2006年7月30日(日)「しんぶん赤旗」

社会リポート

秋田市 生活保護・抗議自殺

「いつか事件が」市民の不安的中

「必要な人が受けられない」


 生活保護申請を二度も却下された秋田市の男性(37)が二十四日、同市福祉事務所保護課の目の前で、保護の門前払いに抗議の自殺をしました。友人に「おれの犠牲で福祉を良くして」の言葉を残して…。「いつか事件がおこる」。そんな市民の不安が的中しました。男性の自殺は、保護費削減をすすめる国と、それに忠実に従う同市の保護行政を鋭く告発しています。(秋田・桑高豊治)

 男性は、店員や運転手として元気に働いていました。睡眠障害を患うようになり五年ほど前に解雇され、以後定職に就けず、母親からの仕送り(月約六万―七万円)でくらしていました。ことし四月まで二年ほどは車上生活です。

 ことし四月十四日、幼なじみといっしょに福祉事務所を訪ねています。

2度目も却下

 ある民生委員の紹介で秋田生活と健康を守る会を知り、四月二十四日に相談。五月二日と六月二十一日に保護を申請しています。

 二度目の却下は七月十二日付。理由は「稼働能力を活用していない」でした。

 男性は自殺を決行する前日、缶ビールとヒラメの刺し身を持って友人の男性(52)を訪ね、「きょうやる。きょうしかない」と告げました。

 自殺を思いとどまらせようとする友人に、男性は「保護を必要とする人が保護を受けられないでいる」と話し、こんな言葉を残しています。

 「おれみたいな人間はいっぱいいる。そういうのを無くしたいからおれが犠牲になって福祉をいくらかでも変えたい」「おれが死んだら(思いを)守る会に伝えてくれ」

 覚悟の自殺でした。

 同市は保護の事実上の門前払いを繰り返してきました。

 二〇〇三年には、母子四人の窮迫の事実を知りながら、中古軽自動車を処分しなかったとして申請を却下しました。

 女性が審査請求し、知事が、「まず保護を開始すべきだ」と却下処分取り消し裁決を出したのでことなきを得ました。

 生活困窮者にとって保護の門前払いは、死につながる恐ろしい行為です。

 県は一九九三年、保護費の使い道自由などを判示した加藤訴訟秋田地裁判決を控訴せずに受け入れ、人権尊重の保護行政に努力してきました。

 保護申請から受給中も調査できる一括同意書を県が廃止して「必要な場合」と改めたとき、同市はならわず、存続方針を取り続けています。

県の調査要求

 同市福祉事務所は、「(却下)判断は適正だった」と強弁しています。

 しかし、医者にもかかれず睡眠障害に悩む困窮者に、稼働能力があるからすぐ働けとは―。

 友人は「生活(のリズム)がめちゃくちゃな彼には時間を定めた仕事は無理」といいきります。

 秋田県労働組合総連合の渡部雅子事務局長は、「仕事はそう簡単に見つからない。明日から働けといわれてすぐ働くことは無理。五年も定職に就けず車上生活していた人がすぐ働けると考える方がおかしい。まず話をよく聞いて、安心して長期に医療を受けられるようにすることこそ必要だ。秋田市のやり方は根本から間違っている」と憤ります。

 県生活と健康を守る会連合会(県生連)の鈴木正和会長は、稼働能力についての同市の考えが、医師の診断だけに頼らないで「総合的に」とした保護実施要領や、「身体的能力や年齢のみで判断してはいけない」とした国の専門委員会と「異なる立場にたっている」と指摘。「まず保護を開始し、治療を受けさせるべきだ」と話します。

 ある福祉事務所長経験者も、「ケースファイルを読み込まなければわからないが、私なら、まず保護を開始する。治療をしてからでないと仕事の話に進めないのでないか」と話しています。

 県生連は二十六日、知事にたいし、「なぜ、生活保護・抗議自殺事件が起きたのか。県の調査(特別監査)で真相を県民に明らかにしてください」と要請しました。

 県健康福祉部の石山博茂次長は、「県としても関心を持っている。特別監査をするか通常監査でいけるか検討したい。選択肢の一つとして通常監査の前倒しもあるかなと考えている」と答えました。


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