2006年12月17日(日)「しんぶん赤旗」
深刻なベトナム交通事情
著名2教授死傷で注意喚起
ハノイで最近、二人の著名な学者が相次いでバイクにはねられ死傷したことをきっかけに、ベトナムのメディアなどが交通安全への注意を喚起し、政府の対策を求めています。(ハノイ=鈴木勝比古)
米マサチューセッツ工科大学のセイモア・ペパート教授はデジタル数学教育会議出席のためにハノイ滞在中の七日、道路を横断中にバイクにはねられました。現在、病院で治療中ですが、脳挫傷でひん死の重傷です。ベトナムの機械工学の第一人者でベトナム自然科学院長のグエン・バン・ダオ教授は九日、帰宅時に道路を横断中にバイクにはねられ、十一日に死亡しました。
バイクの波
人口八千万人のベトナムの都市部のバイク走行量は世界一といわれます。ホーチミン市で三百万台、ハノイで百万台、全国では千三百万台が走っています。都市の公共交通機関が未発達であり、バイクが市民の手軽な生活手段となっています。
ハノイ市内の主要な交差点は信号が完備していますが、赤信号を無視して突っ込むバイクも見られます。ベトナムの車両は右側通行ですが、右折の場合、バイクの多くが赤信号でも右折します。道路を逆走したり、渋滞区間では歩道上を走るなど、傍若無人な運転も時おり見かけます。
一方、交差点の信号は短い時には十五秒ほど、長くて三十秒ほどで変わるため、お年寄りなどが渡りきらないうちにバイクの波にのみこまれて立ち往生している光景をよく見かけます。一般の信号は赤と青だけで黄色はありません。
今年の交通事故の死者はすでに一万一千人にのぼり、負傷者は一万人。郊外の幹線道路以外はヘルメットの着用が義務付けられていないため、バイク事故時の運転者の死亡率も高くなっています。農村部では幹線道路と生活道が交錯する場所で事故が多発しています。
生命に責任
今回の二人の教授の死傷のニュースは、十二日夜のベトナム国営テレビが詳しく紹介しました。サイゴン・ザイフォン紙十三日付は「痛ましい事故ではすまされない」との見出しでベトナムの深刻な交通事情を詳報。「ベトナム人一人ひとりが道路に出る時は自分の生命と他人の生命に責任をもち、増大している痛ましい事故を避けよう」と呼びかけています。
現在、国家交通安全委員会(委員長=ズン運輸相)が二〇〇六―一六年の交通安全戦略を作成中です。その中では、国民への交通安全教育、道路交通網の整備、交通違反の厳重な取り締まり―を重視。各メディアともテト(ベトナムの旧正月、来年は二月十七日)前後に交通事故が増加するため、改めて注意を喚起しています。

