2006年7月14日(金)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集

核兵器 世界でいま


 核兵器使用政策に突っ走る米国、核戦力の質的強化を図るロシアやフランスなど核保有国の動き、さらに北朝鮮やイランへの核拡散問題…。核兵器をめぐる危険が改めて深刻化しています。核兵器の現状と、廃絶を求める国際世論はいまどうなっているのでしょうか。(ワシントン=鎌塚由美、外信部=坂口明、菅原厚)


「イランを核攻撃」米計画あった

米誌が暴露

 ブッシュ米政権は今年の春まで、イランの核兵器開発を阻止しようとして、同国中部のナタンツのウラン濃縮工場を戦術核兵器で攻撃することを検討していた―調査報道で知られる米国のジャーナリスト、セイモア・ハーシュ氏は『ニューヨーカー』誌七月十日号で驚くべき内容を暴露しました。

 ナタンツ工場には、核弾頭用にウランを濃縮するための遠心分離機を最大で五万基設置するための施設が地下約二十メートルの地点にあるとされます。「地下工場を確実に破壊する唯一の手段」は核兵器だとして「ブッシュとチェイニー(副大統領)は核(攻撃)計画に関して真剣だった」―米情報機関元高官はハーシュ氏に語ったといいます。

 しかし、これに対して、制服組トップのペース統合参謀本部議長をはじめとする軍指導部が反対し、四月末には政府は対イラン核使用計画を断念した、国防総省ではこれは「四月革命」と呼ばれた、というのです。

 ハーシュ氏は同誌の四月十七日号でも、米国がB61―11地下貫通核爆弾を使ってイランへの核攻撃を準備していると暴露し、世界に大きな衝撃を与えました。このときは米紙ワシントン・ポスト、英紙サンデー・タイムズなどの有力紙も相次いで同様の報道をしました。

 四月十八日、これらの報道について記者団に質問されたブッシュ大統領は、イラン核問題では当面は外交的解決を優先するとしつつ、「すべての選択肢を検討対象にしている」との従来の発言を繰り返しました。

 「すべての選択肢」には「核攻撃の可能性が含まれるのか」との重ねての質問に対しても、ブッシュ氏は、それを否定しませんでした。これに世界は改めてショックを受けました。

 一連の経過は、「核兵器をもたない国による核兵器保有を防ぐために、その国を核兵器で攻撃する」という米国の恐るべき方針(「拡散対抗」戦略)が、決して机上の論議ではなく、本気で実行されようとしていることを物語っています。この方針自体は断念されるどころか、その具体化が着々と進んでいます。


香港めぐり米英

61年当時に核使用検討

 米英両国は一九六一年、当時英領だった香港を中国が武力で奪回しようとすれば核兵器で報復するとの方針を固めていた―情報公開法による請求に基づき今年六月三十日に解禁された英公文書で明らかになりました。これは、広島・長崎への原爆投下以後も、核攻撃が実際に検討されていたことを核保有国の政府の公文書で証明するものです。

 この文書は、六一年二月二十二日付で当時のヒューム外相がマクミラン首相にあてた機密書簡です。書簡は、「香港は通常兵器で防衛できないこと、中国が攻撃してきた場合には中国に対する核攻撃が植民地(香港)の完全放棄に代わる唯一の方策であること、これらは米国には十分明白なはずだ」と指摘。米軍に核攻撃してもらうよう、「公式会談」ではなく「非公式な意見交換」で頼めばどうかと提案しています。

 香港は一八四二年から英国の植民地でした。中英両国は一九八四年に、香港の中国への返還を明記した共同声明に調印。香港は九七年、平和的に中国に返還されました。


米ロ、5000発こす実戦配備

 米国 一九四五年以来、七万発以上の核兵器を生産してきました。現在保有する約一万発の核弾頭のうち、五千七百三十五発が実戦配備されていると考えられています。

 ロシア 一九四九年以来、五万五千発近くを生産し、現在一万六千発を保有。そのうち約五千八百三十発が実戦配備されていると推計されています。

 英国 一九五三年から千二百発生産され、一九七〇年代の三百五十発をピークに、現在二百発の核弾頭を保有しているとされています。

 フランス 一九六四年以来、千二百六十発以上の核弾頭を生産し、現在は三百五十発の核弾頭を保有しているとみられています。

 中国 一九六四年以来、六百発ほどの核弾頭を生産し、現在は二百発ほどを保有しているとみられます。

 インド 核弾頭六十―百発分の核分裂物質を生産し、実際に組み立てられている核弾頭は五十から六十発とみられています。

 パキスタン 核弾頭五十五―九十発分に十分な核分裂物質を有し、実際に核弾頭に組み立てているのは四十―五十発とみられています。

 インド、パキスタンともに核弾頭を増産すると考えられています。

 イスラエル 核兵器の保有を公表していませんが、一九九九年には六十―八十発の核弾頭を保有していたと推定され、現在では百十五―百九十発分の核分裂物質を生産しているとみられています。

(『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌などによる)

地図

廃絶の声 新たな広がり

 ローマ法王、米政権の元核政策担当者、ドイツ外相…。二〇〇六年、核兵器廃絶を求める声が新たな形で広がりをみせています。(表参照)

●世論に危機感

 核廃絶を求める世界の世論の高まりを受け、二〇〇〇年の核不拡散条約(NPT)再検討会議では、核保有国による「核廃絶の明確な約束」が合意されました。ところが〇五年五月のNPT再検討会議は、米国の妨害で実質的な合意が何もないまま閉幕しました。

 この遅れを取り戻す好機とされた同年九月の国連首脳会議も、やはり米国の抵抗で、核問題では合意文書を作成できませんでした。こうした昨年の動きに対し、「このままではだめだ」との声が強まっています。

 核兵器を保有する国が、NPTで「公認」された米ロ英仏中五カ国を超えて広がっていることも、核廃絶を願う世論の危機感を高めています。一九九〇年代末までに、イスラエルに次ぎ、インドとパキスタンが、NPT非加盟の核保有国となりました。米国などの核保有国は、これを容認する姿勢を公然ととっています。

 NPT体制が実質的に瓦解しつつあるもとで、イランや北朝鮮の核開発疑惑が国際政治の焦点となっています。この「核拡散の第三の波」を食い止めることができるのか、いま問われています。

 イラク政権打倒の先制攻撃戦争の「大義」とされたイラクの核開発がまったくの虚偽だと判明したことは、国際秩序を大きく揺るがせる出来事だとの認識が強まっています。このような無法な侵略を許さないことと結んで、核兵器問題をこのまま放置することはできない、なんとかしなければ、という声が広がりつつあります。

●米に批判の目

 核廃絶をめざす流れに逆行し、核軍拡、核拡散の根本的な原動力となっている米国の公然たる核使用政策に対し、ますます強い批判の目が向けられつつあります。

 「核兵器廃絶運動でカギを握るのは、人々をもっと関与させることだ。人々は今、混乱し、不安を感じている。〇五年のNPT再検討会議は失敗だった。各国民が政府に対し、核兵器を廃絶するように言わない限り何も変わらない。地雷を禁止したオタワ・プロセスのように、国連の外で意思のある国を結集して、国際的な運動をつくっていかなくてはならない」(ロナルド・マッコイ核戦争阻止国際医師会議議長)

 「欧州で今、欠けているのは、廃絶は可能だという認識だ。核兵器廃絶は可能だと人々に確信させなくてはならない」(ベルギー「フレンズ・オブ・アース」の活動家)

 六月末にカナダのバンクーバーで開かれた「世界平和フォーラム」では、核兵器廃絶をどう達成するかをめぐり、真剣な議論が交わされました。

写真

(写真)核廃絶運動の戦略について各国の活動家が活発に意見交換した「廃絶2000」の年次総会=6月23日、カナダ・バンクーバー(鎌塚由美撮影)


2006年核兵器廃絶の動き

1・1 ローマ法王の「世界平和の日メッセージ」。「自国の安全保障を核兵器に頼っている各国政府」を批判し、「段階的で協調を伴う核武装解除に努力する」よう求めた。

1月 スティーブ・フェッター氏(クリントン政権からブッシュ政権にかけ、米国の核政策を担当)のハンス・ベーテ賞受諾講演。「核兵器の禁止を核不拡散政策の最重要項目にすべきだ」

3・22 国際原子力機関(IAEA)エルバラダイ事務局長の講演。「核軍備縮小・撤廃努力の再強化」と、国連安保理が役割をはたすことを求めた。

4・17 ノーベル賞受賞者をふくむ米物理学者がブッシュ大統領に送った共同書簡。イランへの核兵器使用計画は、「核兵器使用の敷居を大幅に低下させ」、核不拡散の枠組みを大きく損ない、アメリカと世界の安全保障にとって破滅的な結果をもたらすと指摘。

4・24 レーガン政権で米ソ核軍縮交渉の責任者だったカンペルマン氏。米政権は、核兵器のない世界という“あるべき”姿の実現のため、国連に核廃絶決議を出すべきだと提案。

5・29−30 非同盟運動調整ビューロー閣僚会議最終文書。時間枠を明確にして核兵器完全廃絶のための段階的プログラムについての交渉を開始すること。核兵器廃絶の実際的な措置の検討のため、2010年NPT再検討会議に向け、補助機関の確立を。

6・1 国連のイラク査察の責任者だったブリクス氏など世界の有識者による大量破壊兵器問題の報告。アメリカの核政策は「核兵器使用の敷居を低くする危険」がある、「今こそ、核兵器を違法化すべきとき」と指摘。

6・14 アメリカ科学者連盟、米印核技術協定反対の書簡。ノーベル賞受賞学者37氏が署名。核保有国が「核兵器の合法性を否定し、さらに多く削減」することを求める。

6・17 ノーベル平和賞受賞者による「光州サミット」の「光州宣言」。核兵器保有国に全地球的な非核化、核先制使用をしないという法的約束の実現。

6・26 独・社民党主催の軍縮平和会議で、2007年にドイツが欧州連合(EU)と主要国首脳会議(G8)の議長国になるのを機に核軍縮問題を議題に(同党党首)。同党外相も核保有国に核軍縮努力を要求。

6・23−28 カナダのバンクーバーで開かれた世界平和フォーラムが平和へのアピール。「核兵器と大量破壊兵器とテロの廃絶のために努力」することを訴える。


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