2006年9月21日(木)「しんぶん赤旗」

タイ・クーデター

長期の政治空白 背景

民主化への影響に懸念の声


 【ハノイ=鈴木勝比古】タイ陸軍による今回のクーデターは、今年初め以来のタクシン首相辞任要求をめぐる与野党対立の長期化による政治のこう着・空白を背景にしたものです。タクシン首相排除を狙った軍部の強権発動は、「容認できない」(ダウナー豪外相)など、タイの民主化の定着や経済への悪影響を懸念する声があがっています。


 タイでは一九九一年のクーデターを最後に十五年間、クーデターはありませんでした。一九三二年の「立憲革命」以来、失敗に終わったクーデターも含めてこれまで十七回にわたりクーデターが起こりました。しかし、タイの民主化の前進とともに議会政治が定着しつつあり、「クーデターは過去のもの」との見方が一般的でした。

 この間、九七年にタイの議会政治の確立と民主主義、人権の擁護をめざして新憲法が制定されました。新憲法はタイの民主化に貢献してきた活動家、有識者の意見を反映して、言論の自由、人権の保護、汚職防止のための諸規定を盛り込んだ民主的な内容となりました。

 この新憲法の下で行われた二回の総選挙ではタクシン首相が率いるタイ愛国党が圧勝しました。タクシン政権は、農民や中小企業への手厚い経済政策や都市貧困層への支援策で高い支持がありました。しかし、同首相のメディアへの介入や親族による脱法的企業経営の大もうけが都市中間層の強い反発を招きました。

 今年一月にタクシン首相の親族企業が株取引で巨額の利益を得たことに対して野党と市民団体が強く反発。市民団体はタクシン首相の辞任を要求して街頭行動を繰り広げました。

 タクシン首相は国民に信を問うとして二月に下院を解散し、四月二日に総選挙を実施しました。しかし、主要野党が総選挙をボイコット。タクシン首相の与党・タイ愛国党が圧勝しましたが、憲法裁判所は総選挙の無効を宣告しました。

 タクシン首相は野党や市民団体の同首相辞任要求がおさまらないのをみて、いったんは政界引退を示唆したものの、その後、農村部での強い支持を背景に首相再任もありうるとの態度に変わりました。

 十月十五日に予定したやり直し総選挙は、新選挙委員会選出が難航し、延期が確実となりました。国会が成立せず、来年度予算案の承認が遅れ、タイ経済への影響は免れない事態となりました。加えてタイ南部でこれまでに千四百人の死者を出したイスラム系住民と軍・警察の衝突が解決されず、最近では相次ぐ爆破事件が発生し、国民の不安をつのらせていました。

 八月下旬には軍部が関係したとされるタクシン首相暗殺未遂事件も発生しました。

 今回のクーデターは、タイの新憲法下の議会政治が与野党の対立で危機に陥っていたなかで起こりました。タイの民主化とともに否定されてきた軍部の政治介入の再現は、タイ国民に不安を引き起こしています。

2週間で暫定政権

陸軍司令官 来年10月までに総選挙

 【ハノイ=鈴木勝比古】タイでクーデターを主導し、全権を掌握した民主改革評議会の指導者となったソンティ陸軍司令官は二十日、バンコクで外交団、記者団と相次いで会見し、二週間以内に民間人を首相とする暫定政権を任命、来年十月までに総選挙を実施することを明らかにしました。また、総選挙実施のための憲法修正を行う考えを示しました。

 外交団筋によると、ソンティ司令官は、海外に滞在している「タクシンとその閣僚は帰国できる。彼らは何も悪いことをしていない」と語りました。ソンティ司令官は記者団との会見で、総選挙を来年十月までに実施すると語り、クーデター計画については、二日前に決定したことを明らかにしました。また国王のクーデター関与を否定しました。


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