2006年8月27日(日)「しんぶん赤旗」

ベトナム戦争 知られざる米軍の虐殺

文書解禁で反響

村人連れ出し 背後から…


 ベトナム侵略戦争についての米軍の解禁文書が明らかになり(米紙ロサンゼルス・タイムズ八月六日付)、世界中で非難の声が上がった米軍によるベトナム住民虐殺が数多くあったことが改めて反響を呼んでいます。ベトナム中部クアンナム省を訪れて、まだ知られていない虐殺事件についての犠牲者の遺族の証言を得ました。

 (ベトナム中部クアンナム省ディエンバン県=鈴木勝比古 写真も)

ディエンチュン村を訪ねて

 青々とした水田風景が視野いっぱいに広がるクアンナム省ディエンバン県ディエンチュン村チュンザン部落。この一角のレンガ窯(かま)の近くで十八人の男性(最年少は三十八歳、最高齢は八十五歳)が殺害されました。一九六八年二月十一日のことです。

 当時十三歳だったティー・クイ・マンさん(51)が話します。

テト攻勢での打撃への報復

 「米軍機による数日間の爆撃のあとの二月十一日、午後三時ごろでした。家族がみんな地下壕(ごう)に入っていたとき、米兵が部落に入ってきました。彼らは全員を壕から引っ張り出し、父を連行しました。部落の十八人の男性をレンガ窯の周囲に集め、井戸の方に進むように命令しました。歩きだしたところを後ろからいっせいに銃で撃って殺したのです。私の家から七百メートルほど離れていましたが、はっきりと銃声を聞きました」

 父親のティー・バン・ガックさん(当時六十二歳)と叔父のティー・バン・ティンさん(当時五十三歳)が殺されました。マンさんは現在、村の祖国戦線委員長です。

 この事件の少し前に、いわゆる「テト攻勢」がありました。ベトナム解放勢力がテト(旧正月のこと、この年は一月三十日が元日)を期して米軍を総攻撃。サイゴン(現ホーチミン市)の米大使館を占拠するなど米軍に重大な打撃を与えました。

 ディエンチュン村の事件は、当時ベトナムに約五十万の部隊を送り込んでいた米軍が報復攻撃に乗り出したなかで起きたものでした。三月十六日に起きたソンミ村(クアンガイ省)事件では五百四人が殺害されました。

 ベトナム戦争で最も多くの犠牲者を出したのがディエンバン県。その南隣のズイスエン県がそれに次いでいます。

 ディエンバン県労働・傷病兵・社会問題室のレー・チー・タイ副室長によると、同省では当時の県の人口(約十万人)の三割近くにのぼる二万八千三百六十二人が死亡し、一万一千四百六十九人が負傷しました。

埋葬場所爆撃 遺体は破損

 マンさんは続けます。

 「父の後頭部に銃弾の跡がありました。十八人の遺体を現場で埋葬しましたが、四日後にB52爆撃機が埋葬場所を爆撃したため遺体は誰かわからないほど破損しました。一人だけ身分証明書を身に着けていたので身元が分かりましたが、あとは分かりません。十八人をそれぞれひつぎに入れましたが、実際には区別がつきませんでした」

 チャン・チンさん(71)は秘密の地下壕に隠れて難を逃れましたが、兄のチャン・リーさん(当時三十八歳)は家にいたために連行されました。また、グエン・チンさん(51)の父親、グエン・タンさん(当時五十九歳)は部落のはずれのファム・キエットさんの家にいてつかまりました。当時、キエットさんの家に集まった七人が一度につかまりました。

 グエン・チンさんは当時と現在の心境について、「アメリカは侵略者で敵でしたから、憎みました。今は平和な関係になりましたから、敵ではありません」といいます。

 この虐殺は地元で「レンガ窯の虐殺」と呼ばれています。遺族が中心になって二〇〇〇年に虐殺現場に記念碑を建てました。


表

隣県では265人死亡

 ディエンバン県は最も多くの犠牲者を出したとはいえ、米軍による住民虐殺の個別の事例はつかめませんでした。ズイスエン県では文化・通信室所属博物館の女性研究員、トゥエットさんが詳細に把握していました。彼女は現在も、県内のベトナム戦争被害の聞き取り調査を続けています。

 トゥエットさんが把握している記録によると、六七年から七〇年の四年間に、米軍が行った主な民間人殺害は三村で発生した八件。住民の死者は二百六十五人に及びます。その詳細は次の通りです。

 ズイタン村

 六七年四月二十六日、フーニュアン第二部落ノンサン集落で女性と子ども五十二人を殺害。

 六八年八月十五日、フーニュアン第三部落ビンクアン集落で三十七人を殺害。十六人が老人、二十一人が子ども。

 ズイホア村

 七〇年一月十日にラータップ部落で二十二人を殺害。

 他の部落でも六七年四月一日、六九年二月二十七日、七〇年一月十日の三件で合計三十三人を殺害。

 ズイチャウ村

 六八年九月十八日に市場などにナパーム弾を投下し、百四人を殺害。七二年三月に十七人を殺害。


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