2006年11月25日(土)「しんぶん赤旗」
ドイツの戦後強制労働補償とは
〈問い〉 ドイツでは過去に誠実に向き合い、第2次世界大戦中の強制労働被害者への補償も進んでいると聞きましたが、その経過を教えてください。(神奈川・一読者)
〈答え〉 ドイツでは日本と同様に第2次世界大戦中の強制労働従事者への補償が大きな問題でした。第2次世界大戦中にナチス・ドイツにより、強制連行・強制労働の被害を受けた人はユダヤ人、シンティ・ロマ(ジプシー)、ロシアから東欧にかけての人々に広く及び、その数は1000万人とも1500万人ともいわれます。ドイツの大企業は数千人、数万人単位で工場での強制労働者を使用したのをはじめ、ナチス幹部などのための家内労働に従事させられた強制労働者、強制収容所での強制労働被害者などがいます。
ドイツでは一連の補償立法によって強制収容所・絶滅収容所などでホロコーストの犠牲者となったユダヤ人や、シンティ・ロマ、障害者などの「安楽死」犠牲者には補償が次第に実施されてきましたが、1990年代まで強制労働被害者補償は取り残されていました。多くの企業は責任をとろうとしませんでした。
ドイツの労組やキリスト教会が立ち上がり強制労働被害者を応援しましたが、決定的だったのは世論に押され96年に憲法裁判所が強制労働に対する個人の請求権を認めたことでした。企業を相手取った訴訟が相次ぎ、米国でも独大企業に対し補償を求め、集団訴訟(クラスアクション)を起こす事態に発展。ドイツ政府と企業は折半で百億マルク(99年当時の為替レートで5538億円)を集め、補償基金「記憶・責任・未来」をつくり補償金を支払うことを決めました。訴訟の嵐は、個別の企業による対応でなく、国家が責任を負うことが必要だという認識を呼び起こしたのです。
同基金は2000年から生存者に補償金の支払いを開始し、強制労働被害者への補償金支払いは今年9月末に完了。強制労働被害者の多かったロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ポーランド、チェコ、イスラエルの6カ国とユダヤ人組織「対独物的請求ユダヤ人会議」などと補償契約を結び、150万人以上の被害者に一人約2500〜7500ユーロが支払われました。
同基金は今後、強制労働被害の青年への継承や国民どうしで迫害を許さない交流を進める機関として活動します。(片)
〈参考文献〉『過去の克服・ヒトラー後のドイツ』(石田勇治著、白水社)
〔2006・11・25(土)〕

