2006年12月18日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

圧迫される

住宅地に突然高層マンション

変更求めた訴え結審へ


 低層住宅街で暮らしている住民が、圧迫感や日照など被害を受ける高層マンション建築の計画変更を求めて運動しています。千葉県船橋市と富山市の住民は、住環境の悪化を防ぐため地方裁判所へ建築工事差し止め仮処分の申し立てをしています。いずれも年内に結審を迎えます。


千葉・船橋

体験会で“目がくらくら” 

 千葉県船橋市習志野台八丁目の低層住宅街でグーディッシュ(本社東京都新宿区)が敷地三千三百平方メートルに八階建て、高さ二十四メートル、八十四戸のマンション建築工事を、住民との話し合いを決裂させて強行しています。

建物の「形態率」受忍限度超える

 高層建物を真下から見上げ、視野の中に、その建物の占める割合の形態率が、受忍限度の8%を超える住宅もあります。

 石川友英さん(37)宅は、境界から一・三五メートルのところに八階が建つため21・573%です。住民が八階の建物から一メートル余りの位置に立って見上げる体験会で「目がくらくらする」「気分が悪くなった」と声をあげました。石川さんは「生涯、圧迫されたまま暮らすことを思うと、不安」と話しています。

 高層マンション計画が明らかになった昨夏、習志野台八丁目町会(七百世帯)常任理事会のよびかけで建築地近接住民は協議会を結成しました。

 協議会の二十六人は今年六月、千葉地裁へ日影などの被害や「耐えがたい圧迫感、閉塞(へいそく)感、不快感に襲われる高層マンション計画の変更をしてほしい」と訴えました。「隣家境界から七メートル以内に建てるな。六階以上の工事をしてはならない」仮処分命令の申し立てをしました。グーディッシュは建築を「適法」と主張。二十二日に結審を迎えます。

議会への陳情が全会一致で採択

 住民は市議会に「住環境悪化を防ぐため高さ規制や隣地に余裕ある建物にするよう拘束力のある強い指導ができるよう検討を求める」陳情をしました。十二日の建設委員会で日本共産党の金沢和子市議は「住民の期待にこたえるよう検討を」と訴えました。陳情は全会一致で採択されました。


富山市

立山が眺望できる所に…

二階建て並ぶ閑静な住宅地

 富山市の二階建ての居宅が並ぶ閑静な住宅地。東側に立山連峰を眺望できます。同市新根塚町一丁目にマリモ(本社広島市)が十五階建て、高さ四十五メートルのマンションを、住民合意のないまま、九月から建設をすすめています。

 新根塚町一丁目と隣接する花園町四丁目の住民は、それぞれ「住環境を守る会」を結成し、市の建築紛争委員会などを経て、十月、富山地裁に建築工事禁止の仮処分を申し立てました。二十六日に結審です。「日照阻害、圧迫感、風害、眺望阻害、プライバシーの侵害を被ることになる」と、建築計画の変更を求めています。

周辺の住民を威圧し続ける

 住民は高層マンションについて、「日常生活のなかで周辺住民を威圧し続けることになる。その圧迫感が住民の精神状態に悪影響を及ぼすことは明らかなこと」と主張。圧迫感を示す形態率が、敷地内で11・37%になる住民宅もあります。

 花園町四丁目の「守る会」事務局を務める村井研也さんは、「敷地は広く、三千平方メートル以上ある。住民に被害が及ばないように建てることはできる。これまでに高層マンション建設反対の住民運動がいくつもあったのに、放置してきた富山市と市議会多数派の責任は重い」と話します。

 これまで、いくつものマンション紛争問題にとりくんできた日本共産党の赤星ゆかり市議は、「富山市はやっと、市街地における建物の高さ規制の検討を始めたところ。早く規制をかけるとともに、まちづくりに住民の意見がきちんと反映できる条例づくりもすすめるべきです」とのべています。(富山県・村上明子)


暮らしを脅かす景観破壊
地域の健全さ保つ運動で

平安女学院大学 中林浩教授(都市計画学)

圧迫感、数量で

 とりたてて景勝地でもなく著名な文化財があるわけでもないが、おだやかで親しみのある町というのがある。こうした景観のもとで暮らし続けることは当然の権利なのだが、低層高密の居住地に圧迫感を与える高層マンションが建つ例が多発している。

 圧迫感というのはボリュームの大きい建物によって、そばにいると視覚的に押しつぶされそうな感覚をいう。広い空を背景に庭を眺めていたところに、高層マンションが建って窓全体が建物で覆われた状態を想定してみよう。人間の生き死にに直接かかわらないとしても、数十年にわたって毎日暮らすとなれば人権侵害といっていい。圧迫感を与える建設は景観破壊の重要な局面だ。

 景観が変化したとき、それが悪くなったといいきれるのかどうか。景観の悪化は、気温・日照・風速など数量的に表しえるものに比べて公共性を主張するのがむずかしい。

 そこで圧迫感を数量で表現しようとした研究が、武井正昭氏(東京理科大学名誉教授)の研究だ。問題となる建物が天空をどれだけ遮へいしているかの割合(形態率)で考えている。住宅地に建つ一棟の中高層建築物から受ける圧迫感は二十―四十メートル離れたところから「形態率8%が許容限界値」であると結論づけている。形態率(天空率)の概念はすでに建築基準法にも導入されている。

 大阪平野の北側にはなだらかな山並みが続いている。その山すそに高さ六十メートル、幅百十メートルの高層マンションが建設された。ボリュームが絶対的に大きい。二十メートル地点からの形態率は最大で19%にも及ぶ。数十メートル離れた隣接する団地から人間の視界全体を覆うほどの大きさである。建設が完了した時点では箕面市の条例で高さ二十二メートルしかたたない地区にあり、既存不適格の建物となった。

 豊中市の緑地公園の南、若竹町中に建ったマンションでも二十メートル地点で形態率8%を超える箇所が何カ所もある。市の計画でも神社等の樹林地など自然的景観に富んだ落ち着きのある旧集落が残り重要だとされている地区である。これらは周辺の状況に対して「異物」とでも表現するにふさわしい状態にある。

 現地に立てば、当然許すことのできない景観破壊であることがわかるのだが、訴えは裁判所では退けられてしまう。

「景観法」成立で

 二〇〇四年に景観法が成立し、良好な景観が国民共通の資産であることが法の下でも宣言された。景観権なるものの確立にむけて、圧迫感をはじめどういうものが共有資産たる生活空間を脅かしているのか、ねばり強い各地の運動が積み重ねられる必要がある。至近の住民だけのためではなく、地域全体の健全さを保つためにこの運動はきわめて大切だ。


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