2006年9月4日(月)「しんぶん赤旗」
焦点 論点
「敵基地攻撃」発言
先制攻撃容認の危険な議論
自民党総裁選候補者の安倍官房長官や額賀防衛庁長官が北朝鮮のミサイル発射を口実に、敵基地攻撃の法理を拡大し、そのための能力保有を検討すると表明しています。
準備を始めれば
“ミサイルが発射されてからでは遅い”などといって、撃たれる前に外国の基地を攻撃するのは、切り取り勝手の戦国時代でしか通用しない議論です。「敵基地攻撃」論は、戦後、国際社会と日本国民がめざした戦争違法化を無にする暴論です。
安倍官房長官は「敵基地攻撃」発言について、「先制攻撃論ではない」「日本に武力攻撃がなされた場合を条件としている」とのべています。いかにも日本に武力攻撃があったあとの出来事のようです。しかし、これは小泉内閣がうちだした新しい先制攻撃容認の見解に目をつぶった姑息(こそく)な言い分です。
かつて鳩山内閣が「敵基地攻撃」を主張したことがありますが、それは「誘導弾あるいはその他の新兵器をもってどんどん攻撃してくる、そういうときに敵の基地をたたく」というものでした(一九五六年二月二十八日衆院内閣委員会 船田防衛庁長官)。ミサイルですでに国土が被害を受けていることが前提の議論です。それとて「専守防衛」方針や外交的解決策を無視した議論だったため、強い批判がでました。
小泉内閣の「敵基地攻撃」論は、鳩山見解以降の見解を大きく広げ、事実上の先制攻撃論にまで踏みこえたものです。
小泉内閣がもちだしたのは、「攻撃のためのミサイルに燃料を注入するとかその他の準備を始めるとかいうことであれば、それは武力攻撃の着手」(二〇〇二年五月二十日衆院武力攻撃事態特別委員会 福田官房長官)であり、それは武力攻撃であり敵基地攻撃ができるという見解です。
この見解は、日本への武力攻撃もないのに、ミサイルに燃料を注入するのを攻撃への着手だとみなして、日本から先に敵基地を攻撃するというのですから、先制攻撃論であることは明白で、国連憲章に違反します。
国連憲章は、自衛権は「武力攻撃が発生した場合」にのみ行使できると明記しています。日本政府はこの国連憲章の順守を建前にしています。したがって攻撃の「おそれ」や「脅威」だけで「自衛権は発動できない」「予防戦争なども排除」という見解をとってきました(七〇年三月十八日衆院予算委員会 愛知外相)。ミサイルへの燃料注入というだけで、外国の領土にある基地を攻撃できるとする小泉内閣の見解は、国連憲章五一条をねじまげるものです。
ミサイルへの燃料注入をも「武力攻撃の着手」とみなし先制攻撃にふみだせるようにするのはなぜか。先制攻撃戦略を国家方針にしているアメリカと共同歩調をとり、一緒にたたかえるようにするためです。
安倍官房長官は小泉内閣の見解にたって「敵基地攻撃」能力を保有しようとしています。攻撃される前に攻撃するのでは、際限のない軍拡競争をあおることにもなります。
着手をさせない
重要なことは、いかにして戦争にさせないかです。そのためには、相手が攻撃に着手したときなどというのではなく、どうすれば着手させないかを追求すべきです。それをしないで先制攻撃論をふりまわすのでは、日本を「戦争をする国」にすると批判されても仕方ありません。
日本とアジア・世界の平和と安全をおびやかすような亡国の道を進むべきではありません。
(論説委員会 山崎静雄)