2006年7月13日(木)「しんぶん赤旗」
主張
「敵基地攻撃」発言
危険な道への踏み込みやめよ
北朝鮮の弾道ミサイル発射を受けた額賀防衛庁長官らの「敵基地攻撃能力」の保有発言が波紋を呼んでいます。
「限定的な攻撃能力を持つことは当然だ」(額賀防衛庁長官)、「検討、研究は必要だ」(安倍官房長官)という発言が意図するのは、撃たれる前に他国の基地に撃ち込む攻撃兵器を日本が持つということです。
北朝鮮のミサイル発射について、各国が一致して外交的に解決しようとしているときに、もっぱら軍事力増強で対応しようというのは世界の流れに反するものであり、ミサイル発射問題の解決を逆に困難にするものです。
国連憲章無視の暴論
政府はこれまで、ほかに手段がないときは「誘導弾などの基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれており可能」(一九五六年二月鳩山首相=当時)といってきました。小泉政権は、他国が日本を攻撃するといい、「ミサイルに燃料を注入し始めた」行為を日本攻撃への着手とみなし、法的には武力攻撃を可能とする条件を不当に拡大しました(二〇〇三年一月 石破防衛庁長官=当時)。しかし、これらはあくまで法理上の話で、「敵基地攻撃能力」を持つとまで表明したのは今回がはじめてです。
「敵基地攻撃」論は、日本への武力攻撃が発生もしていないのに、「敵基地攻撃」を行うというのですから、先制攻撃であるのは明白です。国連憲章は「武力攻撃が発生した場合」にしか自衛権の行使を認めていません(第五一条)。ミサイルを発射するおそれがあるから先に基地を攻撃するといった考えはいっさい否定しています。日本の勝手な解釈は通用しません。
「敵基地攻撃能力」を保有するとは、先制攻撃のために、長距離巡航ミサイルなどの他国攻撃用兵器をこんご保有するということです。これは、「専守防衛」という従来の政府見解すら逸脱する暴論です。
「専守防衛」は憲法九条の建前を無視できず持ち出した政府方針です。そのため、政府は「平生から他国を攻撃するような、脅威を与えるような兵器を持つのは憲法の趣旨とするところではない」といってきました(五九年三月 伊能防衛庁長官=当時)。「敵基地攻撃能力」の保有は、政府見解でも憲法違反なのです。
北朝鮮の弾道ミサイル発射を口実にして、こうした能力を持つというのはとんでもない議論です。憲法違反の発言は撤回すべきです。
韓国政府が「侵略主義的傾向がでてきている」と批判しているように、各国が日本政府の異常ぶりに警戒するのは当然です。小泉首相の靖国神社参拝強行でアジア外交を深刻にさせているうえに、「敵基地攻撃能力」保有を持ち出すのでは、日本はますますアジアで孤立するだけです。
軍拡競争こそ脅威
日米同盟を侵略的に変質させ、軍事的共同態勢をつよめる日米合意がアジアにとって新たな軍事的脅威となっています。日本が「敵基地攻撃能力」保有をめざすというのでは、軍事緊張を強めることになるのはあきらかです。「自衛」を理由にした先制攻撃は、他国の対抗措置を呼び、際限のない軍拡競争につながります。
軍事一本やりで、他国に軍事脅威を与える道をすすむのはやめるべきです。戦争を放棄した憲法をもつ日本が、軍拡競争の誤りをくりかえし、軍事緊張を大きくするようなことがあってはなりません。