2006年8月7日(月)「しんぶん赤旗」
中東危機
イスラエル軍レバノン侵攻
「敵広げる」 国内からも批判
イスラエルは圧倒的な武力を背景にレバノンを侵攻し、国際世論を無視して無差別的な空爆や攻撃を拡大しています。その狙いには大きくいって二つが指摘されています。
脅威取り除く
一つはレバノン国境からイスラエルをロケット砲で攻撃するイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラを徹底的に破壊し、直接の脅威を取り除くこと。もう一つはイスラエルの占領と抑圧に反対するパレスチナのイスラム抵抗組織のハマスなどにイスラエルへの挑発や攻撃は圧倒的な反撃をうけて到底引き合わないことを思い知らせることです。
イスラエルのオルメルト政権は国内的な政治基盤が弱いだけに、この二つの目標で「明白な勝利」という「戦果」を得ることが国民を納得させる上でどうしても必要になっています。
イスラエル軍のレバノン侵攻は、今回が初めてではありません。一九七〇年代以来レバノン南部を拠点に活動してきたパレスチナ解放機構(PLO)を排除するとして、八二年にベイルートに侵攻。住民の大虐殺をおこなってPLOをチュニジアに追放し、レバノン南部を占領状態に置きました。
しかしこの占領はヒズボラなどの抵抗に遭い、イスラエル軍は二〇〇〇年にレバノンから撤退せざるをえませんでした。
今回イスラエルは、兵士二人の拉致というヒズボラの挑発を好機として攻撃を始めました。ところがヒズボラはレバノン南部を拠点に、長距離ロケット砲でイスラエル北部の主要都市を攻撃するなど予想以上の戦力をもっていました。イスラエルの攻撃はレバノン全土の橋や幹線道路の破壊、空港への爆撃など、たちまち無差別的な攻撃にエスカレートし、多くの市民が犠牲になりました。
「集団的懲罰」
同時に今回の攻撃は、市民そのものを標的とする「集団的懲罰」としての特徴をもっているという指摘もあります。国民に懲罰を加えることで、ヒズボラから国民を離反させるという見方です。
レバノンの人口の30%がシーア派で貧困世帯が多いとされます。ヒズボラは九〇年の内戦終結後、これらの地域に学校や病院を設立し、住民の支持を得て勢力を拡大。九二年の総選挙に初めて参加し、十四議席を獲得。〇五年の選挙では、シーア派政党アマルと連合して三十五議席を確保しました。
ベイルートの調査センターが最近行った世論調査では、国民の87%が「イスラエルの侵略に対する抵抗を支持する」と表明しています。イスラエル軍の無法な攻撃が、かえってキリスト教やイスラム教など宗教の違い、シーア派やスンニ派など宗派の違いを超えて国民を団結させる結果となっています。
イスラエルの超党派の研究機関ロイト研究所のグリンシュタイン所長は、イスラエル側はヒズボラの戦闘能力の90%を破壊できるが、ヒズボラは10%の戦闘能力でも「勝利」を宣言できると指摘。オルメルト政権の強硬策は重大な困難をかかえていると指摘しています。(米紙ニューヨーク・タイムズ)
イスラエル国内では、ようやくここにきて戦争の見通しにたいする疑問の声も生まれています。
イスラエル紙イディオト・アハロノト七月十八日付は、「オルメルト首相とペレツ国防相は事態に混乱している」「(ヒズボラの指導者)ナスララが仕掛けたわなにわれわれは引きずりこまれている」と複数の政治家の発言を紹介しました。
イスラエル紙ハーレツ八月三日付は「もっとも失敗した戦争」と題する論評で、今回の攻撃が「適切な判断もなしに、誤った評価のもとに性急に開始された」と指摘。同日付の社説では、オルメルト首相が攻撃で“成果”を収めたと述べたことに対し、「戦争の主な目的は、イスラエルへのロケット砲攻撃をやめさせることだったが、達成されていない。首相は軍事的失敗の真実を語るべきだ」と主張しています。
(カイロ=松本眞志)

