2006年9月20日(水)「しんぶん赤旗」

自民党 総裁選の風景

財界の“首相ふ化器”育ち


 自民党は二十日、新総裁を選出します。最有力とみられてきた安倍晋三官房長官を筆頭に谷垣禎一財務相、麻生太郎外相の三氏が総裁選の候補者に浮上してきた経過をたどると、三氏とも財界とアメリカの認知を受けた上で登場していることがわかります。(総裁選取材班)


 晋福会――。安倍晋三氏を囲む財界主流をメンバーとする会合の名前です。東京・紀尾井町の料亭「福田家」で開かれることから、この名称がついたとされます。

 財界人メンバーは奥田碩トヨタ自動車会長、今井敬新日本製鉄名誉会長、三木繁光東京三菱銀行会長、山口信夫旭化成会長、西室泰三東芝会長ら十六人(肩書は名簿作成時)。

 日本経団連正副会長経験者や日商会頭といった有力財界人が名をつらねています。

全員メンバー

 安倍氏と財界主流を結ぶ会合にはもう一つ、自由社会研究会(豊田章一郎元経団連会長ら)があります。来年七月で発会から三十年になり、財界人による「総理大臣を生む孵化(ふか)器」(経営評論家・針木康雄氏)と呼ばれます。

 会の旗揚げは一九七七年。ロッキード事件が自民党政権を揺るがし保革逆転、自民党の政権転落を恐れた盛田昭夫ソニー社長(当時)ら財界人が総裁候補となるような有力政治家を集めたのが始まりです。竹下登、海部俊樹、宮沢喜一、羽田孜、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗の歴代首相を政治家メンバーのなかから誕生させてきました。自民党幹事長をつとめた安倍氏の実父・晋太郎氏も会員でした。政治家メンバーは適時補充されます。

 今回の自民党総裁選を争う安倍、谷垣、麻生の三氏はいずれも自由社会研究会会員です。

「3人とも安心」

 自民党総裁選の感想を求められた日本経団連の御手洗冨士夫会長は「三候補とも基本的に改革路線を継承している。ひじょうに好感が持てます。もう一つ安心して見てられるのは、規制改革路線が後に戻らないという安心感を与えてくれます」(十一日、経団連会館での記者会見)と語っています。

 財界人による“首相を生む孵化器”のなかで育てられた政治家三人が財界の安心と期待の中で競い合ってみせる自民党総裁選――。国民から遊離した総裁選と冷めた空気が漂う実体がここにあります。

「イノベーション」の公約

アメリカ発 経団連経由

 「イノベーションで新たな成長と繁栄の道を歩む国」。安倍晋三氏が総裁選公約で掲げる四つの柱の一つです。

 他の二候補が二十ページを超す「政権公約」を示しているのにくらべ安倍氏のそれは本文わずかA4判二ページ。その短い文章に「イノベーション」ということばがなんと六回も登場します。

 イノベーションとは「革新」「新機軸」を意味します。安倍氏は、総裁選直前に出版された外資系証券マンとの対談本(藤田勉著『安倍晋三の経済政策を読む』)のなかでイノベーションについて、「私が進めるイノベーションとは、革新的な技術、製品、サービス、ビジネスモデルを生み出していくこと」「日本の企業が競争力を維持していくためにはイノベーションが重要」と解説します。

 安倍氏のイノベーションへのこだわりは、なにを意味するのか。

財界へのサイン

 「財界と一体となった政権運営をめざすという安倍氏のサイン」(経済団体幹部)です。

 御手洗日本経団連会長は今年五月に就任以来、「政治と経済は車の両輪」論を強調し、「産業・経済・社会システム、また人々の意識等々についてイノベーションを進めたい」(五月二十四日、就任あいさつ)と訴えています。

 安倍氏は財界の主張をそっくり政権公約に盛り込んだというわけです。

 安倍氏が取り入れた御手洗会長の「イノベート・日本」「希望の国」ビジョン。じつは御手洗ビジョンそのものがアメリカからの直輸入です。

 「アメリカ産業界が二年前から主張する『イノベート・アメリカ』『希望の国アメリカ』の丸写し。日本政財界のアメリカへの忠誠の証しです」と財界関係者は指摘します。

 米国競争力評議会報告書「イノベート・アメリカ」(通称「パルミザーノ・レポート」二〇〇四年十二月)は、IBM最高経営責任者パルミザーノ氏を議長にして検討した米国産業界の国際競争力回復のための処方せんをまとめました。その核心は「アメリカが直面している課題はイノベーションを創出しやすいようにアメリカ社会全体を最適化」することにあります。つまり社会構造全体を企業が効率経営ができ、最大限利潤を得られる仕組みにイノベート(革新)するという点です。

 「イノベート・アメリカ」政策はブッシュ政権のもとで国家政策として展開されています。

 イノベーション路線で、安倍―財界ビジョン―アメリカ政財界は一線上につながります。

ワシントン詣で

 「市場(財界)とワシントンは“福田乗り”だ」。こんな情報が永田町や兜町に広がったのは、昨年後半から今年前半の時期。情報の広がりとともにポスト小泉の有力候補に福田康夫元官房長官の名が浮上しました。

 乗り気を見せた福田氏が五月向かった先はアメリカ。ワシントンで米政財界へ日本の有力首相候補としての知名度を上げる目的でした。しかし七月二十一日になって出馬を見送りました。

 立候補した三人は福田氏に先立って、すでにワシントン詣では済ませていました。安倍氏は幹事長代理当時の昨年五月二日から八日まで訪米。ワシントンでは現職閣僚でもない安倍氏にチェイニー副大統領、ライス国務長官、ラムズフェルド国防長官らが応対し、ホワイトハウス滞在中にブッシュ大統領とすれ違う場面が演出されました。

 谷垣氏は財務省の公務と切り離して今年一月に訪米、麻生氏も昨年十二月、外相就任の披露を兼ねて訪米。ポスト小泉をワシントンに売りこみました。

 「財界とワシントンのお墨付き」――二つがないと総裁選に名乗りをあげる資格すら得られないという自民党の総裁選びの本質が、今回の総裁選のなかでこれまでになくあらわになっています。


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