2006年6月26日(月)「しんぶん赤旗」

東京都「日の丸・君が代」強制

「内心の自由」説明で“処分”


 「『君が代』を歌いたい人は歌い、歌いたくない人は自分の思想・信条に従って判断して結構です」。今春の卒業式前日の予行演習で、東京都立農芸高校定時制課程の社会科教師が生徒に「内心の自由」について説明しました。この発言が「不適切な指導」だとして、都教育委員会は9日、この教師を「厳重注意」という事実上の処分にしました(他に6人が「厳重注意」)。「思想・良心の自由」「内心の自由」を保障する憲法のもとで、こんなことが許されるのでしょうか―。(山田芳進)


生徒は自主的に立たず

 同校では卒業式当日、卒業生十四人中十一人が「君が代」斉唱時に起立しませんでした。

 この教師は「生徒の不起立は、私の呼びかけが原因なのではない」と語ります。「生徒たちは自分で考えた結果、不起立を選択したのです。ある卒業生は、『日の丸・君が代』を教師に強制する都教委の『10・23通達』が出て以来、式ではずっと座ってきたと言います。不起立で処分された先生を知っているからです。『石原知事と都教委のやり方に抗議するため』と言う生徒もいました」

 また、自身の行動について「卒業式など特別活動の目標は、『自主的、実践的な態度を育てるとともに、人間としての在り方生き方についての自覚を深め、自己を生かす能力を養う』と学習指導要領にあります。私の説明は、これにも基づいたものです」と語ります。

 この教師は「厳重注意」を受ける際に、都教委から「今後繰り返すな」と言われましたが、「いえ、続けます」と断りました。

以前は説明するよう指導

 二〇〇四年春に退職した元都立高校校長はこう語ります。「都教委は、卒業式などに際し、生徒や父母に『内心の自由』について、『日の丸・君が代』の歴史的背景なども含め、説明するように指導していました。だから、私は一九九九年に校長に就任して以来、先生に説明するよう指導し、私も予行演習の時に生徒たちに説明してきました。それが『10・23通達』を契機に百八十度変わったのです」

 実際、都教委は、二〇〇三年に「10・23通達」を出して以降、式前に「内心の自由」などについて説明した教職員に対し、「厳重注意」「注意」など、事実上の処分を下すようになりました(〇四年春六十七人、〇五年春五人)。

 さらに都教委は今年、全校長にたいし、農芸高校での生徒多数の不起立を理由に、生徒が「君が代」斉唱時に起立するよう教職員に「指導」の徹底を命じる通達を出しました。

 この通達は、昨年十二月の都議会で、自民党の古賀俊昭議員が「改めて生徒への適正指導を通達として出すべき」という質問に、中村正彦教育長が「生徒を適正に指導する旨の通達を速やかに発出する」と答えて出されたものです。

都教委の強制は違憲・違法

 六月の都議会でこの問題を取り上げた日本共産党の大山とも子議員は、「今年の卒業式を前に、ある定時制高校卒業生は、三回にわたって副校長から起立斉唱を指導され、私は自分で考えて立たないといっているのに、何度も言われて怖くなったと語っている」「生徒は、自分が立たなければ先生が処分されるということで、起立斉唱を強制されている」と告発しました。

 そして、国旗・国歌法案の審議の際、野中広務官房長官(当時)が「起立する自由もあれば、また起立しない自由もあろうと思う。斉唱する自由もあれば斉唱しない自由もあろうかと思う」と述べた答弁(一九九九年七月二十一日の衆院内閣委・文教委連合審査会)を挙げ、都教委のやり方は「国旗・国歌法の立法趣旨にも反し、違憲、違法」と批判しました。

 石原慎太郎都知事は「学習指導要領の中に、国旗は日の丸とする、国歌は君が代とするというきちっとした規定がある」とでたらめな答弁をしたうえ、「国旗・国歌の指導は違憲、違法なものでないとする都教育委員会の判断は至極妥当」と開き直りました。

 都教委は「日の丸・君が代」の強制について「学習指導要領に基づく」と繰り返しています。しかし、都の教職員が採用の際に提出する宣誓書には、「私は、ここに、主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、且つ、擁護することを固く誓います」とあります。「生徒への『内心の自由』の説明」は、憲法に立脚した教育公務員としての使命なのです。

教育基本法改悪に警鐘

 「日の丸・君が代」強制に従わないことを理由に処分された教職員でつくる「日の丸・君が代不当処分撤回を求める被処分者の会」の近藤徹事務局長は言います。

 「私たちは憲法を順守して処分されました。憲法、教育基本法のもとでも、これだけの強制が行われているのが東京の教育の実態です。教育基本法が改悪されれば、それが合法化され、全国に広がることになります」

 前出の元校長も「政府の教育基本法改悪案は、『徳目』で国を愛する『態度』を養い、その外部的行為を評価しようとしています。これは“内心はどうでもいい。とにかく立って、『君が代』を歌え”というものです。それが東京では、実際に行われているのです」と警鐘を鳴らします。


 「10・23通達」 都立学校の入学式、卒業式などで、「国旗は、式典会場の舞台壇上正面に掲揚する」「式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」などの細かい実施指針を定めた都教委の通達。この通達に基づく職務命令に違反したとして、これまでのべ三百四十五人の教職員が処分されています。


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