2006年11月20日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

教育基本法のすばらしさ知って

何かしたい人に集える場


 「徹底した審議を!」の国民の声を無視し、教育基本法改悪案を衆議院で強行採決した自民、公明両党に怒りの声があがっています。「ほんとうに学びたいことが勉強できるように」「教育は自由であってほしい」――教育基本法のすばらしさを知って改悪法案に反対する動きが青年の中でも広がっています。(伊藤悠希)


「あんころチーム」 ブログで提供

 改悪案の強行採決に東京大学三年生の石田精一郎さん(26)は言います。

 「改悪されたら法律のお墨付きがついてしまう。そうなれば大学生活の自由や学問の自由が奪われることになりかねない」「大学が独立行政法人になったことで、過程よりも成果重視になっていると感じる。人格の完成ではなく、国家が望む人材を完成する場にますますなっていくのでは…」

 臨時国会が始まった九月二十六日、国会前に集まった「教育基本法の改悪をとめよう! 全国連絡会」の人たちの中に青年たちの姿も。同会にある「あんころ(アンチ『心の総動員』)チーム」のブログには全国さまざまなところから行動の様子、個人の意見などが掲載されています。

大学正門前で一人ビラ配り

 ホームページを管理しているのが石田さんです。「問題意識があっても時間が取れず、出て行く場所がない人たち。何かやりたいけどどうすればいいか迷っている人たちが集まれる場所をつくりたい」

 大学では正門前で一人でビラを配ったり、ポスターを張ったり、友達にホームページを見てと伝えています。

 十二日、東京・日比谷野外音楽堂で開かれた「教育基本法の改悪をとめよう!全国集会」では八千人の参加者の前で司会を務めました。「情勢は厳しいが、自分たちが正しいと思っていることをやっています。仲間がいるからやっていけます」

 石田さんは大学のサークル連合の代表です。学生が管理運営する駒場寮の委員長として寮存続の運動もしました。当時行った学生投票では、寮を存続させる人が多数。しかし、学生は未熟で自分で判断できないことを理由に教授会の決定に従うべきという高裁の判決が出て、取り壊されました。「住んでるところを国の政策によって追い出されたから、普通におかしいって感じました」

 その経験から、大学の中に学生の自治活動や民主主義を広げたいと考えるようになりました。サークル連合の活動では、学生が自由に活動できる場を守る運動をしてきました。ことし二月のサークル連合の大会では教育基本法改悪に反対する決議を提案。賛成多数で決議が可決されました。

 東大のサークルは、ビラ配布や立て看板をつくって宣伝することが自由です。学生自治会が教授会と交渉し、学生の自主性に任せているからです。石田さんは「自分たちで学んだことを発信していく―。これは教育の自由につながっている」と話します。

ネットで知り国会前で発言

 秋晴れの下、国会前で教育基本法改悪反対のための座り込みをしている人たち。マットの上に座って参加者の発言を笑顔で聞いている飯塚恵さん(26)=仮名=。愛知県からの参加です。「教育基本法の理念を正しいと思っているから改悪することに反対です」

 飯塚さんは大学で「教育とは何か」を学んできました。受験のための勉強、就職のための大学進学―。「自分が学びたいことを勉強できないのはおかしい」と感じていました。大学では財界からの圧力で「人間」ではなく、企業にとって都合のよい「人材」の形成に教育を利用していることを学びました。「教育基本法が生かされていないことがわかったんです。財界にも財界の圧力に応じてきた政府にも怒りを感じます。教育は政治の影響を受けやすい。だからこそ守らなければと思います」

 教育基本法第一〇条(教育行政)は、戦前の教育が国家権力の介入を受け、軍国主義教育を招いたことを反省し、国が教育内容に介入しないためにつくられました。改悪案は教育内容への国家の介入を認めるものとなっています。

 飯塚さんは大学卒業後、就職しました。仕事は三カ月間無休のときもしばしば。過労がたたり、うつ病になってしまいました。職場でも過酷な状況に意見を言えず、言う人もいませんでした。教育基本法のことは働いている時もずっと心に引っかかっていました。何かしたい。でも、時間がないというジレンマ。

 インターネットで臨時国会開会日の国会前集会を知り、後輩や教師をしている友達に電話をしました。後輩の学生は自分たちでは止めることができないと述べ、友達は日常の業務に追われ、時間が合いません。「私しかいないじゃん」。後輩四人を連れて国会前へ行きました。自分が発言していくことで世論をつくれることを伝えたいと発言もしました。

 「一度始めてしまったら止まらなくなってしまって。お金が続く限り、体力がある限り続けたい。勉強をして知っている人の責任だから」

 飯塚さんは個人として動ける場所、発言できる場所を探していました。「教育基本法の改悪をとめよう! 全国連絡会」に賛同する若手が運営している「あんころチーム」の活動に参加。11・12全国集会の準備に取り組んできました。

 集会では若者代表の一人として発言。デモはDJを乗せ、音楽をかけながら走る車を先頭に、青年たちが教育基本法改悪反対の思いを伝えていきます。飯塚さんの友達もデモに参加し、マイクを握っていました。飯塚さんは「教育とは私たち一人ひとりが豊かな人間になるためのものです。だから絶対にゆずれない」。


お悩みHunter

世界史未履修だったでも何の支障もない

  高校の世界史が未履修だったのは私もです。ただ、学んでいなくても何の支障もありません。私は日本史なら必修であるべきだと思うのですが、世界史はそう思いません。

(大学生、男)

視野の広い歴史認識は不可欠

  「先生、私の高校では、時間割上ではすべて“世界史”と表記されていました。教科書も全員買いました。でも、学校は世界史の時間に日本史の授業をやっていました」

 うつむきかげんにこう告白する学生。「ずるーい」とわき起こる友人たちの叫びの中で、彼女はこうつぶやきました。「先生、私は高校卒業の資格がないんですね。この大学の入学は取り消されるのですか―」

 こわばった彼女の表情に、周囲の空気も張りつめました。

 「君に責任があるわけじゃありません。自信を持ちなさい。ましてや入学を取り消すなんてことはあり得ませんよ」。私は、思わず声に力がこもりました。卒業生にまでこんなに「後ろめたい」思いをさせる事態に、憤りさえ覚えました。

 地球規模で急速に進展するユビキタス(遍在した)時代に、世界史の知識や教養は必須であることは言を待ちません。それが必修であろうがなかろうが、現代を担い、新しい歴史を刻む歯車の回転軸になるべき若者たちには、世界史に関する教養は不可欠です。

 「世界の中の日本」であり、「日本の中の世界」でもあるからです。だれもが幸せに生活できる平和な世界と日本を築くためには、二者択一ではなくどちらも不可欠です。視野の広い歴史認識は、現在の日本が果たすべき役割を示唆し、明日を展望する力を与えてくれることでしょう。


教育評論家 尾木 直樹さん

 法政大学キャリアデザイン学部教授。中高二十二年間の教員経験を生かし、調査研究、全国での講演活動等に取り組む。著書多数。


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