2006年8月2日(水)「しんぶん赤旗」

『防衛白書』

地球規模に拡大・強化

日米同盟の変質を宣言


 二〇〇六年版「防衛白書」は、昨年来の在日米軍再編に関する一連の日米協議と今年六月の日米首脳会談での合意を受け、日米軍事同盟の地球的規模での拡大・強化という侵略的変質を宣言する内容となっています。

□平和脅かす

 白書は今回初めて、「日米安保体制の強化について新たに章立て」(防衛庁)をしました。この章でまず強調されているのは、日米安保体制と在日米軍駐留の「意義」です。そこでは▽日本の防衛▽アジア太平洋地域の平和と安定▽国際的な安全保障環境の改善―が挙げられています。

 「日本防衛」のためと言いますが、日米安保条約に基づいて日本に駐留する米軍はいずれも、海外遠征を主要任務にする“殴り込み”部隊です。

 白書自身、海兵隊をはじめ沖縄に駐留する米軍について、沖縄が東アジアの各地域に対し米本土やハワイよりも距離的に近いとして、「この地域内で緊急な展開を必要とする場合に…迅速な対応が可能である」と海外展開の重要性を強調。「日本防衛」とのかかわりには一言も触れていません。

 白書が前面に押し出した「日米安保体制の強化」の狙いは、「テロとの闘い」など「国際的な安全保障環境の改善」という口実で、アジア太平洋地域をはじめ地球的規模で日米共同の軍事介入態勢をつくることです。

 白書は、六月の日米首脳会談が「世界の中の日米同盟」を確認し、「21世紀の地球的規模での協力のための新しい日米同盟を宣言」したことを説明。「各種の国際的な活動において、自衛隊と米軍が協力する」と表明し、現行の日米軍事協力の指針(ガイドライン)に代わる枠組みづくりにまで言及しています。

 在日米軍再編について詳述した部分でも、米軍が「世界のあらゆる場所で任務に即応」し、自衛隊は「国際平和協力活動拡大」を進めるとしています。

 自衛隊の海外派兵をいっそう拡大・強化し、イラク戦争に象徴される米国の先制攻撃戦略に基づき地球的規模で展開する米軍と一体となって軍事作戦を行おうとするものです。

 白書が「国際社会の平和と安定に積極的・主体的に取り組むための体制を整備する」として、防衛庁の「省」昇格と自衛隊海外派兵の「本来任務(主要任務)化」の「必要性」を詳述しているのも、そのためです。

 世界のどこであれ先制攻撃の戦争で日米が軍事共同する態勢をつくる―。それは日本とアジア、世界の平和を脅かすものでしかありません。

□流れに逆行

 加えて重大なのは、白書が、在日米軍再編の一環である在日米軍基地の再編・強化計画について「速やかに、かつ、徹底して実施していく」と宣言していることです。

 白書は一方で、在日米軍基地が「真に国民に受入れられ、支持される」ことの必要性を強調しています。ところが、再編の対象となっている基地を抱える自治体や住民の大多数が計画に強く反対していることには一言も触れていません。

 結局、どんなに反対があっても計画をごり押しするという強権的な姿勢を示すものです。それは自治体や住民の怒りをいっそう広げるだけで、「国民に受入れられ、支持される」ことなど決してありません。

 世界では今、NATO(北大西洋条約機構)をはじめ、米国を中心とした軍事同盟が機能不全に陥り、弱体化し、前世紀が残した遺物となりつつあることが指摘されています。そうした中で徹底した米国追従を続け、軍事同盟の強化に熱中しているのは日本だけです。基地強化に反対する国民の意思を踏みつけにし、日本とアジア、世界の平和を脅かす道を突き進むことが許されていいはずはありません。(榎本好孝)


弁明ばかりのコラム

 最近の「防衛白書」は、随所に「Q&A」など「COLUMN(コラム)」と称した囲み記事を掲載しています。〇六年版では、「コラム」の内容に大きな変化がありました。「Q&A」が昨年の二項目から九項目に激増したのです。

 そのうち六項目が、在日米軍再編計画などを詳述した「第4章 日米安全保障体制の強化」に集中しています。主に、次のような内容です。

 ○「普天間飛行場は沖縄県外、日本国外には移設できないのですか?」

 ○「なぜ、米軍のグアムへの移転経費を日本が負担するのですか?」

 ○「なぜ、原子力空母が日本へ展開する必要があるのですか?」

 額賀福志郎防衛庁長官は白書の巻頭で、「何としてもこれ(在日米軍再編)を実現してまいります」と決意を述べています。一方、基地を抱える自治体や住民の根強い反対の声を無視するわけにもいかないから、Q&Aという形で弁明を並べたのでしょう。

 しかし、質問に対する回答は大筋、米側の主張を焼き直しただけです。グアム移転経費にいたっては、「施設・インフラの整備を米国のみが行った場合、非常に長期間を要する」から七千億円もの経費を負担するというのです。グアムは米領なのだから、「自分たちの責任で早く整備しろ」というのが当然の姿勢でしょう。

 結局、米軍再編について国民を納得させられるだけの理屈を持ち合わせていないことを告白した形です。(竹)


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