓄積のやり方によるものです。

※  ※  ※

 ところで、国民の多大な犠牲によって「復活」した三大メガ・バンク体制は、はたして日本の産業・経済の発展、国民の望む金融システムの形成へむかっているといえるのか。

 そうなっていない、と言わざるをえません。金融危機のもとで、いま中小企業への「貸し渋り」「貸しはがし」が急激に増大しつつあることは、それを端的に示しています。

 日本の金融機関と金融制度の民主化は、今後、引き続き独自に追求していかなければならない重要な課題です。

世界的な金融再編にのぞむ日本の視点

 世界的な金融危機のさなか、英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)は、六ページにわたる日本金融の特集を組みました。同紙は、グローバルな金融世界から身を引いていた日本の金融機関が、最近、ふたたび世界へ乗り出しつつあると分析しています(注4)。

 FT紙の特集を裏書きするように、証券最大手の野村ホールディングスは、破たんしたリーマン・ブラザーズのアジア太平洋部門、欧州・中東部門を買収しました。三菱UFJは米国モルガン・スタンレーに、みずほは米国メリルリンチに、三井住友は英国バークレイズに、それぞれ大型出資を決めました。

 こうした日本の金融機関の動向にたいし、「朝日」(九月二十五日付)は、「世界金融再編―日本勢は好機を生かせ」と題する社説をかかげ、「人材や顧客を取り込めれば、弱みと言われた投資銀行業務で経営を強化できる」、いまがチャンスだと論じました。

 世界的な金融再編のもとで、各国の金融機関に求められる視点は、米国発の金融危機の教訓をふまえて金融秩序の再生をはかることです。そのために優先すべきことは、「投資銀行業務の強化」などではなく、深刻化する実体経済の回復のために、中小企業への「貸し渋り」などを即刻やめて、金融機関としての責任をはたすことではないでしょうか。

 マスメディアにも、“火事場泥棒”的な視点でなく、「金融秩序の再生」と「実体経済の回復」に寄与する視点を望みたいものです。(友寄英隆)

 (「米国発の金融危機」(1)は八日付、(2)は十六日付、(3)は二十一日付)


 米国型「金融モデル」 「新自由主義」の金融理論による金融の自由化、規制緩和を前提に、資本市場での投資銀行業務(証券業務)を中心とする金融業のモデル。最先端の金融技術=金融工学による「リスク管理」を駆使し、金利や為替のデリバティブ(金融派生商品)取引、不動産や金融債権の証券化、M&A(企業の買収・合併)などで投機的な利益を追求。預金を集めて企業に融資する商業銀行の金融モデルと対比される。

注1)「日経」〇八年十月十五日付。

注2)福井俊彦前日銀総裁の〇七年三月二十二日の参院財政金融委員会での証言。

注3)みずほ銀行「有価証券報告書」より。

注4)Japan: Banking, Finance & Investment ”Financial Times” September, 12, 2008.



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