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福島原発事故 Q&A

 東日本大震災で被災し、日本の原発では経験したことのない重大な事態が刻々と進行する東京電力福島第1原発―。いま起きている事態をわかりやすく解説します。

「福島原発事故 そこが知りたい」(「しんぶん赤旗」2011年3月21日〜)から


福島原発事故 そこが知りたい

Q 福島第1原発で放水を続けているのはどうしてなの?

Q 核燃料は使用済みなのになぜ熱くなるの?

Q 原発の敷地の中で非常に強い放射線を観測しているのはどうして?

Q 使用済み核燃料プールってどれぐらいの大きさなの?

Q 放水はいつまで続けたらいいの?

Q 牛乳やホウレンソウ、水道水から検出されている放射性物質ってどんなもの?

Q 発生源は福島第1原発なの?

Q 体への影響は?

Q 水道水は?

Q 汚染されているのは農産物や水道水だけなの?

Q 放射線と放射能はどう違うの?

Q 放射線にはどのようなものがあるの?

Q 放射性ヨウ素が野菜から検出されていますが、放射能汚染のニュースに出てくる「核種」って何?

Q セシウムも検出されていますが?

Q 外部被ばくと内部被ばくはどう違うの?

Q 福島第1原発事故の影響で放射性ヨウ素が農産物や水道水から検出されているけど?

Q 放射性物質は体内にずっととどまるの?

Q 水道水などから検出されている放射性セシウムは?

Q 建屋や海水からいろんな放射性物質が見つかっているけど?

Q 東電の会長が表明した福島第1原発1〜4号機の廃炉ってどういうこと?


原発事故 そこが知りたい 過去最悪 チェルノブイリの場合は?

原発事故 そこが知りたい スリーマイル島の場合 炉心溶融・水素爆発

原発事故 そこが知りたい 大気中に放出された放射能

原発事故 そこが知りたい 老朽化した炉の危険 金属・熱疲労 侵食・腐食発生

Q&A 放射性物質から身を守る


福島原発事故 そこが知りたい

Q 福島第1原発で放水を続けているのはどうしてなの?

 1〜6号機まで、原子炉が入っている建物(原子炉建屋)には、水の中に使用済み核燃料を沈めているプール(使用済み核燃料プール)があります。通常は、水を冷却して使用済み核燃料が熱くならないようにしていますが、今回の地震で冷却できなくなりました。

 そうなると、使用済み核燃料がどんどん熱くなって、内部に入っているプルトニウムや核分裂生成物といった放射性物質が外部へ大量に放出される危険性があります。

 3号機と4号機では、水が蒸発して使用済み核燃料がむき出しになっていると考えられています。そのため、使用済み核燃料プールに水を入れようと放水が行われています。

Q 核燃料は使用済みなのになぜ熱くなるの?

 使用済みといっても、内部にはさまざまな放射性物質がたくさん入っていて、「崩壊熱」という熱を出し続けています。冷やさないで放っておけば、使用済み核燃料の温度はどんどん上昇して、使用済み核燃料が熱で壊れてしまいます。また、燃料を覆っているジルコニウム合金製の被覆管が壊れて水蒸気と反応して水素が発生し、「水素爆発」を起こす恐れがあります。

Q 原発の敷地の中で非常に強い放射線を観測しているのはどうして?

 4号機で「水素爆発」とみられる爆発が起こった直後、隣の3号機付近で1時間当たり400ミリシーベルトの非常に強い放射線量を測定しました。東電は、爆発で4号機の建屋壁面の残骸や、使用済み核燃料プールの水が飛び散ったのが原因だと説明しています。

Q 使用済み核燃料プールってどれぐらいの大きさなの?

 原子炉によって少し違っていますが、深さが10メートル以上、水だけなら1000トン以上入れることができます。核燃料は、直径1センチ、高さ1センチほどの小さな円筒形のペレットに固められていて、これを長さ4メートルほどのジルコニウム合金でできた燃料被覆管の中にいくつも詰め、燃料棒にします。

 1号機の使用済み核燃料プールには燃料棒が292本、2号機には587本、3号機には514本、4号機には1331本、5号機には946本、6号機には876本が入っています。

Q 放水はいつまで続けたらいいの?

 使用済み核燃料は長い間崩壊熱を出し続けます。このため、使用済み核燃料は冷やし続けなければなりません。しかし、ヘリコプターや消防車による放水を長期間続けることは、敷地内の放射線量が高いことなどから困難です。

 電源を確保し、本来の冷却機能を回復させることができれば、外部から放水する必要はなくなります。

Q 牛乳やホウレンソウ、水道水から検出されている放射性物質ってどんなもの?

 検出されているのはヨウ素131やセシウム137という元素の放射性同位体です。自然界ではほとんどつくられないので、大半が原発などでウランを核分裂させて熱を取り出すときにできたものです。原発の場合、これらの放射性物質は、燃料のウランなどとともに、金属の管で覆われた燃料棒の中に閉じ込められています。しかし、燃料棒や、放射性物質を原発の内部に閉じ込めておくことができなくなるような事故が起こると、外部に放出されてしまいます。

Q 発生源は福島第1原発なの?

 東電は21日、19日正午ごろに敷地内で採取した空気中から基準の6倍にあたるヨウ素131を検出したと発表しました。セシウム137も検出されており、福島第1原発から、これらの放射性物質が外部に放出されていることが明らかになりました。

Q 体への影響は?

表 ヨウ素は甲状腺ホルモンをつくるのに使われるので、人間にとって必須な元素で、摂取したヨウ素は甲状腺に蓄積されます。セシウムも摂取すると100〜200日間、体内にとどまります。

 野口邦和日本大学専任講師(放射線防護学)は、農作物はしっかり検査して暫定規制値を超えた農産物は市場に出さない措置が必要だと指摘しています。同時に、現在、ホウレンソウなどで検出されているレベルであれば、汚染された野菜でもお湯を使って洗えばかなり落ちるので、食べたとしても健康に害を及ぼすことはないといいます。(左表をクリックすると大きく表示します)

Q 水道水は?

 水は、野菜や牛乳と違って飲まないわけにはいきません。野口講師は、暫定規制値を超えていることがわかった地域では、行政が責任を持って汚染されていない水をその地域の住民に優先的に供給していくことが必要だと指摘しています。

Q 汚染されているのは農産物や水道水だけなの?

 野口講師は、これだけ農産物や水が汚染されている以上、土壌も汚染されていると考えられるので、土壌の汚染の状況についてもぜひ調べる必要があるといいます。ヨウ素131は、8日たつと半分に減りますが、セシウム137は半分に減るのに約30年かかります。長期に影響が続く恐れもあり、野口講師は、避難指示が出ている福島第1原発から半径20キロ圏では、それがわからないままでは、避難先から戻ろうとしても戻ることができないと指摘しています。

Q 放射線と放射能はどう違うの?

 A 放射線は、高いエネルギーを持つ微小な粒子の流れや電磁波のことです。

 ある種の原子核は時間とともに放射線を出して別の状態に変化します。これを崩壊といいます。放射線を出す物質を放射性物質といい、放射性物質が放射線を出す能力が放射能です。

Q 放射線にはどのようなものがあるの?

  主なものにアルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線があります。

 アルファ線はヘリウム(原子番号2の元素)の原子核で、透過力が弱く、紙や数センチメートルの空気で遮ることができます。皮膚にアルファ線を受けても体内に入ることはありません。しかし、口などからアルファ線を出す放射性物質が体内に入ると、その周囲の細胞は重大な損傷を受けます。

 べータ線は電子で、厚さ数ミリメートルのアルミニウムで遮ることができます。

 ガンマ線は光や電波のような電磁波の一つで、透過力が強く、遮るには厚い鉛、コンクリートが必要です。

 中性子線は、原子核が核分裂を起こしたときに放出される中性子です。中性子線は透過力が強く、遮るには水やコンクリートの厚い壁が必要です。

図

Q 放射性ヨウ素が野菜から検出されていますが、放射能汚染のニュースに出てくる「核種」って何?

  原子は、原子核とその周囲に存在する電子でできています。核種とは、原子核の種類のことで、原子核を構成する陽子と中性子の数の組み合わせで決まります。

 ヨウ素は、原子番号53(陽子の数が53個)の元素で、70〜78個の中性子をもつ6種類の核種があります。自然界に存在するヨウ素はほぼ100%が安定な核種ヨウ素127。その他は不安定な放射性核種です。今回、検出されているヨウ素131は、ベータ線を出して別の核種に崩壊し、8日で半減します。8週間で128分の1になる計算です。

Q セシウムも検出されていますが?

  セシウム(原子番号55)には、4種類の核種が存在しています。安定な核種はセシウム133。今回、検出された放射性セシウム134、137はベータ線を出して、それぞれ2年、30年で半減します。これらはガンマ線も放射します。

 一方、自然界にほとんど存在しない人工元素プルトニウム(原子番号94)には、8種類の核種があります。原子炉の中でウラン238が中性子を吸収した結果できるプルトニウム239は、アルファ線を出して崩壊し、約2万4000年で半減。ガンマ線も放射します。23日現在、福島第1原発周辺でプルトニウムが検出されたという発表はありません。

Q 外部被ばくと内部被ばくはどう違うの?

  外部被ばくは、体の外に付着するなどした放射性物質から体の表面に放射線を受けること。内部被ばくは摂取した放射性物質によって体の内部が放射線を受けることです。

 内部被ばくは放射性物質で汚染された水や食物を摂取したり、放射性物質が皮膚の傷口から入ったり、また放射性物質を含む微粒子や空気を口から吸い込むことで起こります。

Q 福島第1原発事故の影響で放射性ヨウ素が農産物や水道水から検出されているけど?

  ヨウ素は、骨や筋肉の発達を促し、エネルギーの代謝を促進する作用がある甲状腺ホルモンを作るのに必要な元素です。のどにある甲状腺で作られます。体内に取り込んだ放射性のヨウ素131は甲状腺に集まり、そこで放射線を出します。そのため、DNAが損傷を受け、甲状腺がんにかかる確率が高くなります。甲状腺ホルモンは子どもの成長にとって重要なホルモンなので、子どもはヨウ素131の影響を特に受けやすいといいます。

Q 放射性物質は体内にずっととどまるの?

  放射性物質は放射線を出すことによって減少していきます。半分に減るのにかかる時間を半減期といい、ヨウ素131の半減期は8日です。

Q 水道水などから検出されている放射性セシウムは?

  セシウム137という放射性物質です。人体に取り込まれると、骨と脂肪以外の全身に広がります。半減期は30年です。人体には排せつ作用があるので70日で半分が体外に排出されます。

Q 建屋や海水からいろんな放射性物質が見つかっているけど?

 A 原発の原子炉内では、核分裂性の核種に中性子を当て核分裂を促しエネルギーを取り出します。通常はウラン235を使っていますが、プルサーマル運転中だった福島第1原発3号機は、核分裂性のプルトニウム239などを含むウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料が使われています。

 ウラン235やプルトニウム239は、自らも中性子を放出しながら核分裂し、それにより放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの放射性物質が原子炉内で大量に生じます。

 しかし、運転中の原子炉では、核分裂生成物質は燃料棒の被覆管内に閉じ込められています。被覆管にピンホール(小さな穴)が生じた場合などを除き、核分裂生成物が冷却水の中に溶け込むことはほとんどありません。

 通常の運転中の冷却水には、核分裂によって発生した中性子が当たって生じた放射性物質(放射化物)が存在します。圧力容器内や配管内の劣化物が放射化したコバルト60や酸素が放射化した窒素16などです。濃度は定期的に検査されており、一定値以下に管理されています。

 今回、たまり水などから多くの核分裂生成物が見つかりました。炉心溶融により核燃料棒が大きく損傷し、放射性物質が冷却水中に溶け出し、さらに漏れ出たと考えられます。

図

Q 東電の会長が表明した福島第1原発1〜4号機の廃炉ってどういうこと?

  原子炉を将来にわたって運転できないようにすることです。

 廃炉のためには、原発内に大量に存在する放射性物質を安全に処理または、管理する必要があります。使用済み核燃料や運転に伴って発生した放射性廃棄物を敷地内から搬出したうえで、原子炉などをそのまま閉鎖して長期にわたり管理する方法や、原子炉等をコンクリートやアスファルトで封印する方法、原子炉や建屋などを解体、撤去する方法があります。

 日本でこれまで行われた廃炉では、放射能レベルが低下するまで一定期間閉鎖した後、最終的に解体、撤去する方法がとられています。1998年に商業用原発としては日本で最初に運転を終了した東海原発は、使用済み燃料を搬出後、2001年12月から工事を開始、21年に建屋等を撤去して終了の予定です。

 過去に行われた見積もりによると、110万キロワットクラスの原発の解体には約300億円、解体して発生する放射性廃棄物の処分費用は福島第1原発のような沸騰水型で187億円とされています。廃炉には、多大な費用と長期の時間がかかります。

 解体に際しては、環境への放射性物質の放出を防ぎ、作業員の被ばくを防止しなくてはいけません。そのために、核燃料などを原子炉から取り出した後に作業に着手する必要があり、また建屋を最後に解体するなどの手順が定められています。

 しかし、これは安定的に停止させた場合です。福島第1原発の場合、周辺や施設内が高レベルの放射能を含む水などで汚染しており、作業員が安全に作業するには大規模な除染が必要です。また1〜3号機では、炉心溶融が起きていると考えられており、冷温停止にこぎつけたとしても、核燃料の取り出しには時間がかかるとみられます。さらに1、3、4号機では建屋が大きく損傷しているため、放射性物質の飛散を防止する措置が必要など、廃炉にもちこむには多くの課題が山積しています。


ベクレルとシーベルト ベクレルは放射能の強さを表す単位で、数値は1秒間に崩壊する原子核の数。人体への影響はこの数値に一定の係数をかけてシーベルトで表します。


過去最悪 チェルノブイリの場合は?
1986年 出力調整中制御不能に 背景に「原発は安全」の思い込み

 東京電力福島第1原発では、1〜4号機の原子炉や使用済み核燃料プールで核燃料が破損する事故が起こり、周囲への放射性物質の放出が続いています。一度に複数の原子炉で炉心溶融が起きた事故は世界初です。今回の事故をきっかけとして、過去最悪の原発事故、チェルノブイリ原発事故が改めて注目されています。

Q どんな事故だったの?

 A チェルノブイリ原発事故は、1986年4月26日に、旧ソ連のウクライナの同原発4号機で起き、商業用原子炉としては初めて放射線による死者を出しました。国際原子力機関(IAEA)などが決めている国際原子力事象評価尺度では、最悪の「レベル7」とされ、世界の原発史上最悪の事故です。

 実験中に、通常より低い出力に調整しようとしているうち、運転規則に違反して核分裂反応にブレーキをかける制御棒を抜き、安全装置を解除するなどしました。その結果、原子炉の核分裂反応を制御できなくなり、反応が急激に進み事故が起きました。

 核燃料が溶融し、2度の爆発(水蒸気爆発と水素爆発)を起こしました。この原子炉では、減速材として、炭素からできている黒鉛を使っていました。この黒鉛に引火して火災が起こりました。

 爆発によって原子炉が破壊され、建屋の屋根も破損しました。膨大な量の放射性物質が放出され、ウクライナ、ロシア、ベラルーシをはじめ、北半球全体に拡散しました。

 86年8月にソ連政府がまとめた「事故報告書」では、事故で放出された放射能は放射性希ガス、ヨウ素131、セシウム137など、計370京ベクレル(1京は1兆の1万倍)とされていますが、その後の検討で、実際はその2倍から3倍あったと推測されています。

Q 被害は?

 A 消火活動など事故現場で作業していた人のうち、31人が急性の放射線障害や事故で亡くなったとされています。

 半径30キロメートルの範囲に住んでいて退避した13万5000人の平均被ばく量は120ミリシーベルト(一般の人が1年間に浴びる放射線量の許容限度は1ミリシーベルト)でした。

 ソ連政府は事故をすぐには発表しませんでした。翌日にスウェーデンで放射性物質が検出されたことから事故が明らかになり、公表しました。

 住民は27日から避難を始め、ごく一部を除いて1カ月以内に移住させられました。

 事故を起こした4号機は閉鎖され、放射性物質を閉じ込めるためにコンクリートで固められました。「石棺」と呼ばれています。

 2000年、事故の追悼行事でロシア副首相は事故処理に携わった86万人のうち、5万5000人以上が放射線障害などで死亡したことを明らかにしました。

 牛乳から放射性のヨウ素131を摂取した子どもたちの間では、小児性甲状腺がんやほかの甲状腺障害が急増しました。成人では高血圧、狭心症など、放射能汚染への不安や移住生活のストレスが関係していると考えられる疾病が増えたといいます。

 今後も、事故現場で作業にあたった人や地域住民の健康に、事故による放射線が影響を及ぼす可能性があります。

Q 事故の教訓は?

 A 「原発は安全だ」という思い込みがあるところに事故が起きるということです。

 事故が起こるまで、ソ連の原子力関係者の間では、原発は「サモワール(炭で湯を沸かして紅茶などをいれる湯沸かし器)より安全だ」とさえいわれていたといいます。

 職員が規則に違反した運転をしたことや原子炉の構造上の欠陥も原因として挙げられています。しかし、規則から外れた無理な運転も、「事故は起こらない」という思い込みを前提として行われたものでした。

 事故後、IAEAの下で世界各国の専門家を集めて設けられた国際安全性諮問グループが、「原子力発電所の基本安全原則」という報告書を発表しました。ヨーロッパ各国は「事故は起こりうる」という認識の下、原発の安全対策をとったり、原発に頼らないエネルギー開発にとりくんでいます。

 しかし、日本の政府や電力会社は、「日本の原発は原子炉の型がチェルノブイリと違うから、ああいう事故は起きない」として、点検や新たな安全対策は行いませんでした。

2011年4月8日(金)「しんぶん赤旗」


原発事故 そこが知りたい スリーマイル島の場合 国際評価レベル5
1979年 炉心溶融・水素爆発 事故調査委 「安全神話」との決別強調

Q どんな事故だったの?

 A 1979年、米国ペンシルベニア州のスリーマイル島原発2号機で、周囲に放射性物質が放出される事故が起こりました。営業運転を始めてから3カ月後のことでした。国際原子力機関(IAEA)などの国際原子力事象評価尺度(0〜7)でレベル5とされる世界の原発史上でも重大な事故とされます。

 福島第1原発(沸騰水型)とは異なる、加圧水型軽水炉を採用している同原発で、同年3月28日午前4時、2次冷却水の主給水ポンプが停止したことが事故の発端でした。

 加圧水型原子炉は、原子炉内を循環する水(1次冷却水)が沸騰しないよう高圧にし、蒸気発生器を通して相対的に圧力の低い2次冷却水を加熱、沸騰させます。その蒸気でタービンを回し発電する仕組みです。(図)

 スリーマイル島原発事故では、主給水ポンプの停止とともに、補助給水ポンプが動き出しました。しかし、補助給水ポンプの弁が閉じたままになっていたので機能せず熱交換ができなくなって、原子炉内の温度と圧力が上昇。このため、圧力を逃がす弁が開いて原子炉が緊急停止しました。しかし、このとき圧力逃し弁が開いたままになってしまい1次冷却水の蒸気と高温水の流出が続きました。

 運転員がこのことに気づかずに、非常時に原子炉へ水を大量に注入する非常用炉心冷却装置や1次冷却水ポンプを停止するミスをおかすなどしたため、原子炉の水位が低下。原子炉が空だき状態になってしまいました。

 事故発生から、3時間半後に非常用炉心冷却装置を起動させ炉心は再冠水しましたが、この間、炉心の3分の2程度が露出し、炉心の一部が溶融します。また、燃料被覆管と蒸気が反応し大量の水素が発生し、炉心の冷却を制御することが困難になってしまいました。格納容器内に水素の一部を放出し、事故から16時間後に1次冷却水ポンプの運転にようやく成功しました。しかし、この間に建屋内で水素爆発が発生します。

 その後も1次冷却水中に大量の水素が残っていたため、水素除去の努力が続けられます。水素ガスがほぼ除去され、危機回避が宣言されたのは4月2日でした。

 事故から数年後原子炉を解体して様子を調べた結果では、炉心の45%が溶融していました。また、後の解析で、再冠水の際に、水素が大量に発生したことがわかりました。

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Q 住民被害は?

 A 事故発生から約3時間後、1次冷却水の放射能が上昇し、核燃料の破損が明らかになります。その後、各地の放射線量が上昇、一般市民に対する緊急事態が発令されます。

 この事故による放射能は、原発から26キロ離れた地点でも検出されました。

 しかし、州知事が原発から8キロ以内の妊婦と学齢前の乳幼児の避難を勧告したのは、事故発生から2日後の30日でした。

 すでに一部の世帯が避難をしており、これを受け妊婦や乳幼児以外のかなりの数の住民も避難。混乱が生じました。この日の夜までに、10万人の住民が退避したともいわれています。

 核燃料の多くが損傷し、大量の放射性物質が冷却水に溶け出ました。冷却水から放出された放射性ガスが環境へ漏れでました。放出された放射性希ガスは約250万キュリー(1キュリーは370億ベクレル)、放射性ヨウ素131は約15キュリーと推定されています。

Q 事故の教訓は?

 A 事故後、米国では大統領命令で事故調査委員会が設置され、詳細な報告書が出されます。これは委員長の名前をとって、ケメニー報告書と呼ばれています。

 この報告書では、「原子力発電所は十分安全だという考えがいつか確たる信念として根を下ろすにいたったという事実がある。この事実を認識してはじめて、今回の事故を防止し得たはずの多くの重要な措置がなぜとられなかったのかを理解することができる」「こうした態度を改め、原子力は本来危険をはらんでいる、と口に出していう態度に変えなければならないと、当委員会は確信する」と述べています。

 安全だという「思い込み」、「安全神話」を改めることが、ケメニー報告書が強調した事故の最大の教訓でした。

2011年4月10日(日)「しんぶん赤旗」


大気中に放出された放射能 チェルノブイリの10分の1 汚染水 海に流出 土壌にも

 東京電力の福島第1原発事故は「国際原子力事象評価尺度(INES)」の分類で、過去最悪とされる旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)と並ぶ最も重大な「レベル7(深刻な事故)」に暫定評価されました。大量の放射性物質(放射能)の放出はどれだけ深刻なのでしょうか。

Q 福島原発にあった放射能の総量は

  東京電力の推定によると、原子炉が緊急停止した3月11日時点で、福島第1原発1〜6号機の炉心と使用済み核燃料貯蔵プールに存在した放射性物質の総量は、7億2000万テラベクレルです。内訳は放射性の希ガスが1億テラベクレル、ヨウ素131などのハロゲン類が8100万テラベクレル、その他の核分裂生成物(ストロンチウム90、セシウム137など)が5億3000万テラベクレルです。とりわけ問題なのは、核燃料棒の損傷の可能性が指摘されている1〜3号機の炉心、3、4号機のプールだけで計6億7000万テラベクレルにのぼることです。

 チェルノブイリ事故では、環境中に計370万テラベクレルの放射性希ガス、ヨウ素、セシウムなどが放出されたとソ連政府が報告しましたが、その後の検討で、実際にはその数倍あったと推測されています。さらに数十倍〜100倍以上の量が、事故発生時点で福島第1原発に存在していた計算になります。

Q どれくらい放出されたの

  大気中に放出された放射能で農作物や水道水などに影響が出ています。全ぼうは明らかになっていませんが、ハロゲン類については総量の1%程度が環境中に放出されたと東電が推定しているほか、いくつかの試算があります。

 大気中に放出された放射性のヨウ素とセシウムの量は、政府の原子力安全・保安院(経済産業省)や原子力安全委員会(内閣府)がそれぞれ別の方法で試算。それによると、ヨウ素131が13万〜15万テラベクレル、セシウム137が6000〜1万2000テラベクレルと推定されています。

 チェルノブイリ事故での環境中への放出量は、保安院の資料によると、ヨウ素131が180万テラベクレル、セシウム137が8万5000テラベクレル。福島第1原発では、これまで大気中に放出された分だけで、チェルノブイリ事故の約10分の1に相当する量が放出されたことになります。

Q 海の汚染もひどいけれど

  1〜3号機タービン建屋地下などにたまっている高濃度汚染水については、日本科学者会議エネルギー・原子力問題研究委員会が試算。推定7万トンの汚染水に、半減期が長いセシウム137だけでも12万6000テラベクレルがあると見積もっています。

 過去の深刻な海洋汚染としては、83年に英ウィンズケールの原子力工場から160テラベクレルの汚染水が放出された事故が知られています。日本科学者会議の同委員会は、福島第1原発にたまっている高濃度汚染水の0・1%(70トン程度)が海に流出すれば、ウィンズケール並みの海洋汚染が生じると警告しています。

 このほか、大気中に放出された放射性の希ガス(キセノンやクリプトン)や、海に流出したり敷地内の土壌に染みこんだ放射性物質がありますが、その量はわかっていません。


 ベクレル 放射能の強さを表す単位で、1秒あたりに崩壊する原子核の数。テラは1兆倍。

図

2011年4月16日(土)「しんぶん赤旗」



老朽化した炉の危険 金属・熱疲労 侵食・腐食発生 原子炉に亀裂入りやすく

Q 東京電力福島第1原発1号機は古い原子炉らしいけど?

  1号機は、1971年3月に営業運転を開始して以来、40年が経過しています。原発が安全に運転できるのは、当初30年が目安とされてきました。本来なら廃炉に向け運転が停止されているべき原発でした。

 現在稼働中の原発には70年代に建設されたものが多くあり、営業運転開始から30年を超えています。しかし、廃炉には膨大な費用がかかることや、新たな原発の立地や増設が地元の反対で難航していることなどから運転が続けられています。

 政府は、99年に、福島第1原発1号機など、70年前後に運転を開始した3基の寿命延長計画を認め、2005年には原発の運転を60年間とすることを想定した対策をまとめました。

 民主党政権になってからも、営業運転開始以来40年を迎える原発の運転継続を認めるなど、老朽原発をより積極的に酷使する姿勢を示しています。

Q 老朽化で心配されることは?

  原発の機器は運転中、高温高圧、高い放射線という過酷な状況に置かれています。振動などによる金属疲労、温度が繰り返し激しく変化することで起きる熱疲労、そのうえ冷却水や蒸気による侵食・腐食が発生します。

 さらに、原発特有の問題として、放射線の問題があります。原子炉では運転中に発生する高エネルギーの中性子を受けて、鋼鉄の「粘り気」が弱くなる脆性(ぜいせい)劣化が起こります。このため原子炉圧力容器の鋼鉄も長時間の運転に伴って、粘り強さが減少し、もろく亀裂が入りやすくなります。

Q これまで老朽化した原子炉でどんな問題がおきているの?

  日本には30年を超えて運転を続けている原発が、福島第1原発の1〜6号機を含め、計19基あります。特に、敦賀原発1号機と美浜原発1号機は40年を超えており、特別に老朽化が懸念されます。

 04年に死傷者11人を出した美浜原発3号機の蒸気噴出事故は、老朽化による配管の減肉を放置していたことによるものです。

 福島第1原発1号機では99年、原子炉内にある非常用炉心冷却系の配管にひびが入っていることがみつかっています。緊急時に働くとされている「多重防護」の機能が、実際に働くのか信頼性が問われる事態でした。

 このほかにも老朽化によって多くの問題が起きています。加圧水型では、格納容器を開口して蒸気発生器の丸ごと取り換え工事という大手術を余儀なくされる原発が続出しました。

 沸騰水型では、水流仕切り板(シュラウド)にひび割れが多くの原発で発生し、取り換えが行われました。これらの補修工事はいずれも、建設当初には想定されていなかったものです。交換は、非常に強い放射線のもとで作業が行われました。

 老朽化した炉を使い続けることは、安全性の上でも被ばくを増やさないためにも問題があります。

 さらにこうした原子炉は技術的にも古く、耐震性の科学的評価も十分ではありません。


表

2011年4月20日(水)「しんぶん赤旗」



Q&A 放射性物質から身を守る

Q 周辺住民の退避時は?

A 屋内では外気入れない 屋外では吸引防ぐ

 原発の周辺地域の住民が退避時に気をつけることは?

 屋内に退避する場合、ドアや窓をすべて閉め、外からの空気が入らないようにします。換気扇やエアコンは使用をやめます。

 外に退避するときは、放射性物質を体内に吸い込まないように注意することが大切です。屋外ではタオルや木綿のハンカチを水でぬらしてかたく絞り、口や鼻をおおいます。帽子をかぶるなど、できるだけ肌を出さないようにします。

 服の上からビニールの雨がっぱなどを着て、屋内に入るときに脱ぎます。これはポリ袋に入れて密閉します。

 区域内の作物は、安全が確認されるまで摂取を控えます。

Q 離れている地域では?

A 不要不急の外出避ける やむを得ない時はマスク・帽子などを

 原発から離れている地域で、放射線量の数値が高く心配なときの注意は?

 不要不急の外出は避けます。やむを得ず外出するときはマスクを着け、帽子をかぶります。雨が降ると、空気中の放射性物質が雨とともに落下するので、ぬれないように気をつけます。

 帰宅時は、家に入る前に、放射性物質を吸い込まないように気をつけながら衣類のちりを落とします。顔や髪を洗います。

Q ヨウ素剤代わりにうがい薬が有効?

A 絶対に服用しない

 インターネットなどで、ヨウ素を含むうがい薬が、ヨウ素剤代わりに有効という情報が流れているけど。

 誤った情報です。ヨウ素を含む市販品にはヨードチンキ、うがい薬、のどスプレー、ルゴール液などがあります。放射線医学総合研究所は、こうした市販品は内服薬ではないと指摘し、体に有害な作用を及ぼす可能性のある物質も含まれるので、絶対に服用しないよう警告しています。

2011年3月19日(土)「しんぶん赤旗」


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