2006年6月16日(金)「しんぶん赤旗」

北朝鮮人権侵害問題対処法案

緒方議員の質問(大要)

参院特別委


 日本共産党の緒方靖夫議員は十四日の参院拉致問題特別委員会で、北朝鮮人権侵害問題対処法案について、政府に質問しました。大要は以下の通りです。


緒方 「脱北」背景に国内事情

外務省参事官 指摘の通りです

写真

(写真)質問する緒方議員=14日、参院拉致問題特別委

 緒方靖夫議員 本法案は「脱北者」への対処を日本の法律で初めて明記し、「脱北者」について、「北朝鮮を脱出した者で人道的見地から保護・支援が必要であると認められるもの」と、法令上の「定義」をおこなっております。これに関連して外務省にうかがいます。これまで政府は「脱北者」について、「一般に、北朝鮮での厳しい食糧難、経済難等を背景として北朝鮮から中国に逃れた北朝鮮住民を指す語として用いられているものと承知している」との見解を示してこられました。このことからも明らかなように、「脱北者」問題というのは基本的には北朝鮮の国内に起因する性格の問題と考えますけれどもいかがでしょうか。

 梅田邦夫外務省大臣官房参事官 ご指摘の通り、北朝鮮の食糧事情でございますが、昨年、約四百二十万トンの穀物を生産しております。WFP(世界食糧計画)等の国際機関によりますと、約九十万トンが不足しておるという状況でございますし、また北朝鮮は、慢性的なエネルギーとか原材料の不足、生産設備の老朽化等の問題を抱えていまして、経済的には非常に厳しい状況にあると思います。それに加えて、昨年十二月に国連総会で採択されました国連人権決議にも指摘されていますが、北朝鮮においては、拷問であるとか、非人道的な刑罰、強制収容所の存在などが確認されており、広範かつ重大な人権侵害があるというふうに指摘されております。このように、経済的な事情およびいま申し上げたような政治的、人道的な観点から脱北者が発生していると認識しております。

 緒方 要するに、北朝鮮住民が「脱北」する背景には、北朝鮮の国内事情があると、そういうことでよろしいですか。

 参事官 ご指摘の通りでございます。

緒方 関係国との協議が必要

参事官 慎重な対応している

 緒方 いま、外務省も認められたように、「脱北者」問題というのは北朝鮮の内政にかかわる問題だということになります。法案はこのまったく次元の異なる問題を「北朝鮮当局による人権侵害問題」として、わが国の主権を侵害した国際的犯罪である「拉致問題」と同列に扱って、政府が「脱北者の保護・支援」に関する「施策を講じる」と明記しています。政府は、「わが国の在外公館に、本邦への入国および居住を求めてくる脱北者およびその家族等への対応にあたっては、関係国政府等との間で慎重な協議を行うことが必要になる」との立場を表明してきました。「脱北者」問題での対応が、関係国との間で慎重な協議を行うことが必要になるのはなぜでしょうか。

 参事官 脱北者の方がわが国の在外公館に来た場合、まず当該脱北者が滞在している国、それから経由地となる国、それから最終的に行かれる国、そういう国々と調整が必要となります。それらの国においては、国内法的には多くの場合、脱北者の方は不法滞在者ということになるケースが多いです。同時に、多くの国が北朝鮮と外交関係を有しておるという事情もあって、これらの関係する国の多くが静かにかつ慎重に対応してほしいという要求を出しております。したがって、日本政府としましても、それに応える形で非常に慎重な対応をしているということであります。

 緒方 政府は、「脱北者」を含む外国人が、わが国の在外公館に保護を求めてきた場合、基本的には「同人の人定事項や希望等を確認した上で、生命または身体の安全確保等の人道的観点、関係国との関係等を総合的に考慮して個別具体的に対応を検討する」としてきました。同時に、「具体的内容にかかわる事項については、これを明らかにすれば関係国政府等との信頼関係を損なうおそれがある」として公表を控えてきました。「脱北者」問題での個別具体的な内容の公表が関係国との信頼関係を損なうおそれ、その理由はどこにあるのですか。

 参事官 多くの国がこの問題を人道的な観点から取り扱うために、慎重かつ静かな形での対応を要求しております。そこがまさしく信頼関係という点では一番大きな事情になります。

緒方 好ましくない影響は

参事官 ブローカーなど介入推定

 緒方 政府が、「脱北者」をめぐる対応で、「慎重かつ静かな対応」「関係国との慎重な協議」「関係国との信頼関係」を強調してきたのは、この問題が北朝鮮の内政にかかわる問題であると同時に、文字通り関係国にかかわる影響が大きい問題だからだと思います。そこでうかがいますけれども、法案は政府に、「北朝鮮当局による人権侵害問題」への対処に関する「年次報告」の提出と公表を義務付けています。この報告には、「脱北者の保護・支援状況」が当然、含まれることになると思うんです。外務省の谷内事務次官は、昨年二月の記者会見で、在外公館で保護している「脱北者」にかかわる具体的な情報開示は「差し控える」との考えを示されましたが、それはなぜですか。

 参事官 脱北者の方につきましては、脱北者ご自身の身の安全、それから北朝鮮に残っておられるご親族および関係者の身の安全、それから先ほど申しました関係国との関係、それから今後、類似の案件、継続的に発生しておるわけで、好ましくない影響が及ばないという観点から、情報開示については慎重に対応しておるという事情はございます。

 緒方 「好ましくない影響」というのは、例えば行動を誘発するとか、そういうことですか。

 参事官 その点もございますし、まさしく脱北したい方が脱北できないような状況が発生することも考えられると思います。

 緒方 あわせて法案は、「脱北者」支援の行動を行う「国内外の民間団体」に、政府が「財政上の配慮その他の支援」を行うことを定めています。これまで政府は、「脱北者」にかかわる費用について、これを明らかにすれば、「政府の財政的援助の一端が明らかになり、脱北者の保護の要請を誘引することになりかねない」として公表してきませんでした。「脱北者」の保護に関する費用の公表が、保護要請の誘引を招くとはどういうことになりますか。

 参事官 すでに一部の国で起こっていることでございますけれども、財政支援の全体を公表することにより、本来、人道的観点から取り扱われるべき問題にブローカーなど違う視点を持った人の介入が推定されるということがございます。

緒方 拉致問題解決の障害に

 緒方 今回の法案で、「脱北者」の「保護・支援」を国の施策として明記する以上、政府がいかに「脱北者」の保護要請の誘発を警戒しようと、今後は、北朝鮮からの脱出の動きを国家の行為として促進することになりかねません。これまで人道上の必要に応じた措置をとってきたわけですけれども、今回の法案をもって、北朝鮮からの脱出を促すことになるとしたら、これが内政への介入ということにならざるを得ない。そういう懸念があると思います。

 麻生外務大臣におうかがいいたします。「脱北者」問題は北朝鮮の内政にかかわる問題であり、その対応は、関係国との慎重な協議が必要なもので、対応を間違えれば、信頼関係さえ損なうおそれがある、そういう性格の問題だと存じます。他方、日本の主権を侵害した重大犯罪である「拉致問題」は、アジアだけでなく世界での理解と支持を広げ、いっそう外交努力を強めることが求められていると思います。このことは先日、大臣もこの委員会でお認めになった通りです。こうした重大局面で、この法案が「拉致問題」の解決にも障害になるという懸念、可能性はないでしょうか。

 麻生太郎外相 いろいろとご意見はあろうと思いますけれども、少なくとも今後、この法律に基づいて運用していくわけですが、拉致問題の解決をはじめといたします北朝鮮の人権問題、人権侵害問題を解決するということにつきましては、これまでも政府としては真剣に取り組んできた所です。したがってこの法律が仮に成立するという前提で申し上げさせていただければ、政府としては立法府のご意思というものを十分に踏まえて、例えば国民世論のケアを含めまして、国際的な連携の強化とか、脱北者の支援など本法に規定されておりますいろいろな点につきまして、よりいっそう適切に対処していく所存とお考えいただければと思います。

 緒方 適切に対処されるということですけれども、谷内事務次官が、六月十二日の記者会見で、「この法律が成立したからといって直ちにどうこうしようとは考えていない」という発言もあります。したがって私は、法律が成立しても、「直ちに施策を実施しない」といわざるを得ないところに、法律の重大な問題点があると考えます。そのことを指摘して質問を終わります。


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