2006年12月28日(木)「しんぶん赤旗」

宇宙の軍事利用 急加速

「非軍事」取り払い 自公・財界狙う


 これまで「非軍事」に限るとしてきた日本の宇宙開発を、軍事利用にも拡大する―。そんな動きが、自民党と財界を中心に加速しています。宇宙科学の研究者から、平和の流れへの逆行を心配する声とともに、「日本の宇宙開発にたいする国際的な信頼が失われる」「自由な研究活動ができなくなる」との指摘があがっています。(中村秀生)


◇ 次期国会に「基本法案」

 宇宙の軍事利用に道を開く「宇宙基本法案」(仮称)の骨子を夏までにまとめた自民党は十月、「宇宙開発促進特命委員会」(委員長・額賀福志郎前防衛庁長官)を立ち上げて本格的な検討作業に入りました。十一月には公明党と共同のプロジェクトチームを設置。年明けの次期通常国会にも、議員立法で法案提出を狙う模様です。

 日本の宇宙開発を平和利用に限定することは、一九六九年の国会決議において全会一致で確認されています。政府としてこれまで「平和利用」とは「非軍事」と国会答弁してきました。

 今回の動きは、平和利用の解釈を変更して「非軍事」の制約を取り払い、「非侵略」であれば軍事利用も可能とする狙いです。軍事目的をもつ情報収集衛星の高性能化、弾道ミサイル発射探知のための早期警戒衛星の導入など、自衛隊による独自の軍事衛星の開発に道を開くことになります。

◇ 「機密の壁」に懸念の声

 宇宙科学分野への影響が懸念されています。

 「学問は、公開の原則があってはじめて研究者が育成される」と、軍事利用による機密性との矛盾を指摘するのは、国立天文台で電波天文学の研究をする石附(いしづき)澄夫さんです。「日本の宇宙科学は、軍事から切り離され、科学者・技術者集団の自発的な意思に支えられて、大きな成果をあげてきた」といいます。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の関係者は「軍事分野では、どうしても秘密主義がでてくる。実際、情報収集衛星に誰がかかわっているのかは、JAXA内部でも一部の人間以外は知らされていない」といいます。「安全性にかかわる技術交流が妨げられたり、論文発表が自由にできなくなる。そうなれば、科学者にとっても社会全体にとっても、大きな損失だ」と指摘します。

 また、軍事予算が増える分、平和利用の宇宙科学予算が減らされる可能性も大きいといいます。

 石附さんは「日本の平和主義は世界に誇るモデルとして堅持すべきだ。今回の動きに、科学者としてほおかむりできない」と話しています。


科学の発展 平和でこそ

◇ 吉井英勝衆院議員にきく

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 ―今回の動きの背景をどうみていますか。

 宇宙を軍事に活用したい自民党の防衛族議員と、多額の開発費には国費を使い、衛星やロケットの打ち上げの受注量を増やしたい航空宇宙産業界の思惑が一致したものです。

 防衛族は、専用の衛星通信システムや対衛星攻撃機、戦場気象衛星なども視野に入れて検討しているようです。

 また今回の動きは、防衛省昇格や憲法九条改悪などの一連の動きの一コマです。日米の軍事協力を強めたい米国の要求も背景にあります。

 一方業界は、緊縮財政で宇宙開発予算が減ってきたことに危機感を抱いています。「非軍事」の枠内では売り上げが伸びないとして、日本経団連などが何度も要望を出してきました。

 ―軍事機密の拡大を心配する声があがっています。

 現在でも、情報収集衛星については「機密」を理由に情報が非公開にされています。国会議員の私でさえ、関連施設への立ち入りを拒否されました。衛星の製造を受注した三菱電機は受注したことさえ認めていません。

 これまでに防衛庁の装備品水増し請求事件や官製談合事件が繰り返されてきましたが、軍事機密の壁に隠れてますます不正がはびこる可能性があります。

 ―この動きを阻止するために何が必要ですか。

 宇宙分野に限らず、戦後の日本の科学技術は、憲法九条にもとづいて平和目的に限定し、原子力基本法に定めた「自主・民主・公開」の三原則を守って進めてきました。軍事機密の制約を受けないで、民生用機器として開発・普及が進み、コストダウンに成功して、それが新たな科学技術の発展につながりました。

 国民の多数は、平和を求めています。科学技術を平和利用に限るべきだという考え方は多くの日本の科学者に支持されています。こうした願いと連携して、宇宙の軍事利用への危険な道をくい止めるために、国会でも力を尽くします。


 宇宙基本法案 自民党が「戦略的な宇宙開発の推進をめざす」として5月末までに基本方針をまとめました。法案の「骨子」では、宇宙開発の基本理念として、「安全保障への寄与」と「産業の振興への寄与」を掲げています。


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