2006年10月5日(木)「しんぶん赤旗」

市田書記局長の代表質問

参院本会議


 日本共産党の市田忠義書記局長が、四日の参院本会議でおこなった安倍晋三首相の所信表明演説に対する代表質問の大要は次の通りです。


国政担う首相として歴史認識を語ることを避けてはならない

写真

(写真)代表質問にたつ市田忠義書記局長=4日、参院本会議

 私は日本共産党を代表して、安倍総理に質問します。

 まず、総理の歴史認識についてであります。

 昨日、わが党の志位和夫委員長が歴史認識をただしたのにたいして総理は、「歴史の分析について政治家が語ることについては謙虚であるべきだ」といって全く答えませんでした。しかし、過去の戦争にたいする認識を語ることは、国の政治に責任を負う立場にある総理にとって絶対に避けて通ることのできない問題であります。

 戦後の国際秩序は、日本、ドイツ、イタリアがおこなった侵略戦争に明確な審判を下し、「あの戦争は間違っていた」「二度と同じ過ちをくりかえさない」という共通の認識と反省の上に打ち立てられました。日本が、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こる事のないようにすることを決意し」た憲法を確定して、国際社会に復帰したのもこの原点にもとづくものであります。総理はこの認識をお持ちですか。過去に誠実に向きあい、誤りを真摯(しんし)に認めることこそほんとうの謙虚さであり、アジアや世界の国々との真の友好を発展させる道ではありませんか。

 総理は、『美しい国へ』という自らの著書の中で、憲法前文の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたい」という文言をさして、これは連合国にたいする詫(わ)び証文だと述べています。国連憲章で謳(うた)いあげられた世界政治の理想とそれに積極的に参加しようという日本の決意を、列強の国々への「妙にへりくだったいじましいもの」といってはばからない極めて異様なあなたの立場が、今日の世界に通用するとでも考えておられるのでしょうか。

 その戦争が、侵略戦争であったかどうかで一番大事なことは、それが自国の領土拡張や他国の支配をめざした戦争だったかどうかであります。

 満蒙は日本の生命線――現在の中国東北部と内モンゴル自治区は、日本が存立してゆくうえで必要な領土であり、力ずくで奪ってもいい、というのが、当時の日本政府の公式の立場でした。

 これが一九三七年には、さらに中国本土にひろがり、この戦争を継続するために日独伊三国同盟を結ぶときには、東南アジアの全域に、西はインド、東は大洋州まで加えた広大な地域を日本の生存圏だと勝手に決めて、攻め入りました。

 それでも総理は、靖国神社が言うように、先の戦争をアジア解放の正義の戦争だったという立場に立つのか、それとも靖国神社の考えとは違うのか、はっきりとお答えください。

首相の教育論――「管理と競争」に拍車をかけ国家が無制限に介入

 つぎに、総理の教育論についてお聞きします。

 総理は、「学校選択制」を全国に広げようとしています。東京都ではすでに二十三区中十九区で導入され、その結果、入学者がゼロという小中学校まで生まれています。また、国が監査官を全国に配置して、学校、教師、子どもたちを監視して評価し、問題校は民間に移行させ、国家が問題だと判断した教師はやめさせる、さらに、学校を序列化したうえで、国が「いい学校」と考えた学校には予算を配分し、「悪い学校」はつぶす。それでは、そこに通っている子どもたちはいったいどこへいけというのですか。地域から学校をなくしてどうして義務教育がなりたつでしょう。

 国がやるべきは地域のひとつひとつの学校の教育条件の充実であります。地域の公立学校同士を競争させて成果主義で淘汰(とうた)する、これが一人ひとりの子どもに人として生きる基礎を身につけさせる義務教育のあり方でしょうか。総理の教育論は、いまでもさまざまな弊害を生みだしている「管理と競争」の教育に一層拍車をかけるものであり、教育内容にたいする国家の無制限の介入ではありませんか。

 子どもたちが一人ひとり、親からも社会からも大切にされ、子ども同士がたがいに相手を大切にしながら立派な市民に成長すること、落ちこぼれや差別をなくし、どの子にも必要な学力をつけさせること、そして安全で健康な子育ての環境を整備すること、これこそ国民の願いにこたえる政治の責任であります。

格差と貧困、くらし――働いても暮らせない実態をつくり出したのは誰か

 つぎに格差と貧困、暮らしの問題についてであります。

 「努力した人が報われ」「誰でも再チャレンジが可能な社会を」――所信表明の中で、この総理の言葉ほどうつろに響いた言葉はありません。

 働いても働いてもまともな暮らしができない「ワーキングプア」をつくりだしたのは一体誰か。

 これは、けっして自然現象ではありません。あなたがその中枢にいた小泉政権の五年半の間にすすめられた、労働者派遣法の改悪など人間らしい働き方を破壊した労働法制の規制緩和の結果であります。その反省もなしに、なにが「再チャレンジ」でしょうか。

 総理、「再チャレンジ」というのなら、改悪された働くルールを少なくとも、もとに戻すべきではありませんか。

 雇用主にとって都合のよいルールの改悪がすすめられたもとで、まん延したのが偽装請負などの違法・脱法行為です。総理は「ルール意識を欠いた企業活動による不祥事」を、わが国の解決すべき課題のひとつにあげられました。ならば、最大の不祥事ともいえる、偽装請負やサービス残業など労働法規違反行為を根絶する決意と具体策を示すべきではありませんか。

 今年六月から七月にかけて、市町村の住民税の窓口は、お年寄りからの問い合わせが殺到してパニック状態になりました。年金は一円も増えていないのに、多い人では住民税が八倍から十倍にもなっている。いきなり増税通知を受け取った人は全国で五百万人以上。

 なぜこんなことになったのか。

 一昨年、昨年と小泉内閣がおこなった税制改悪で、これまでお年寄りの税負担を緩和するためにつくられていた公的年金等控除は縮小され、老年者控除をなくし、定率減税を半減したからであります。

 国保料や介護保険料も雪だるま式に値上げされました。来年からは定率減税が全廃され、消費税の増税まで検討されています。いったいどれだけ搾り取れば気がすむのか。

 日本共産党は、あらたな負担増と庶民増税の中止・凍結を強く求めるものであります。

増税にあえぐ庶民しりめに大企業と高額所得者は優遇税制の恩恵

 総理は「成長なくして財政再建なし」といわれました。

 いま大企業は、バブルの時期をはるかに上回り、経常利益でいえば一・五倍もの空前の利益をあげて、かつてなく税負担能力をたかめています。バブル崩壊のあと引き下げられたままの法人税率をもとに戻すべきではありませんか。

 大企業の一人当たりの役員報酬は、この五年で一・七倍、二千八百十一万円になりました。これらの人々も、たびかさなる増税にあえぐ庶民をしりめに、高額所得者の最高税率引き下げの恩恵を受け続けています。

 さらに、株式の配当はこの五年に二・五倍にふくれあがりました。しかし、これへの課税も引き下げられ、アメリカよりも低い10%です。ほとんど額に汗することなく手にしている高額所得者への世界でもまれに見る優遇措置は直ちに見直すべきではありませんか。

 尾身財務大臣は、大企業を中心に六千億円ともいわれる減税を新たにおこなう考えを示していますが、総理も同じ考えですか。事実なら言語道断であり、強く中止を求めます。

 人間らしい働き方をこわし、社会保障を切り捨て、「応益負担」という名で障害者が自立する基盤を崩す。医療から見放された人々がもがき苦しみ、将来に希望の持てない若者があふれる国、これが、どうして「美しい国」といえるでしょう。

 日本共産党は、大増税、負担増をやめ、庶民の家計を応援して、経済を健全な発展の軌道に戻す、巨大開発のムダ遣いを本気で一掃する、大企業と大金持ちに力に応じた負担を求めるなど、大企業中心から国民生活中心の経済政策に転換することを強く求めて質問を終わります。


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