2006年8月8日(火)「しんぶん赤旗」

金大中事件から33年

2度もみ消し 日本政府


 都心のホテルから白昼、韓国の野党指導者だった金大中氏(のち大統領)が拉致されてから八日で三十三年になります。同事件の調査を進めている韓国の国家情報院の過去史真実究明委員会は近く、事件は当時の韓国中央情報部(KCIA)の組織ぐるみの犯行だったとする報告書を公表します。二度にわたる政治決着で事件のもみ消しを図ってきた当時の日韓両政府の責任が改めて問われます。(橋本伸)


 事件が起きたのは、一九七三年八月八日午後一時すぎ。東京・飯田橋のホテルに宿泊していた金大中氏は数人の男に拉致され、五日後、ソウルで傷だらけの姿で解放されました。この間、おもりを付けられ、海に投げ込まれようとした瞬間、飛行機が飛来し、突然せん光を放ち、九死に一生を得たといいます。

犯行現場に指紋

 事件後ほどなくして、犯行現場から駐日韓国大使館一等書記官金東雲の指紋が検出され、犯行に横浜領事館副領事劉永福の車が使われたことも判明。韓国公権力による暗殺未遂事件であり、日本の主権を侵害する犯行だったことは明白でした。

 ところが、七三年十一月二日、東京を訪れた韓国の金鍾泌首相は田中角栄首相と会談。事件を陳謝するとともに、(1)韓国側も金東雲の容疑を認め、取り調べて相応の措置をとる(2)金大中氏は一般市民と同様出国を含めて自由とし、在日、在米中の言動の責任を問わない―ことなどで双方が了解しました。

主権侵害を免罪

 公権力の主権侵害を免罪して個人的犯罪にすりかえ、金大中氏の無条件再来日という原状回復措置さえ放棄したのが第一次政治決着でした。

 その裏で、巨額の金が動いたことが二〇〇一年一月に明るみに出ました。七三年十月、朴正熙大統領の親書と四億円とみられる「お土産」を持った韓国政府の大臣を田中首相に引き合わせ、政治決着がつけられた――田中首相の後援会「越山会」幹部で元自民党新潟県議の木村博保氏が『文芸春秋』二月号の手記で公表したのです。

極秘文書の公表

 第二次政治決着は三木内閣のときです。七五年七月二十三日、ソウルで行われた宮沢喜一外相と金東祚外相との会談で、金東雲をシロだとする韓国側の一方的な主張を、日本側は全面的に認めました。

 しかし、九八年二月十九日、韓国の新聞「東亜日報」は、金大中事件がKCIAによる組織的犯行だったことを示すKCIAの極秘文書を公表しました。

 それによると、同文書には金大中氏を東京からソウルまで拉致した二十五人のKCIA要員と、同氏を運んだKCIAの工作船「竜金号」船員二十一人の名簿と彼らの役割、その後の事件関与者にたいする管理の実情がすべて収録されているといいます。

 さらに、当時の朴大統領は拉致に加わったKCIA要員と竜金号船員たちに人事の優遇、就職のあっせん、保証金の支給など、各種の特恵を与えていました。

 この点からも、拉致は李厚洛KCIA部長の単独指示ではなく、朴大統領の命令によるものとみられます。


真相究明に力 日本共産党

橋本敦元参院議員の話

 日本共産党は、金大中事件がKCIAによる組織的・計画的犯行であると、当初から指摘して、その真相究明と、金大中氏の原状回復(日本に戻させること)を国会内外で求めてたたかってきました。

 金大中事件は二つの核心をもっていました。

 第一は、朴大統領が政治的に金大中氏を抹殺するためには肉体的にも抹殺する必要があると、日本で殺害計画を立てて、KCIAに実行させたという刑事犯罪としての本質です。第二は、KCIAという外国の公権力による日本国内での犯罪であり、日本の主権侵害という政治的本質です。

 ところが、日本政府は、一九七三年と七五年の二回にわたる政治決着で、真相究明と主権侵害の是正という核心を無責任きわまりないやり方で放棄してしまいました。

 私は、金大中事件を調査する日本共産党調査団の団長として七六年と七七年に訪米しましたが、レイナード米国務省韓国部長などアメリカ側は、「金大中事件はKCIAの仕業で、これについてすべての真相をもっともよく知っているのは日本政府だ」といいました。そして、米政府がKCIAの犯行と断定している公的資料も入手しました。

 これらの調査にもとづくわれわれの追及によって、当時の福田赳夫首相は七七年二月、「刑事事件のなりゆきによっては、政治問題としての決着もつけなければならぬ」と、政治決着の見直しがありうるとの答弁をしました。

 この見直しは、いまだになされていません。

しかし、今回、韓国政府が公権力介入の事実を認めたことにより、日本政府は、政治決着の陰で田中角栄元首相に巨額の金が流れたという疑惑も含めて、事件の全真相を国会と国民の前に公表することが求められていることを改めて浮き彫りにしました。


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