2006年9月7日(木)「しんぶん赤旗」

対テロへ「長い戦争」

米政府 戦略文書改訂版を発表


 米政府は五日、二〇〇一年の9・11同時テロから五周年を前に、米国の対テロ戦争の戦略文書「テロとのたたかいに関する国家戦略」の改訂版を発表しました。ブッシュ政権の対テロ戦争を正当化し、その破綻(はたん)を取り繕いながら、「長い戦争」を続けることを宣言しています。

 【ワシントン=山崎伸治】米政権の対テロ戦争の戦略文書「テロとのたたかいに関する国家戦略」の改訂版は、現状を「米国は比較的安全になったが、まだ安全ではない。敵の決意の固さは変わらず、われわれは国内外で深刻な課題に直面している」として、対テロ戦争での「長期のたたかい」を改めて強調しています。

 同戦略が最初に公表されたのは二〇〇三年二月。改訂版は今年三月公表の「国家安全保障戦略」も踏まえ、「対テロ戦争に勝利する道筋を示す」ものと位置づけられています。

 改訂版戦略文書はこの間の「対テロ戦争」の“成果”として、(1)テロ組織アルカイダをアフガニスタンから追い出した(2)多国籍軍がイラク国内のテロリストとの戦争を攻勢的に進めている(3)国内のテロを未然に防いだ―ことなどをあげています。

 一方で、▽テロのネットワークが分散化している▽テロ攻撃をすべて防ぎきれていない―などと、対テロ戦争の破綻(はたん)を認め、シリアやイランなどをテロリストを支援していると批判しています。

 そして、米国が現在直面する敵に共通するのは「イスラム教を利用し、テロリズムをイデオロギー上の目的とする」点だとし、「対テロ戦争は武器でのたたかいであると同時に、思想でのたたかいだった」と指摘。長期的に「思想でのたたかい」に勝つ必要性を強調しています。


解説

戦略の破綻 取り繕う

 ブッシュ米大統領は五日、ワシントンで行った演説で、イラクは対テロ戦争の主戦場だと強調しました。その「主戦場」のイラクでは、米兵の死者が二千六百五十人以上に達しています。イラクの民間人の犠牲者は四万一千人から四万六千人といわれます。イラク国民の間では安全が脅かされているという不安が募っています。

 イラクの民族・宗派間の抗争は、二月にイスラム教シーア派の四大聖廟(せいびょう)の一つを爆破する事件以来、全土でいっそう激化しています。米国防総省も一日に公表した情勢報告のなかで、内戦への懸念を表明しています。

 イラクの現状はテロの封じ込めどころか、逆にそれを拡大させ、先制攻撃を柱にしたブッシュ・ドクトリンの破綻(はたん)を証明するものになっています。イラクの「有志連合」も崩壊し、ブッシュ政権は国際的にも孤立しています。

 米国内でも、ブッシュ政権のイラク政策に対する批判が増えてきています。二〇〇三年三月のイラク戦争開戦直後の同年五月の世論調査(『ニューズウィーク』誌)では、ブッシュ政権のイラク政策への反対は26%にすぎませんでしたが、今年八月末には63%と倍以上になっています。

 十一月の米中間選挙に向けて八月八日に行われた東部コネティカット州の民主党候補を選出する予備選挙では、二〇〇〇年大統領選挙の同党副大統領候補で、イラク戦争を支持する現職のジョゼフ・リーバーマン上院議員が、反対を表明する新人候補に敗れました。

 イラク戦争が中間選挙の最大の争点となってきている状況のなかで発表された今回の文書は、この五年間のブッシュ政権の対テロ戦略の破綻を取り繕い、正当化する狙いがあります。(菅原厚)


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