2006年6月14日(水)「しんぶん赤旗」

エレベーター事故 これだけの大問題

多重安全策 生かされぬ教訓

各地で事故 実態把握されず

コスト削減 安全性調査必要


 東京都港区の公営(区立)住宅「シティハイツ竹芝」(二十三階建て)で、エレベーターのドアが開いたまま上昇し、高校生が死亡した事故から十日たちました。高層マンションや団地で生活する人々に不安を与えています。製造したシンドラーエレベータ社などに捜査が入っていますが、多くの問題点が浮かびあがっています。


欠陥か維持・管理の問題か

 建築基準法は「エレベーターはドアが完全に閉まるまで動かない仕組みにしなければならない」と施行令で定めています。また、維持と管理の責任が建物の所有者や管理者にあると規定し、年一回の検査を義務付けています。エレベーターの構造そのものに欠陥があったのか、それとも維持や管理の仕方に問題があったのか、両側面から原因を究明する必要があります。

 とくに「多重安全の考え方」は、事故防止対策の原則となっています。

 二〇〇四年三月、港区の六本木ヒルズで、六歳男児が自動回転ドアにはさまれて死亡したことを契機に、「自動回転ドアの事故防止対策に関するガイドライン」(同年六月、経済産業省・国土交通省)が作成されました。同「ガイドライン」は、「一つの対策が十分機能しなかった場合でも事故防止が図られるようにする多重安全の考え方に基づき、多重的で余裕のある対策を講じなければならない」としています。この考え方はエレベーターにも適用されるべきで、結果としてこれが、なぜとられていなかったのかを検証する必要があります。

大事故の前にはかならず予兆が

 今回の事故を契機にシ社製エレベーターの不具合が全国で起きていることが明らかになりました。東京工業大学すずかけ台キャンパス(横浜市)では〇五年八月以降で十四件の不具合がありました。〇四年十一月の愛知県庁舎での急降下事故、〇二年末の大阪府のレジャー施設での急上昇などのほか、「閉じ込め」事故が多発しています。

 国交省によると、シ社製エレベーターは全国で八千八百三十四基あり、そのうち六千九十六基が保守管理もシ社が行っています。問題はトラブルの多発が把握されていなかったということです。

 「シティハイツ竹芝」でも〇三年四月以降、三年間で、二基合わせて四十三件の不具合が起こっていたことが判明。それ以前も「十階から一階まで急降下した」という事故があったことが住民から報告されています。

 大きな事故の前には、予兆となる出来事がたくさんあり、それを見逃さず、芽のうちに対策を講じれば事故を防ぐことができる―あらゆる事故の法則です。その点で今回の事故では管理に関する情報のほとんどが自治体や保守会社などに集約され、分析されることはなかったとされ、保守管理のあり方についての問題を感じさせます。

低入札価格 調査の対象に

 シ社による低価格落札は、国交省の地方整備局などが発注した国の合同庁舎などの工事でもあったとされています。近畿整備局が発注した木津地方合同庁舎(京都府)のエレベーター設備工事では、十社が参加した昨年十月の入札でシ社が予定価格の79%の二千三百四十万円で落札。安価な入札できちんと工事が行われるかどうかを調べる低入札価格調査の対象となったとされています。(「読売」九日付)

 国交省はシ社製エレベーターの緊急点検を全都道府県に指示しました。

 シ社製エレベーターは、とりわけ公共住宅でのシェアが高く、全国シェア1%に対し、UR(都市再生機構、旧公団)住宅は4%近く、東京都営住宅では、二千九百四十二基中三百四十四基で11%以上に達しています。不具合の発生状況を把握するとともに、緊急点検を行うことが必要です。

 (日本共産党国民運動委員会 高瀬康正)


ドア開いたまま動く 4月にも事故

シンドラー社、検討会も開かず

 事故発生から九日後の十二日夕になってやっと開いたシンドラーエレベータ社の社長会見。ところが、浮かび上がったのは、「エレベーターは安全な乗り物だ」と強調する同社の無責任な姿勢でした。“ドアが開いたままエレベーターが動く”という、あってはならない重大事故を、ことし四月に起こしながら、対策の検討会も開いていなかったことがわかりました。(宇野龍彦)

 ドアが開いたまま同社製のエレベーターが動く事故はことし四月二十二日に東京・八王子市で発生。エレベーター事業の最高責任者のローランド・へス氏は会見で、「死亡にもいたるシビア・アクシデント(重大事故)で、ドアが開いたまま動いてしまうのは許されない。ただちに役員会で検討すべき問題にあたる」と説明しました。

 しかし、同社は三人が一時的に閉じ込められた八王子事故についての技術検討会も開かず、臨時の役員会などにもいっさい報告しないまま、今回の死亡事故にいたりました。

 同社の西村智行・新設事業本部長は「タイミングの問題だった。八王子の事故の前に、すでに四月の検討会を開いていた。検討会は二カ月に一度なので六月中旬に開く予定だった」と釈明しました。へス最高責任者は「先週の金曜日(九日)に日本に到着し、記者会見の前に八王子の事故のことを聞いた」と語りました。死傷事故にもいたる重大な欠陥究明が、同社では棚あげ状態にされていたのです。

 一方、ヘス最高責任者らは、ドアが開いたまま移動する可能性について、モーターが誤作動する場合と、固定するブレーキが甘く重りが降下してかごが上に動きだす場合があると指摘。この誤作動を防止する安全装置をつけていなかったことなど、安全軽視の姿勢が露呈しました。

 「ドアが開いたままエレベーターが動く重大事故がこれまで同社製でどれほど発生していたのか」と、報道陣から繰り返し聞かれても、件数や状況の公表を拒みました。しかも、死亡事故の七、八割が「閉まったドアを無理やり開けて落ちた」などの人為ミスによるもので、残りはメンテナンス中のものだと責任逃れの説明に終始しました。


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