2006年8月26日(土)「しんぶん赤旗」

シリーズ 職場

成果主義を追って

記者が語る実態(中)

崩れた幻想 評価に疑問


 ――状態悪化のなかで職場の矛盾、変化はどうあらわれていますか。

出世を拒否

 畠山 青年の技術労働者が深刻ですね。ろくに教育も援助もされず一人前の結果だけを求められ、そのうえ孤立させられています。技術者は、主にプロジェクトチーム単位で仕事をしていますが、メンバーは関連会社数社と外部の派遣・請負会社などからの寄せ集めです。青年労働者がこういいました。「縦のつながりも横のつながりもない」「自分をわかってくれている人が職場にいない」と。

 以前なら考えられなかったことですが、「裁量労働制の対象から外してほしい」という青年労働者が増えています。評価や出世に響いても、割り切らないと身がもたないと。職場で病気になり、休職や退職した同僚、先輩をみていて、会社のいう通りにやっていたらこうなると感じているんです。

 成果主義賃金は、若年層に比較的優位な制度ですが、二十代の青年技術者が「がんばっただけ報われるなんて誰も思っていない」といい切っていました。幻想が崩れていますね。成果主義が、青年層を引きつけられなくなっているのは大きな変化です。

 山田 納得できる評価がされないんですよね。

 畠山 そうなんです。もう一つ、働き盛りの三十代の技術者が「管理職になりたくない」というんです。出世はサラリーマンの目標なのに、相当深刻な実態があるんですね。日立だけでなく、トヨタがある愛知県経営者協会の調査でも、四人に一人が「リーダーになりたくない」と答えていました。「責任だけ重くて、賃金はそれほど高くない、報われない」というのが多い理由です。共通の変化だと思います。

 そういう各年代層の労働者をひきつける仕掛けが破綻(はたん)して、全体が疲弊していると感じました。

家売っても

 中村 『内側から見た富士通』を書いた城繁幸さんは、成果主義とは本来、権限を持ったポストの人に適用すべきで、権限のない一般社員に適用するのはいじめになると言っています。本当の意味で裁量権のある人間でないと裁量労働制とか成果主義は意味がないんですね。いじめにしかならない。僕は成果強制主義だといいたい。上司が部下に成果を上げろ上げろと強制するだけだから。

 きついのは管理職ですね。富士通もNECも、管理職にノルマを達成しろと厳しくいう。それが部下の長時間残業につながっています。管理職は成果を上げられなかったら容赦なく左遷です。一時金も大幅にダウンさせられます。

 記事にしていないのですが、目標を達成しなかったら家を売ってでも調達してこいとまで言われている。管理職全員、壁に目標を張られて毎日確認を取られる。管理職が全員集まっている前で「私は目標を達成しなかったら○○を実行します」と宣言させられると聞きました。

 山田 日本IBMでは「ボトム10」(注)という成績下位の労働者を退職に追い込んでいます。実際に退職を強要された人に会いましたが、だめな人なんかじゃない。相対評価ですから、必ず誰かが低い評価にされます。低い評価を受ければ退職の標的にされる。その人が辞めれば、また別の誰かが低い評価を受ける。なんとも恐ろしい仕組みですよね。

 しかも、辞めさせることが売り上げを伸ばすのと同じ重要度をもって管理職に命じられています。組合に管理職から内部告発があったのですが、社長がメールで、辞めさせる目標を達成せよと管理職にハッパをかけているんです。労働者は、七回とか八回とか退職強要を受けています。

 組合機関紙に載っていましたが、辞めさせられた人が退職のあいさつをした際、管理職がやっと辞めさせたと満面の笑みを浮かべていると。殺伐とした職場ですよね。

 中村 成績下位に査定された人や病弱の人たちが一カ所に集められ、そこから関連会社に出向や転籍になるケースはよくありますよ。

 山田 管理職は、相対評価で草の根分けても低い評価の人を探し出さなきゃいかんわけですよ。あらを探して、例えば、子育て中の女性で年休を取らざるを得ない人とか、病気になれば一発で低い評価になる。

労組の対応

 桜江 そういうときに代弁してくれるところがないのは問題ですね。ある職場で連合系の組合が開いた成果主義賃金の説明会で、最低評価になる人はどういうケースかという質問が組合員からでて、仕事のやる気で判断するのだから、最低評価が二年続くのは会社への貢献心がないと判断されてクビになるんだと組合役員が説明したという。経営者でなく労働組合の役員がそういったと聞いてびっくりしました。

 中村 富士通の場合、優秀な若い人があきらめて辞めていくという実態がある。話を聞くと、抗議の意味をこめて辞めていく。組織的に立ち上がれる方策があればいいけれど、そうはならない。

 畠山 とくに青年の技術者はいい仕事をしたいという願いをもっています。私はそこに希望があると思うのですが、現状はひどい状態ですから、転職を考えている人は多い。だから労働組合がたたかわず、会社寄りの対応をしていけば、労働者はどんどん漂っていくんですよね。

 中村 成果主義というのは、賃金が個別化されて、お互いけ落とさないと自分は上がっていかないシステムです。労働者はばらばらに分断されている状況ですからね。(つづく)


ボトム10

 日本IBMで業績評価が下位10%の社員。同社では年一回、社員を五段階で評価します。最も評価の高い人は1(10―20%)、次いで2、2プラス(あわせて65―85%)、3、4(同5―15%)。3、4が「ボトム10」です。この人たちを退職強要の対象にしています。


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