2006年9月18日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPress

バイトしてもバイトしても日本の学費、払いきれず

初年度130万円 遠のく大学


 日本の学費は、世界の中でも異常な高さです。初年度納付金は、国公立大学で80万円、私学130万円――。格差社会が広がれば広がるほど大学は遠くなります。「お金の心配なく学びたい」。学生たちの声は切実です。(伊藤悠希)


 「夏休みは週に五日バイトに入ります。週六も大丈夫ってバイト先には言ってあるんです」。Yさん(18)は東京都内の私立大学二部の一年生です。前期は平日に二日間と土日の週四日バイトをしました。平日は学校が終わってからの午後十時から午前二時、土日は十時間です。「毎月十万円以上はほしいんですけど」

 Yさんは母子家庭です。母親の収入だけでは入学金と初年度の学費が払えず、借金して払いました。いまは今後の学費のために月五万円の貯金をしています。

体重12キロ減

 バイトを始めたのは高校三年生の夏休み。週に五日バイトをして大学の受験料をためました。受験を終えた三月は週に六日、一日平均七・五時間働きました。食事は二回。受験時は七十二キロあった体重が六十キロに減りました。

 大学の授業は午後四時二十分から七時三十分。バイトの日は、そのまま直行します。午前二時に終わると後片付けをして早くて三時、遅いと五時くらいに帰宅します。家に帰ったら「即行寝」ます。

 午前十時ころに起床、シャワーを浴び、勉強していると家を出る時間に。家から大学までは約一時間半―二時間かかります。定期代もバカになりません。三月にためたお金はほとんど定期代に消えてしまいました。

 母親から食費として月一万円もらっていますが、使い切ってしまうためほかに回せません。母親も大変なので食費も自分で出すことにしました。携帯代は毎月六千円代に抑えています。

国会に要請

 Yさんは自分の実態を国会議員に知ってもらおうと七月七日に行われた「全学連国会要請」に参加しました。

 Yさんは地域や学部を問わず、学費のことで悩んでいる学生の多さに驚きました。「こんなに多くの人が困っているのに政府の方針はどんどん苦しめていく方向に進んでる。変えなきゃ」

 Yさんの夢は弁護士。後期から本格的な授業が始まります。前期はバイトを入れても授業にはついていけました。夢を実現するには二部のままでは難しく、一部に編入したい気持ちもありますが、授業料が上がってしまいます。ロースクールに行くお金もありません。このままでは夢をあきらめざるえません。

 外国の学費を調べていくうちに、欧米諸国では学費が無償、給付制の奨学金が多いなどの違いを知りました。「仕方ないと思っている人がほとんどです。学費を無償にできる根拠があるのだから日本でも実施してほしい」

▼これが学生の実態

 ■学費(国公立私立大学学部・昼間部の平均)が過去最高で年間百十七万円
 ■大学学部(昼間部)生の奨学金の受給率は全体の41%
 ■下宿生(昼間部)への仕送りの割合は過去最低で66%
 ■アルバイトをしている学生は全体の76%
 (独立行政法人日本学生支援機構の調査。学生五万一千人対象で三万一千人が回答。〇四年十一月現在)


無償化は世界の流れ

 全日本学生自治会総連合(全学連)は、八月七日―二十五日まで開かれた国連人権推進擁護小委員会(ジュネーブ)で、日本の異常な高学費を告発し、是正を要請しました。全学連は国連の特別協議資格を持つ国際人権活動日本委員会に加盟しています。小委員会に参加した大嶋祐介副委員長に話を聞きました。

 社会権規約は、一三条二項(C)で高等教育における無償教育の漸進的導入を定めています。日本政府はこの条項について留保しています。これに対し社会権規約委員会は二〇〇一年八月に発表した最終見解で留保の撤回を勧告しています。

 日本政府は〇六年の六月三十日までに回答を含む報告書を出さなければなりませんでしたが、出していません。批准すれば法的拘束力を持ち、日本政府は漸進的な無償化の計画を立てなければなりません。

 小委員会では一人の女子大学生が高学費のために家族のことを心配し、「生まれてこなければよかった」と思い悩んでいる実態を紹介。日本政府が社会権規約委員会の勧告に従い留保を撤回し、学ぶ権利を侵害している現状をただすことが求められていると訴えました。

 その後、二日間フランスに行き、大学を見学しました。

 日本では大学を卒業しても就職できるか、自分のやりたい仕事をやれるか、休みを取れるか不安で、卒業しても展望が持ちにくい状況です。フランスの大学は入学は簡単ですが、卒業は難しく、一つの研究にじっくり取り掛からなければなりません。その結果、留年することになっても奨学金は受給できます。

 働きながら大学に通う人が多いのも特徴です。研究を深めるために大学に通おうと思えば会社が行かせてくれます。学費も年間二万円なので容易に出せます。

 大学に通っても職場での権利は保障されています。就職しても一カ月ほどの長期休暇は保障され、学んだことが生かせるので卒業後の展望があります。

 日本では学費は受益者負担という考え方が主流ですが、世界は、高等教育は国を支える人材を育てるために必要不可欠との考えに基づいており、学費無償化は当たり前の流れになっていることに確信を持てました。

 学費の問題は学生だけの問題ではなく社会全体の問題だということだと思います。日本の高等教育においては教育の機会均等が侵され、人権侵害の域に達しているという認識を改めて持ちました。この経験を踏まえ今後も取り組みを続けていきたい。


 社会権規約 労働の権利、男女平等権、社会保険・社会補償の権利、医療に関する権利、教育権などに関する人権を規定している国際人権規約。第一三条一項で「締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める」としたうえで、二項(C)で「高等教育は…無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとする」と定めています。


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産休が取れずに退職 やはり再就職したい

  八月に出産しました。以前の職場は短期契約で産休が取れず、退職。子育てと仕事を両立できる職場に再就職したいですが、現状は厳しい。子育ては楽しいのですが、仕事をする中で社会の一員として役に立ちたいとの要求があります。子どもと自分の要求に折り合いをつけるにはどうすればいいでしょう。(神奈川県 女性、28歳)

子どもと過ごす時間大切に

  相談から、今の日本の少子化問題の原因の一端がわかったような気がしました。「社会の一員として役に立ちたい」という要求は男性女性に関係なくあって当然だと思います。それなのに現状では妊娠・出産を機に社会から切り離されていく女性が非常に多いですね。

 一方で、男性は会社に縛られて奥さんや子どもから切り離されています。これでは女性がなかなか出産に踏み切れないのもわかります。政府や会社はあなたのような意見をもっと聞き入れていくべきだと思います。  私の友人に、産休して二人目を産んですぐ職場に復帰した女性がいます。職場の事情や、二人の子どもを育てるために共働きで家計を支えなくてはならないなどの理由があるようです。「ちょっと子どもがかわいそうだな」という気もします。

 私の周りで子育てと仕事を両立しているのはその友人だけで、ほとんどは専業主婦で子育てをしている人なので、余計にそう感じるのかもしれません。もちろん彼女は少ないながらも子どもと過ごす時間を大切にしていることと思います。

 あなたの希望通りに産休も取れて正規社員として働ける職場が見つかるといいですね。もし見つからなかったら、ここは割り切ってしばらくは子どもと過ごす時間が与えられたと思い、子どもを存分にかわいがってあげてください。


第41代日本ウエルター級チャンピオン 小林 秀一さん

 東京工業大学卒。家業の豆腐屋を継ぎながらボクシングでプロデビュー。99年新人王。03年第41代日本ウエルター級チャンピオン。


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