2006年10月3日(火)「しんぶん赤旗」
爆音・墜落 黙っておれぬ
米艦載機移転反対署名
住民半数突破の 山口・周防大島町
山口県周防大島町(すおうおおしまちょう)では米艦載機部隊移転に反対する署名が、住民の52・2%に当たる一万一千二百三十一人分集まりました。町出身者で町外に住む人など九百九十四人分も加わっています(九月二十五日現在)。運動の中心を担った「大島の静かな空を守る会」代表委員の一人、河井弘志さん(70)は「一言説明するだけですぐ応じてくれる。冷たい麦茶で迎えられ、昔話に花が咲く楽しい署名集めです」と語ります。背景には長い間、米軍機の騒音に悩まされ続けてきた住民の思いがありました。(前田泰孝)
周防大島町では全町の上空を、岩国基地を離着陸する米軍機が飛び交います。日常的に爆音がとどろき、過去に墜落や部品落下、不時着事故を八回起こしています。
同町自治会連合会の青木忠義会長は「目の前に第二の沖縄ができる。これ以上黙って見ておれんのです。子どもや孫にまで頼んで一気に集めた」といいます。
町長は容認派
艦載機部隊移転を容認する中本冨夫町長のおひざ元、日前郷(ひぐまごう)地区。町長宅から歩いてほど近い農家の女性(70)は「地元の町長なら反対して」と語りました。
声を絞ってこう加えました。「『集落あげて応援したのになんもせん』と批判されている。だれも面と向かっては言わんから本人だけが知らんのです」。署名賛同者は他地域よりかなり高い83・9%にもなりました。
防衛施設庁も被害の拡大を認める浮島(うかしま)では、賛同者が96・2%に達しました。夫が署名集めに協力したという主婦(66)は二カ月前、突然の爆音に包丁の手元が狂ってケガをしました。
「ドーンって襲って来る。ネギを切っていた包丁がぶれて…。国が決めた以上は仕方がないという気持ちと、それでも意思を示したいという思いの両方がある」といいます。
別の主婦(37)は「小学三年生の子どもが『どうしたんや。戦争か』と跳び起きた」といいます。町営の渡し船で毎朝、町の学校に通う中学生(13)は「爆音で授業が中断される。これ以上、戦闘機が増えるのはイヤ」だと語っていました。
中本町長と歩調を合わせる、ある町議の父親も署名を集めました。
取材に対し最初は「世話になった人に頼まれただけ」と硬い表情。でも時間がたつにつれ、「静かで住みよい島を残したい。年寄りが政治に口出すなと、息子は言う。いろいろ事情があるんでしょうな」と話しました。
「振興策」批判
移転容認派が口にする「国が決めた以上、移転撤回は無理」という「国の専管事項」論や、米軍機移転とセットになった「振興策」に対する批判も聞かれました。
買い物帰りの主婦(54)は「『国が決めたことだから…』はおかしい。これ以上の騒音や事故はすべて国が面倒を見てくれるんですか」。スーパー前にいた男性(83)も「戦後六十年間、墜落や騒音被害に悩まされて、それで国がなにかしてくれましたか。いまさら振興策だ、防音対策だなんていわれても信用できるわけがない」。
知恵出し合い 署名6、7割へ
「静かな空を守る会」
「大島の静かな空を守る会」などの住民有志はさらに運動を広げる準備に取りかかっています。
九月末、過半数に達した署名を前にした中本町長は「50%なら(民意の)重さも半分。署名を全部取って来たらええ。それでも、わしの考えは変わらんね」と居直りました。
その様子をテレビで見た河井さんは「みんなガッカリするな」と思いました。でも翌日の会議に集まった人たちの表情は明るいものでした。
「六割、七割の署名を集めよう」「昼間、農家は農作業で留守が多い。今後、そういう人から丹念に集める知恵がいる」と次々意見が飛び出しました。
会の代表委員で山口県高等学校退職教職員協議会の松田博会長は「町内の学校や事業所、病院からも署名が届き始めている。そういうところに働きかけるのがカギ」だと語ります。
「大島の静かな空を守る会」は当面、六割を目標に署名運動を進め、全町議に移転撤回を求めるよう要望する声明書を渡す予定です。
代表委員の河井さんは「周防大島町でも移転容認は少数派になった。さらに運動を広げるため『岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会』や岩国市の住民三団体に知恵を借りるべく交流会を提案したい。広島、山口県の横断的な運動ができるといい」と抱負を語っています。
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