2011年10月30日(日)「しんぶん赤旗」

これが橋下流の独裁政治 包囲の輪 急速に

同時選 大阪足場に「全国進出」狙う


 “大阪秋の陣”。11月27日投票の大阪府知事・大阪市長選をメディアがこう呼び始めています。府政を思いのままにする橋下徹知事(42)と同氏率いる「大阪維新の会」が今度は大阪市政をターゲット(標的)に。今回のダブル選を契機に、ファッショ独裁政治を一気に打ち立てようという危険な狙いが見えてきます。 (北野ひろみ、大阪府・小浜明代)


写真

(写真)抗議の声次つぎと 橋下独裁政治許すなと抗議する人たち=21日、大阪府庁前

閉塞状況を逆手にとり

 「いまの国のしくみ、国家のままでは大阪に未来はない。日本の未来を考えるなら、日本を変えるためにこの大阪から立ちあがろう」。23日夕、大阪ミナミの繁華街、難波駅前。宣伝カーから橋下知事が辞表を提出した前日の興奮もさめやらぬまま、声を張りあげました。

 橋下氏の任期は来年2月5日まで。それを任期途中でほうり出して大阪市長選(11月13日告示)へ参戦し、知事選(同10日告示)とのダブル選挙(同27日投票)を仕掛けました。知事選には「維新の会」幹事長の松井一郎府議(47)を擁立しています。

 ダブル選挙にうって出ることについて、橋下氏は、大阪だけでなく「日本全体のシステムを変える」(23日)と主張しています。

 国政をめぐり、「政権交代したが、何か変わったか」(橋下氏)といって、府民のなかに広がる閉(へい)塞(そく)状況と政治を変えてほしいとの願いを逆手にとり、「大阪都」構想をテコに府と市の双方に独裁の拠点を築き、「全国進出」の足場にしようとしているのです。そのために「政治手法の集大成」(26日定例会見)と位置づけるダブル選挙で勝利して大阪府と大阪市を解体し、「大阪都」構想をしゃにむにすすめようとしているのです。

 「大阪都」構想について「維新の会」は、「究極の成長戦略・景気対策」としており、そのためにすることは、空港、港湾、高速道路、鉄道などのインフラ整備、高度医療施設など呼び込み型の大型開発です。橋下氏の意向を受けた府の成長戦略には、大王製紙前会長が巨額借り入れし、強い批判が噴出しているカジノ(賭場)を誘致して、海外の金持ちを「呼び込む」ことも盛り込んでいます。

 一方、住民サービスは「都構想で具体にどうなるというのではない」といいます。

 地方自治体本来の役割である「住民の福祉の増進」などどうでもいいのです。府・市を大企業のもうけの道具へと変質・解体させるものです。

「指揮官」の意のままに

 これらを意のままにすすめるために、大阪市を解体して財源と権限を1人の独裁的な「指揮官」に集中させるというのです。

 その狙いをはっきり府民の前に示したのが、橋下知事・「維新の会」が府議会と大阪市議会に提出した「職員基本条例案」「教育基本条例案」です。役所を知事いいなりの幹部職員を「公募」で固め、知事が教育委員会、校長、教職員を支配する体制をつくるという政治の教育への全面介入・支配のやり方です。

 教育基本条例案は「規範意識を重んじ」「激化する国際競争に迅速的確に対応できる、世界標準で競争力の高い」を目的に、大企業のもうけのための人材づくりが狙いです。

 そのために知事が府立学校の教育目標を決め、その目標実現のために責務を果たさない教育委員は罷免、校長の任期つき公募、教職員を5段階で評価し2年続けて最低ランクとされたらクビという、全国に例をみない支配・統制の内容です。

 学校と子どもを競わせ、3年連続定員割れの高校は統廃合、府立高校の学区撤廃、学校選択制などの教育破壊を盛り込んでいます。

 2条例案の狙いについて、橋下氏ははっきりいいました。「職員基本条例は税収を上げる新しい都市経営にふさわしい人材を確保するためのもの。都構想と職員基本条例はワンセット。教育基本条例は教育の統治機構の変革と人材確保があわさったものだ」

数を力に民主主義破壊

 身内の集まりではあけすけです。6月に開いた橋下後援会の政治資金集めパーティー。「日本の政治に一番求められているのは独裁だ」と橋下氏は得意満面にぶちあげました。

 「維新の会」は4月のいっせい地方選で、府議会で過半数、大阪市・堺市で第1党となりました。ところが、選挙後の5月府議会で最初に行ったのが公約になかった「君が代」起立強制条例でした。「強行するな」との広範な声を無視し、数を頼んで採決を強行しました。議員定数を109から88に大幅削減し、1、2人区が9割になる議員定数削減条例は審議もせず成立させる暴挙にでました。

 「統治機構を変えるために知事職についた。下地はつくった」―辞表提出直後の記者会見での橋下知事です。自ら地域政党をつくって府議会を牛耳り、こんどは大阪市。橋下氏はこのファッショ的な体制を府、大阪市を拠点に全国に広げる思惑を隠しません。

 大阪を足場にしたファッショ独裁政治の「全国進出」を許すのかどうか。“大阪秋の陣”は、府・市民にとってだけでなく、全国民的な意義をもつたたかいとなっています。

“教育でなくなる” 条例案に批判

 「橋下流ファッショ独裁政治は許されない」―大阪府の橋下徹知事の危険な政治手法への批判が、急速に広がっています。

 いっせい地方選で府議会の過半数議席を獲得した橋下知事率いる「維新の会」が最初に手掛けたのが、1カ月前の選挙で公約もしていなかった「君が代」起立強制条例でした。

法曹・文化人に

 同条例は、入学式などで「君が代」斉唱時に教職員に起立を義務付けるもの。大阪教職員組合などが真っ先に立ちあがり、「教職員の思想・信条を条例でしばる、民主主義の根幹にかかわる重大問題だ」と告発しました。

 日本弁護士連合会は宇都宮健児会長が声明を発表しました。「教員の思想・良心の自由及び教育の自由に対する強制は特に許されず、教育の内容及び方法に対する公権力の介入も抑制的でなければならない」と指摘。弁護士の橋下知事が所属する大阪弁護士会も「多様な思想や考えを学習する環境を保障すべき学校教育の理念に抵触する恐れがある」との声をあげました。

 作家のあさのあつこさんや映画監督の山田洋次さんら著名51氏が、条例の廃止を求める共同アピールを発表するなど、反対の声は広がったのでした。

 ところが橋下知事と「維新の会」は、それらの批判にはまったく耳を傾けず、続いて出してきたのが、これも選挙で公約していない教育基本条例案と職員基本条例案でした。

 教育基本条例案は、知事が府立高校の目標を決め、それを果たさない教育委員を罷免できる、教職員を5段階評価し、2年連続最低評価の教員を免職にできる―など教育への露骨な統制、支配をもくろんでいます。

 日本教育学会元会長の堀尾輝久東京大学名誉教授は「条例案は憲法違反」と指摘します。

日本ペンクラブ

 日本ペンクラブ(浅田次郎会長)は「思想信条によって人が序列化されたり、差別・弾圧されたり、職場や地域や国から追われる事には反対してきたしこれからも反対する」と批判しています。

 いま活発に声をあげているのは、大阪府下の教育関係者です。

 「『君が代』条例のときは、新学期の忙しさもあって、あっという間に成立してしまった」とある高校校長はふり返ります。

 条例案をめぐって教職員との対話が進んでいます。府立高校教職員組合(府高教)が呼びかけた条例案撤回を求める署名は、2カ月足らずで非正規・臨時を含む全教職員の約8割、8200人が応じました。

 10月3日の「維新の会」との意見交換の席上、府立高校の校長らは「うちの学校では全員が頑張っている。教職員同士、教師と校長との信頼関係がつぶれる」「多様な生徒に対応するのは多様な人材がいる」と強い反対の声が相次ぎました。

 保護者・PTAも子どものために立ちあがりました。府立高校PTA協議会(藤田城光会長)は同19日、「何度も何度も読み返し、読めば読むほど条例案の改善・撤廃を要望」すると撤廃を求める嘆願書を提出しました。

教育委員からも

 府の教育行政の基本方針を決める府教育委員会(生野照子委員長)でも、橋下知事が肝いりで任命した委員も含め、教育長を除く5人の委員全員が「条例案が白紙撤回されなければ総辞職する」との見解を発表しました。

 21日付「毎日」(大阪本社版)の「教育は、誰のために」という意見広告が目を引きました。「異議あり! 『大阪府教育基本条例』100人委員会」のものでした。元中央教育審議会副会長の梶田叡一環太平洋大学学長や元シンクロナイズドスイミング日本代表監督の井村雅代元府教育委員、内田樹神戸女学院大学名誉教授らが名を連ね、「大阪の子どもたちのために条例案に反対」「教育は知事ではなく、子どもたちのためにあるのです」と批判しています。

 「知事の一方向だけが『大阪の教育』と決めてしまうのはこわい」(府立高校PTA協議会の嘆願書)、「教育の条例というより日本の統治原則の変更を迫る」もの(府教育委員の見解)と指摘しています。橋下流ファッショの動きを鋭く見抜いたものといえるのではないでしょうか。


橋下語録

日本の政治に独裁必要 ばくち打ちを集める

 「日本の政治のなかで一番重要なのは独裁ですよ。独裁といわれるくらいの力、これが日本の政治に一番求められる」(6月、橋下氏の後援会の政治資金パーティー)

 「新しい国づくりを行うきっかけづくり。それがダブル選だ。激しい権力闘争をともなう」「僕はこの地方政治で首相公選制にも挑戦したい」(23日、「維新の会」全体会議)

 「大阪の統治機構を変えないと大阪に未来はない」(23日難波)

 「松井さんと僕で最終的にめざすのは都構想。統治機構の変革にむけてすすんでいきたい。2人で都構想にむけてつきすすんでいきたい」「ここで成功して全国に結果をみせないと議論だけですすまない。議会内閣制のまずモデルをみせたい」(23日、全体会議後の会見)

 「(大阪のような)こんな猥雑(わいざつ)な街、いやらしい街はない。ここにカジノを持ってきて、どんどんばくち打ちを集めたらいい。風俗街やホテル街、全部引き受ける」(2009年10月29日)





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