2010年2月9日(火)「しんぶん赤旗」

大企業に責任果たさせよ

志位委員長の質問 衆院予算委


 日本共産党の志位和夫委員長が8日に衆院予算委でおこなった質問。日本経済の危機の根本的原因を明らかにし、雇用、中小企業という経済の要の問題で改革の方向を明快に指し示しました。首相はじめ多くの閣僚もうなずきながら聞き入った55分間の質問は――。


なぜ暮らしも経済も豊かにならないか

首相 「市場万能経済に身ゆだねすぎた」

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(写真)パネルを示して質問する志位和夫委員長=8日、衆院予算委

 「大企業が空前の利益をあげながら、暮らしも経済も豊かにならないのはなぜか」――。

 日本共産党の志位和夫委員長は8日の衆院予算委員会で、大企業が利益を上げても、少しも国民の暮らしに回らず、過剰な「内部留保」(注)という「ため込み金」となって蓄積されるシステムを告発し、鳩山由紀夫首相の認識を正面からただしました。

所得落ち込み脆弱な経済に

 志位氏は、2008年秋にアメリカの証券会社リーマン・ブラザーズが破たんする前の10年間(1997〜2007年)における、G7(先進7カ国)のGDP(国内総生産)の伸び率と雇用者報酬の伸び率の推移を示すグラフを示しました。

 日本のGDPの伸び率は、わずか0・4%で、雇用者報酬(働く人の所得)の伸び率も日本だけがマイナス5・2%。国民の所得は落ち込み、経済全体も「成長」どころか、日本は「G7」で最も成長力がない脆弱(ぜいじゃく)な経済となっていました。

 志位氏は、この10年間、自公政権が推し進めてきた「構造改革」「成長戦略」―「強い企業をもっと強くすれば、国民の暮らしが良くなり、経済も成長する」―という考え方への認識をただしました。

 志位 旧来の経済政策からの転換が求められているがどうか。

 鳩山首相 弱肉強食型の市場主義万能経済に身をゆだねすぎた政治に原因があった。一人ひとりの雇用された給料は下がってしまった。人間のための経済に大転換させていくことが必要だ。

 鳩山首相も転換の必要性を認めました。

経済のゆがみ英国紙も指摘

 志位氏はさらに、大企業が空前の利益を上げながら、なぜ国民の暮らしも経済も豊かにならないかについて質問を続けます。

 この10年間の大企業の経常利益と内部留保、雇用者報酬の推移を示すグラフ(1面参照)を使い、大企業の経常利益が15兆円から32兆円に増えた一方、労働者の雇用者報酬が279兆円から262兆円(09年は253兆円)へ大きく落ち込んだことを指摘。問題は、大企業が増やした利益がどこへいったかです。志位氏が、大企業の内部留保がこの10年余で142兆円から229兆円へと急膨張した事実を示すと、他党議員席からも「その通りだ」と声が上がりました。日本経済のカラクリがここにあったのです。

 そこで志位氏は、イギリスの新聞フィナンシャル・タイムズ(1月13日付)の「日本の困難な数十年から何を学べるか」と題する論評を紹介しました。

 論評は、「なぜ日本経済が世界規模のショックにこれほどまでに脆弱だったのか」と問いかけ、「企業が過剰な内部留保」を蓄積したことを、日本経済の「基本的な構造問題」の一つと指摘。「内需主導の成長のために最も重要な案件は企業貯蓄の大規模な削減であり、新政権は、企業の行動を変化させる政策を実行すべきだ」と書いています。

 志位 国民がつくった富を、大企業のみが独り占めにする。日本経済をまともにしようと思ったら、このシステムを改める必要があると思うがどうか。

 首相 グラフを拝見すると内部留保が大変に増えている実態はあると思う。それをどうするか、一つの判断はありうるのではないか。

 しかし、首相は、「政府としてどのように政策によって取り崩させればよいかという判断は難しい」とも付け加えました。

 志位氏は、「富を一握りの大企業のみに集中している事実は明々白々であり、大転換が必要だ」と重ねて主張しました。

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 内部留保 企業の利益から税金、株主配当など社外流出分を引いた残りの「もうけ」をため込んだもの。


非正規から正社員へ―雇用政策の中心に

首相 「26業務はあまりにも幅広い。検討が必要」

 “非正規雇用から正社員への雇用転換”をすすめる上で焦点となるのが、労働者派遣法の抜本改正です。鳩山首相は施政方針演説で「派遣労働を抜本的に見直し、登録型派遣や製造業への派遣を原則禁止します」とのべています。

 志位委員長が「製造業の工場でいっさい派遣労働者を使うことができなくなるのか」とただしたのに対し、長妻昭厚労相は「1年を超える雇用の見込みのない派遣は禁止する」とのべ、「常用型派遣」は「禁止の例外」となると説明しました。

 それでは「常用型派遣」の実態はどうか。志位氏は、パナソニックが兵庫県姫路市につくる液晶パネル工場の実態を取り上げました。募集している従業員はすべて派遣労働者で正社員はゼロ。「契約期間は3カ月。更新あり。最長3年」となっており、志位氏は、短期契約でも「常用型派遣」となり、「禁止の例外」となると強調しました。

 パナソニックの滋賀県草津工場で長期間働く常用型派遣労働者の実態も劣悪です。

 時給は1050円で上がらず、社会保険は本人が希望しなければ入れません。出勤日は生産計画にあわせて決められるため、月20日働いても16万8000円、月12日なら10万800円。寮費や水光熱費を引かれると手元には2万から9万円しか残りません。

 「いったいどこが雇用の安定性が高いのか」と志位氏がただしたのに対し、長妻氏は「一歩一歩理想に近づいていく」としか答えられませんでした。

 さらに志位氏は、大分県にあるキヤノンの子会社で「期間の定めなし」の雇用契約を結んでいた派遣労働者約100人が、「生産調整」を理由に解雇されているとのべ、「安定性などまったくない。これが実態だと分かっているのか」と力をこめました。

「常用型」でも解雇率76・7%

 「常用型派遣」に「雇用の安定性」がないことは、志位氏がパネルで示した厚労省の調査でも明らかです。同省は昨年5月、派遣先が派遣元との契約を中途解除した場合、常用型でも76・7%もの派遣労働者が解雇されているとの調査結果を発表しました。仕事のあるときだけ雇用契約を結ぶ不安定な「登録型派遣」の解雇率75・8%と違いがありません。

 志位 製造業で「常用型派遣」を残したら、大企業は今まで通り派遣労働者を使い捨てにできる。労働者は、「ワーキングプア」からも、いつクビにされるか分からない不安定な状態からも抜け出せない。これでは「原則禁止」ではなく、「原則容認」ではないか。

 首相 労使がギリギリの交渉のなかで決めてきたことだ。常時雇用は例外としながら簡単に解雇されない状況を見守っていくことが大事だ。法案をあげて一歩二歩前進の状況をつくりあげていくのが大事ではないか。

 志位氏は、「労使の合意といっても財界のごり押しに屈したものだ」と批判。製造業派遣のうち常用型は63%であり、「これを例外としたら原則容認になる。製造業は例外なしの全面禁止に踏み切るべきだ」と強く求めました。

 派遣法改正をめぐるもう一つの問題は、「登録型派遣は原則禁止」としながら、「事務用機器操作」など26の「専門業務」が例外とされていることです。

 「専門26業務」は派遣労働者399万人のうち100万人を占め、多くは事務系の派遣労働者です。専門業務は3年を超えたら直接雇用にしなければならない派遣期間の制限がなく、いつまでも使い続けることができます。

 志位氏は、「パソコンなどだれでも普通に使っている。これが『専門業務』となれば事務系の仕事はほとんど『専門業務』となってしまう」と指摘。現に、NTT東日本―北海道で直接雇用していた契約社員を「専門業務」だといって派遣労働者に置き換えている無法な実態を突き付けました。

 志位 専門業務という名の下に契約社員を不安定な派遣労働者にする逆の流れが起こっている。「専門26業務」を抜本的に見直し、規制を強化すべきだ。

 首相 26業務はあまりにも幅広く、だれでもパソコンは使える状況になっている。そのままにしておいていいのかしっかり検討する必要があると思う。

 志位氏は、「製造業派遣の全面禁止、専門26業務の抜本的見直しなど労働者保護法として真に実効あるものとし、その実施は3年〜5年の先送りでなく速やかに行うべきだ」と強調しました。

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中小企業との公正な取引ルールをつくれ

首相 「(下請け検査の)執行体制強化が必要」

 中小企業の状況について志位委員長は、まず大企業との賃金格差をあげ、製造業で見ると、小規模な企業(従業員5〜29人)の賃金はこの10年で大企業の半分にまで下がっていること、その大きな原因の一つが下請け単価が際限なく切り下げられていることを指摘しました。

 そこで志位氏は、東京・大田区、愛知・豊田市、東大阪市、広島市で調査した現実を示しました。

 愛知県内のある自動車関連下請け零細企業は、4次ないし5次の下請けで自動車のエンジンやシートをすえつける金属部品を溶接加工しています。部品単価は、10年前は1センチ1円が相場でしたが今では70銭に。しかも原材料費は1センチ当たり35銭から40銭に上がった結果、加工賃は65銭から30銭へと半分以下。社長は「従業員と話し合って雇用保険も、年金も払っていない。法律違反だとわかっているが、払ったら従業員が食べていけなくなる」と悲鳴を上げています。

 志位 日本を代表する自動車産業の土台を支えている下請け中小企業の社長さんと従業員をここまで追い込むほど単価の引き下げが進んでいる。こうした下請単価の水準が、公正、適正と思うか。

 首相 下請単価の一方的な切り下げなどは防止する必要がある。そのために下請代金法の厳格な執行や、下請中小企業振興法の振興基準の周知が大事だ。

「買いたたき」処分1件だけ

 その上で中小企業の危機的な現実が放置されている原因に切り込んだ志位氏。公正取引委員会は、下請代金法で禁じられている「買いたたき」で勧告処分を行った件数が04年4月の法改正以来わずか1件、発注した仕事を打ち切るなど「下請け切り」での勧告処分にいたっては0件という実態を答弁しました。

 同時に、公正取引委員会は、親事業者と下請け事業者の双方に違法取引の有無を調べる書面調査の回収率はわずか8・2%だと答弁しました。下請け企業が違法の申し立てをおこなえば、「特定され、仕事がなくなってしまう」ため、よほどの覚悟がなければできないからです。

 志位氏は、書面調査だけに頼ったり、下請け事業者からの申告を待って公正取引委員会が調査・検査に入るというやり方では、「下請代金法を生かすことはできない」と強調しました。

 志位 (公正取引委員会を)受け身ではなく主導的に検査する、必要な抜き打ち検査もおこなうなどの態勢に抜本的に改め、そのために下請検査官を抜本的に増員するなど体制もしっかりとるべきだ。

 首相 法律がきちんと執行されていない部分もある。執行体制の強化が必要だ。

 志位 これまでのあり方を転換して、(下請けいじめを)断固としてなくすという立場に立つべきだ。

 さらに志位氏は、「下請振興法」を取り上げました。同法は「取引対価」(取引単価)について立派な基準を示しています。(パネル)

 中小企業庁の実態調査をもとに「改善の方向だ」と述べる直嶋正行経済産業相に対し、志位氏は「認識違いだ。労働条件の改善、労働者の賃金の改善などはつかんでいない。実態調査を徹底してやるべきだ」と求めました。

 志位氏は最後に、町工場を倒産・廃業の危機から守るため、工場の家賃や機械リース代など固定費の直接補助に踏み出すべきだと力説。「労働者が働く町工場や機械がなくなってしまっては、景気が回復しても働く場がなくなってしまう。『日本の宝』――町工場の灯を消してはならない」と迫りました。

 鳩山首相は、直接補助には「難しい」と背を向ける態度を示しつつ、「日本の宝、町工場の灯は消してはならない」とのべました。

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