2006年7月3日(月)「しんぶん赤旗」
ゆうPress
山里に種まく人
新潟・上越市のNPOで成長中
20―30代9人 伝統文化掘り起こし働く
新潟県上越市の中山間地で、全国から集まった青年たちが、生き生きと活動しています。自然や景観、農林水産業を守り、地域の文化を掘り起こそうと情熱を傾けて。青年たちの生きがいと思いをたどりました。(新潟県・村上雲雄)
この青年たちは、二十代と三十代前半の青年からなる特定非営利活動(NPO)法人「かみえちご山里ファン倶楽部」の九人(専従事務局員)です。同倶楽部は、同市の西部、桑取・中ノ俣地区を中心とした自然、景観、文化、および地域の農林水産業を「守る、深める、創造する」ことで、豊かな地域文化をはぐくむことをめざしている法人です。
「ここにきて四年目ですが、毎日が驚きと感動の連続。家庭菜園学校を担当して、自然のものを利用する伝統技術が生活の中に息づいています。くわの使い方にもこつがあることがわかりました。山菜や野菜の調理と保存の伝統技術はすごい。毎日充実しています。自然資源を生かして地元の収入に結びつけたい」
こう語るのは事務局員で札幌出身の桑原一徳さん(29)です。
元営業マン
事務局員になり、人間らしさと青年としての希望を取り戻した人もいます。東京で営業マンをしていた山根広さん(29)は「拝金主義の中で、機械のように働いていた自分に疑問を持ち、仕事をやめてここに参加しました。地元の人のやさしさに接し、人間同士のつながり、伝統技術・文化はすごいと思いました。視野が狭く、人を見下していた自分に気づき、人間性をとり戻しました。伝統技術を掘り起こし、引き継いでいきたい」といいます。山根さんは古民家復元での「桑取ことこと村づくり学校」の担当です。
都会にないパワー
「くわどり市民の森」担当の渡邉恵美さん(33)=森林インストラクター=は、ただ一人上越市出身です。「市民の森」の来場者から「子どものころの絵本にある山奥の風景を見ることができました。これだけのブナ林に入り本当にうれしくなりました」との感想が寄せられました。渡邉さんは「ここにきて森林に親しみ、金では得られない価値をもらっていく。その手助けができることがうれしい」と話します。
「東京生まれの私には、住民の生きる知恵と技術に都会にないパワーを感じる」というのは、「地球環境学校」で子どもたちに接する松川菜々子さん(25)。「虫にさわれない、田んぼにも入れない子どもたちに、自然の中で五感を働かせのびのびと体験してもらうと、最後には率先して行動するようになります。いつか、家庭でゴミを分別するとか、自分たちで何かを実践してほしいです。山村がどれだけ日本を担ってきたか、多くを培ってきたことに気づいてほしいですね。私たちの活動は種をばらまく仕事です」
人間の原点
昨年と今年、「ことこと村づくり学校」に参加した埼玉の大学生・佐山拓也さん(20)は「自然や古民家が好きで参加しました。この地域は人と人のつながりを大切にしていて、自分もコミュニケーション力がつきました。人間の原点が生かされていて楽しいし、勉強になりました」と話します。
同倶楽部事務局長の中川幹太さん(30)は「五年後、十年後を見据え、地域が持続・発展できる姿をつくりたい。大変だけど創造できるやりがいがあります。夢を実現する中で地域の人が幸せになるサポートができればうれしい」と語ります。
集落、元気に
青年たちをあたたかく見守ってきた地元の大工で、同法人理事の石川正一さん(56)の話 最初はどこの馬の骨がきたのかと思うほどでしたが、年寄りの話を聞き出し、伝統技術を紹介したり、祭り・行事も復活させる手助けもしてくれました。
おかげで年寄りは元気が出てきて、今までとは全然違います。年寄りばかりの集落なので、伝統文化の灯が消えるかと思いました。青年たちは成長し、礼儀正しくなり、付き合い方にもなじんできました。できればここに住み続けられるように、手当が増やせればよいのですが。
かみえちご山里ファン倶楽部 かやぶき古民家改修や小正月行事の復活などを中心とした伝統文化・行事・技術の保全、地元産業の復興をめざし、生産組合などさまざまな地元の活動団体への支援やコーディネートを行うNPO法人。2001年に設立しました。
上越市から、主に子どもを対象とした里山自然体験・学習施設の「地球環境学校」、緑に親しみ環境学習・林業体験の「くわどり市民の森」の管理なども受託し活動。年間予算(約4000万円)を上越市からの受託費(約2900万円)と独自の事業費で運営しています。
年間を通した「桑取ことこと村づくり学校」「くわどり家庭菜園学校」「棚田学校」(棚田オーナー)、子どもに自然環境や伝統文化・知恵・工夫を生かした遊びを教える「あそびの達人教室」などの事業を実施。県外も含め約250人の個人会員と13の団体・企業会員が入会しています。
問い合わせ先 かみえちご山里ファン倶楽部025(541)2602
お悩みHunter
団体専従の彼と生活収入が不安定で大変
彼と暮らしていますが、生活費は折半です。私は昨年転職し収入が減りました。彼は団体の専従で収入が不安定です。彼の仕事に理解は示しているし、節約もしていますが実際大変です。彼にきちんと生活費を入れてとは言いにくいし、言っても解決にはなりません。どうしたらいいでしょうか。
(26歳。女性)
できることを一つひとつ
あなたのいまの生活は家計がぎりぎりで大変なようですね。また専従である彼の収入が安定しないという不安もあるのですね。そうした中でも、自分たちができる節約に取り組んでいることは前向きで大切なことです。何もしなかったら何も変わりません。まずは家計を見直して、生活が続けられる環境を作っていくしかありません。
私はさまざまな組織の専従の方が知り合いにいます。話を聞くと、一部に給料の遅配や場合によっては事実上、無給のときがあるようです。専従を続けている方々の使命感には頭が下がります。
その一方で、家族に負担がかかっている方がいることも事実のようです。おそらく、専従者の家族やパートナーの方たちも、あなたのような気持ちをもっている人がいるでしょう。自ら選んだ専従という立場から、また厳しい財政状況から自分の労働条件の改善をいいだせない方がいらっしゃるように思われます。
そういう状態のなかでも、自分の仕事に誇りと確信を持っているからこそ専従を続けているのだと思います。その点をお互いによく話し合い理解しあって、生活改善へのエネルギーに代え、今できることを一つ一つ取り組んでいってもらいたいと思います。
第41代日本ウエルター級チャンピオン 小林 秀一さん
東京工業大学卒。家業の豆腐屋を継ぎながらボクシングでプロデビュー。99年新人王。03年第41代日本ウエルター級チャンピオン。

