2008年8月6日(水)「しんぶん赤旗」

米兵裁判での法務省通達

主権放棄の重大な内容

現在も有効か 実態明かせ


解説

 米兵が「公務外」で起こした犯罪の処理について、法務省刑事局が一九五三年、“実質的に重要であると認める事件にのみ一次裁判権を行使する”との通達を、全国の検事長、検事正あてに出していたことが判明しました。(五日付既報

 米兵の「公務外」での犯罪すべてに対し日本側が優先的に裁判を行う権利(一次裁判権)を持っているにもかかわらず、“実質的に重要であると認める事件”以外はそれを手放すという、主権放棄の重大な内容です。

 通達は、旧日米安保条約とともに五二年に発効した日米行政協定一七条の改定(五三年)にあたって出されました。

 改定以前の行政協定一七条は、米兵の犯罪はすべて米側に専属的な裁判権があると規定していました。五三年にNATO(北大西洋条約機構)地位協定が米国で発効。同条もそれにならい、米兵の「公務外」での犯罪は日本側に一次裁判権があると改定されました。

 ところが、法務省は日本側に一次裁判権が認められた当初から、その大部分を放棄する通達を出していたのです。

 通達は、日米間で当時結ばれた日本の一次裁判権放棄に関する密約に基づいて出されたものとみて間違いありません。

 この日米密約は、米政府の解禁文書ですでに存在が明らかになっています。(新原昭治編訳『米政府安保外交秘密文書』) 

 例えば、五七年一月二十二日付の国務省情報報告書は、日米行政協定一七条の改定問題を振り返り、「実際には(日米間で)秘密了解ができ、日本側は大筋として裁判権の放棄に同意している」と指摘しています。

 また、アイゼンハワー大統領への世界の米軍基地問題の極秘報告書「ナッシュ・レポート」(五七年十一月)も「秘密覚書で日本側は、日本にとり著しく重大な意味を持つものでない限り、一次裁判権を放棄することに同意している」と明かしています。

 つまり、日本政府は密約によって一次裁判権の大部分を放棄する約束を米政府にさせられていたのです。

 行政協定一七条の規定は、現行の日米安保条約(六〇年―)に基づく日米地位協定一七条にそのまま引き継がれています。法務省が五三年に出した通達は、同省が七二年に現行地位協定の下で作成した「実務資料」の中に「執務の参考に供する」として収録されていました。

 さらに、国際問題研究者の新原昭治氏が入手した米議会資料によれば、日本の一次裁判権の放棄率は六〇年代でも80―90%台に及んでいます。

 これらのことなどから、密約や通達は今も有効だとみられます。政府はその実態を明らかにすべきです。(榎本好孝)



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